社会的思考力の話


ビジネスでは論理的思考力が欠かせません。耳にタコができるほど言われています。しかし最近では、単なる論理的思考力ではなく「社会的思考力」が求められています。



社会的思考力とは

社会的思考力とは、論理的思考力、対課題能力、対人能力を組み合わせた新しい概念です。

具体的な定義は「ある状況や場面・文脈の中で最適解を導くために、テクストや出来事、自他関係を理解し、自らの考えを主張して他者と対話的に考えを深めると同時に、そうした過程を振り返る力」です。


思考力と言われると、頭の中で筋道を立てて考えるイメージですが、実際はそれだけではありません。他者との人間関係の中でも思考力は深まり、調整されていきます。

つまり、いくら論理的思考力が高くても、それは自分だけの論理性であり、チーム内や組織内で合意されたものではありません。本当の思考力では「論理的思考力」だけでなく「社会性」も必要となります。



社会的思考力の要素

社会的思考力の要素は6つあります。その内、4つが「論理的思考」に関するもの、残り2つが「社会性」に関するものです。



論理的思考力

論理的思考力は次の4つに分類されます。

【1.俯瞰的把握】
文脈や出来事を俯瞰し、全体構造を過不足なく把握、単純化し図示する力です。

俯瞰的把握力を測るには、例えば、若年層の就業困難など、社会課題をテーマにした文章から、キーワードとなる語句を抜き出させ「原因・背景→結論」という文章の展開図を作らせると明らかになります。



【2.仮説的思考】
仮説を立てたり結論を想定したり、見通しを立てながら物事を考える力です。 代表としてフェルミ推定があり、例えば 「国内に野球場はいくつあるか」との質問に対し、仮説を立てながら結論を導き出していきます。



【3.プロセス展開】
因果や価値の連鎖、出来事のプロセスを捉え、順序良くストーリーを展開する力です。長期的な展望を持ち、そこから中期的な戦略を導き出し、その戦略を実行するための短期的な戦術を見出す力です。

プロセス展開力を測るには、例えば「新会社を立ち上げ、初めてオーダーを受けた会社が、どのような仕事の工程を作成するのか」を考えてみます。




【4.論理的主張】
データと主張をつなぐ客観的な論拠を明示し、論理的な一貫性をもって主張する力です。

論理的主張力を測るには、例えば、死刑廃止に反対するある「主張」の論理上の問題点を指摘させ、その「主張」の客観性を高めるにはどのような資料が必要かを答えさせます。




社会性

社会性は次の2つに分類できます。

【5.情況的思考】
チーム内で意見が対立するメンバーが出たとき、それを抑えつけるのではなく、相手との対立点を理解し相手がその結論に至るまでの試行錯誤や心情を理解しようとする思考力です。

例えば、ある大学のサークルで副キャプテンの熱意が空回りし、他の部員とうまくいかないという情況を提示し、与えられた情報からその原因と考えられるものを取り出させます。

また「もしあなたがキャプテンだとして」取りうる行動を挙げさせ、「副キャプテン」と「部員」の問題点だけではなく「キャプテン」としての自分自身の問題点を視野に入れられるかを見ます。



【6.省察的思考】
省察(せいさつ)とは「自分のことをかえりみて考えめぐらすこと」です。チーム内で意見が対立したメンバーとの対立点を調整し、最適な着地点を模索する思考力です。

省察的思考を測るには、特定の状況が設定された小説を読ませ、その小説の最後の結末を推定させます。このときユニークな表現力や創造性を見ることも可能です。




社会的思考力とリーダーシップ

社会的思考力はリーダー要件であることが実証分析でも示されつつあります。

また、社会的思考力の各要素の中でも特に俯瞰的把握がリーダー要件として重要であることが明らかになっています。




参考文献

大久保幸夫、兵藤郷、大学と企業との接点としての 「社会的思考力」、Recruit college management 29 (4), 42-45, 2011
リクル-ト


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