ストリートファイターのプロリーグにパンピーがアナリストとして挑んだ時のお話 part3

 はい、と言うわけでやってきました、今回はパート3になります。
 パート1とパート2をまだ読んでいらっしゃらない方は先にそちらを読むのをお勧めします。 
 前回冒頭で「パート3ぐらいで終わらせたい」と書いたものの、そこから書き進めるとまー終わらないこと終わらないこと、どんどん思い出してきますね。
 というのも丸1年前のことなので流石に細部は忘れている部分もあり、ディスコードの記録を見返しながらせっせと書いているところであります。

 今回も本編に入る前に一つ、アナリストをやってみてわかったことがあります。
 スポーツと格闘ゲームでは分析の終着点が少し異なるということです。

 以前に書いた通り、私はプロ野球などのプロスポーツに元々興味があった人間です。なので今回は野球を例にとります。
メジャーリーグでセイバーメトリクスなどが導入されて以降、「効率化」というものが進みました。例えば、「この選手の打球はほとんど1塁側にしか飛んでないよね」というデータがでたら、三塁手が一塁手と二塁手の間に入り、三塁の近くはガラ空きにするという極端な「守備シフト」というものが始まったり、「いっぱい点取るなら全員ホームラン打てば良いよね」となったら、ホームランになりやすい角度でバットを振る研究など、「最大効率を実現する練習」が進みました。
 これらは効率的であるのは確かなのですが実は落とし穴がありました。それは試合が大雑把なものになり楽しみが薄れるということです。行きすぎた効率化は思考を必要としなくなり、いわばそのスポーツ独特の「風情」が損なわれてしまうことにもなってしまったのです。
 その他にはバスケットボールも、1プレーでもっとも点が入る3ポイントシュートの爆増や、シュートの中で最も成功率が高くディフェンスファールを誘うこともあるダンクの重要度が増し、プレーの内容に変化が起きたというケースもあるようです。

 ということは格闘ゲームにも解析の先に変化が訪れるのでは?と考えるのは自然なことでしょう。

 しかし格闘ゲームは「最大リターンを狙う=勝利」に必ずしも結びつかないという点がここまで上げたスポーツとの違いになります。
 それは野球やバスケットボールと格闘ゲームでは得点の獲得に対するリスクがあまりに違うからです。
 野球では攻守が完全に分けられており、攻撃に失敗したからとして得点を失うことはありません。バスケットボールにおいてもシュートの失敗=失点という図式ではないものの、失点のリスクが発生するため、シュート成功率の部分もダンクの再評価という部分で補われています。
 しかし格闘ゲームの場合、「最大リターンを狙う」という行為、例えば「ジャンプ攻撃を当てることをひたすら狙う」、「前歩きから昇竜を当てまくる」といった失敗すると直接失点する「リスクリターン」の部分を無視できません。つまり最もリスクを減らした上で大きなリターンをとれる行動、すなわち「最適解」を目指す作業となります。そして最適解のその先にくるのがおそらく「相手に対して有利なキャラを当てる」という作戦になるはずです。

 そう、みなさんもお気づきでしょうが、SFL2022でGood8Squadはこの結論にたどり着き、そして実現させました。カワノ選手の二度の奇襲は記憶に新しいことでしょう。
 もちろん「有利なキャラ」というアドバンテージはありながらも、やはりクオリティの高さというものは要求されるのは当然というなかで、カワノ選手は元々メインキャラに据えていなかったルシア、ルークの2キャラを急ピッチで仕上げ、見事本番で奇襲を成功させています。

 スト5最後のシーズンで理想の作戦を見事成功させたGood8Squadはまさに王者と呼ぶにふさわしい取り組みを2022年に持ってきていたと言えるでしょう。
 この奇襲は2021年のときど選手のバイソンピックと合わせて、格闘ゲームの教科書に太文字で載せるべき出来事だと思います。 
 そしてスト6ではキャラを複数持つことが主流になるのではないかとも思っている次第です。

結構脱線してしまいましたが、それでは本編に行きましょう。
 前回はEVOアジアで板ザン選手にリベンジを誓うも返り討ちにあったところまででしたが、今回はその続きからです。

