永久磁石で永久機関は作れないのか

ご存じの通り現実には永久機関は存在しません。

永久機関とは、外部からエネルギーを貰わなくても、外部に対し仕事を続ける装置です。実現すればエネルギー問題は解決します。しかし、実際は摩擦などのエネルギーロスが発生するため成立しません。この事象は熱力学第二法則で説明されています。(第一法則はエネルギーの保存則です)


一方、電磁気学の分野では、永久磁石という言葉があります。周囲の環境に左右されず一定の磁力を保つ磁石のことです。それならば永久磁石を上手く活用すると、永久機関が実現するのではないのだろうか。。当然そのような美味しい話はありません。

磁性について

永久磁石の前に、まずは簡単のため磁性の解説から始めます。

「鉄」を想像してください。鉄は磁性という性質を持っています。もっと微視的に見ると、鉄の原子には磁区と呼ばれる領域があり、普段はバラバラの方向を向くことで、磁性を打ち消し合っています。

しかし、磁石を近づけると(着磁すると)、バラバラだった磁区の方向が揃い磁石に吸着します。鉄が一時的に磁石になっている状態です。磁石が鉄から離れる事で、また磁区がバラバラとなり磁性を失います。これを一時磁石と呼びます。

一方、永久磁石とは、一度着磁すると磁力を保ち続ける磁石のことです。周囲の環境に左右されず一定の磁力を保ちます。




永久磁石の用途

電子レンジ、冷蔵庫など電化製品に使われています。例えば、電化製品にはよくモーターが内蔵されています。モーターは、永久磁石と電磁石を用いて電気エネルギーを回転や振動のエネルギーに変換することにより動力源として働きます。他にも、生活に欠かせない電気も、永久磁石で発電機を動かすことで生み出しています。



永久機関になれない理由1

まず第1の理由が減磁するため(磁力が弱まるため)です。減磁の要因は様々あります。

1.経年減磁

永久磁石は微量ながら使用と共に磁力が減ります。この現象を減磁といいます。

ただし、その減少量は年間でも-0.1~0.3%程度で実用上問題はありません。経年減磁よりも、温度変化や反発負荷による減磁の方が遥かに大きく問題です。

2.腐食による減磁
錆びによる組成変化によっても減磁します。
温度や湿度環境によって、錆びが発生し減磁へと繋がる恐れがあります。

3.高温減磁
温度上昇で磁力を失います。熱エネルギーが加わることで、磁石を構成する小さな磁石(磁気モーメント)が振動し、その小さな磁石が方向性を失うことで磁力が減ります。

この事象を高温減磁といい、磁力ゼロとなる温度をキュリー温度といいます。磁石をキュリー点以上に加熱し、室温まで戻すと完全に磁力を失います(熱消磁)。

4.低温減磁
永久磁石の材質で変わりますが、低温にさらされることで減磁する場合があります。 この現象を低温減磁と呼びます。

5.外部磁界
外部から磁界を近づけることでも減磁します。例えば、N極にN極を近づける行為も該当します。大きな電流や磁力が流れる機械の周囲では注意が必要です。

6.衝撃
衝撃が加わる事で磁束の向きが崩れ減磁します。

7.自己減磁
自身が発する磁界の影響で生じる減磁です。
磁石の外部に流れる磁束と、磁石の内部に流れる磁束が反発する事で生じます。




永久機関になれない理由2

第2の理由は力の流れに変化が生まれないからです。永久磁石を設置しただけでは、いつか力が釣り合い静止してしまいます。

例えば、強力なN極の床に、N極でできた球を落下させるとします。当然落下させる高さにもよりますが、十分高い位置から落下させた場合、最初の数回は球はバウンドすると思います。しかし次第に、上向きの磁力と下向きの重力とが釣り合ってしまい、球は静止します。

この球が永久に動き続けるためには、磁石側が永久に動き続けなければいけません。この条件から既に、外界からのエネルギー供給が不可欠であり永久機関は成立しません。  

よく誤解しやすいですが、永久機関で大事な事は『永続的に力が作用すること』ではなく『対象物が永久に動き続けること』です。





永久機関になれない理由3

またそもそもNだけSだけといった理想的に片方の極だけを有する物質が存在しないことも第3の理由として挙げられます。磁石には必ずN極とS極の両方があり、どこで切断してもN極とS極が両立した磁石となります。
(そういったモノポリマーという単極子を開発しようという研究は成されてはおりますが)




あとがき

以上、3つの理由を解説しました。なお永久という名称ですが、実際のところ永久磁石は、磁力を永久に保持するわけではありません。比較的長期にわたって保持し続けるだけです。


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