7.ついにSFLへ、ある男の登場で事態は劇的に変化

 最初の目標であったEVO アジアが終了し、SFL開幕を1ヶ月後に控えたこの頃、ついに私たちはGood8Squadのオーナーさんと直接やりとりする機会があり、SFLでの戦略担当アナリストとしての役割を頂戴することになりました。
 1ヶ月後に控えたSFLに向けて私たちはまず取り組みの見直しを図ることにしました。と言うのも今のままでは集計時間があまりにかかるため、次の試合がすぐにやってくるSFLの期間中にデータの数量を用意する負担が凄まじいと言うことと、何かしら外部の声を聞きたいというガチくんの思惑の両面があったからです。
 そこである男がここで登場します。ガチくんの戦友であり、同じくGood8Squad所属のぷげら選手です。
 彼を交えて今までの取り組みを説明しながら、どういったデータがあるとわかりやすいだろうか、どのようなデータなら負担を減らせるのだろうかという会議は始まりました。ここでぷげら選手から一言「多分防御見れば、攻めの答え出ますよ」と。
 そう、私たちは攻めのパターンを全て出せば答えが見えてくると思っていたのですが、例えば直投げ、コパ投げ、コアコパという3つの攻めパターンが存在したとして、これらの選択肢は全て遅らせグラップで対応することが可能です。だからこそ遅らせグラップという守備側の視点で計測すれば、いちいち細かい派生を考える必要がないではないかと、そして相手の防御の傾向がわかればそれを裏切ればいいだけなので、多分こっちの方がスッキリするんじゃないかということでした。我々は目から鱗、この男やっぱりゲームに関しては天才かと思いながら、集計の形に大幅な改良が加えられたのでした。
 

8.新集計シートのパワーアップ要素とは
 
 ぷげら選手の提言を取り入れたこの段階で10試合ほどの計測で2時間ぐらいで集計ができるようになったのですが、シートの負担減が行われたということは、その分新しいデータが盛り込めるということです。「もしかして気が狂っているのか?」と思われるかも知れませんが、追求できる部分は追求しなくてはこの取り組みを始めた意味がありません。最良の選択肢を目指すため、データを追加していきます。
 新しくデータに盛り込み始めたのがまず「前ステへの対応」の部分です。相手が前ステされた時のリアクションを集計、弱攻撃で止めたのか、投げを押したのか、はたまたガードしたのかというのを集計し、その人の前ステへの意識のレベルをみることにしました。起き技との区別をするため、リアクションタイムの概念を考え、ステップ実施から10F以内にボタンを押されてるものは無視しての計測です。
 そしてさらに端投げ後の相手の選択肢も細かく見ることにしました、前ステでは微不利を背負いながらも、打撃ならば重ねができることが多い端での前投げ後の攻めと防御の両パターンを掘り下げました。
 そしてガチくんの動画の中でも話題に上がっていた、ユリアンのエイジスリフレクター択の分析です。1枚につき計4回のガードが起きるエイジスの、各ガード時にユリアン側が行ってくる択を1段ずつ計測するのはもちろん、エイジスを発動してくる行動まで1枚目と2枚目に分けて集計し、さらに端でエイジスコンボの表裏択をよく仕掛けてくるプレイヤーも抽出しました。

 そしてこの頃からBくんはガチくんを担当、私はぷげら選手を担当という形で担当制にシフトし、さらにぷげら選手用にバイソンのダッシュストレートに対する相手の対応を「すかし狙い、歩きガード、垂直飛び」などもろもろに分類、そして距離をとって対応したいタイプのプレイヤーならばその時の立ちしゃがみの状況をチェック。相手が立ち姿勢が多いならばEXダッシュグランドブローを打つ基準にするということで、何故あれだけEXグランドがヒットするのかというところが非常に腑に落ちました。
 さらには後ほど出てくるであろう“ある試合“に向けて特別な集計ポイントをも受けることもありました。

 そして時は流れ9月下旬、10月の頭にはついにSFLの初戦、対魚群戦が迫っていました。
 Good8SquadのスタッフとしてとSFLの対策会議に参加させていただくこととなり、相手チームの練習の様子からオーダーの予想なども会議の中でやりとりしたりとなかなか他の方には味わえない経験をさせていただきました。

 そしてこの時私は、Good8Squadの勝ちに全てを捧げるという決意を固めます。

 というところでパート3はここまでです。次回パート4からは“闇の仕事“が始まります。
 すいません、前置きがだいぶ長くなってしまいました、次はサッと進められるようにします。
 日曜あたりにパート4出せたらいいな


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