見出し画像

マッサージ屋はたまに人の人生を眺めることがある①

或るマッサージ屋の日常9

14時から26時までの受付のマッサージ店で働いていたときのことだ

店舗でのマッサージ予約
時間は30分、女性

夕方にならないくらい、15時くらいだった

こんにちわー
予約したaです

と、来店されたのは本日のご予約のお客様
小柄でセミロングくらいの女の子
20代前半くらいだろう

簡単に必要事項を記入してもらう
どうやら背中がツラいとのことで来店されたようだ

もう背中がツラくて、座ってるのがツラいんです
とのこと

あとは喘息があって、背中がツラくなると喘息気味になるという

一応説明はしておく
アレルギー性の喘息の場合、マッサージで良くならないかもしれませんよ?
それでも良いですか?

とりあえず背中がツラいのでほぐしてください

と、言われる

マッサージ開始

施術しているともぞもぞ動かれる
背中がすごくくすぐったいそうだ

あはははは!
ちょっとくすぐったい!
と言われる

たまに凝りすぎて背中の感覚異常を起こしてるお客様がいらっしゃる

その場合3パターンに分かれる

感覚が鈍くなっていて、もっと強く押してくれ
ちょっとでも押すと、痛い
普通にマッサージをしていてくすぐったく感じる

というパターンだ

このaさんは明らかに3番目のパターンで、背中はガチガチ

かなり我慢していたようだ
もういい加減痛いし喘息みたくなるし…
背中だけでもほぐしておきたい
ということで来店されたようだ

くすぐったいのはちょっと我慢して下さい
と、伝えてしっかりほぐすように施術した

終始くすぐったいのを我慢してプルプルしていたが、終わったあとは楽だったようだ

お会計をして、本日は終了

2日ほど経ったときに2回目の来店

前回終わったときに喘息の症状も治まったらしい

ちょっと良くなって驚いたから、また来たよ
と、指名を頂いた

たまに意図してない施術効果が出ることがある
今回はそんな形だ
普通は小児喘息なんかはマッサージで治すものではないが、たまたま過敏だったものが落ち着いただけだろう

そのことも伝えながら、施術開始

前回はくすぐったくてプルプルしていたから話さなかったが、今回は余裕がある
プルプルしてない

そうしたら

私、風俗嬢なの
と、言われた

キョトンとした僕を見て

抵抗ある?
と、聞かれる

僕がキョトンとしたのは
仕事を聞いたところで、施術の仕方は変わらないし態度も変わるわけではない
足が八本あったりするなら別だ
しかし目が3つあっても
体の形が一緒ならば施術には問題はなさそうだ

なぜ職業を伝えられたかが分からなかったからキョトンとしたのだ

何も抵抗ありませんよ
そう伝えた

ふーん
と返ってきた

それからは話すようになった
明るい子で指名客も多いらしく、そこそこ稼いでいるということまで教えてくれた

ある日は
今日お客さんに通帳貰ったの!
500万入ってた!!でも怖いし、多分どうやっても下ろせないから返してきた!
と、表情豊かに教えてくれた

おお、すごいですね!
でも銀行にお金下ろしに行ったら捕まりますね
と、返した

なるほど
話しやすくてかわいい
これはモテるだろうな
と思った

それからも数度、aさんは来店され
ご友人もご紹介頂いたり

ホスト行くより健康的でいいよねー
と、ご友人を紹介して頂いたり

右手で壁!左手で握る!
の名言を残されたりしていた

終始明るく振る舞うので、深夜のご来店でも店内がパッと明るくなったように感じた
喘息の症状もほとんど出なくなったようだ

しばらくして、来店されなくなった

僕はというと
そのお店を辞めて別のお店で働いていた
働き始めて2ヶ月くらいたったある日

tさんという方から2名で指名予約入ってるよ
と、受付スタッフから伝えられた

僕は勤めてまだ2ヶ月くらい
指名が入るほど人数はこなしていない
聞き覚えのない名前だ、誰だろう

しかも2名連続、変わった予約だな
と思っていた

ガラガラガラ
自動ドアが開き、2名入ってきた

僕が出迎える

こんにちは

あれ!aさん?!
驚いた

最後に施術してから4ヶ月ほど経っていたが、前のお店に僕の所在を聞いて来店されたらしい

tさんというのは…?
と聞いたところ

私の名字!
知らなかったでしょ!
と、ニコニコしながら教えてくれた

そして後ろには男性
身長は165センチくらい
パーマをかけていて、少しだけ小太り
イケメンというほどでもないが、清潔感のある若者だ
しかし明らかに不機嫌だ、ムスッとしている

挨拶しても返してくれない

内容は60分で2名施術してほしいとのことで、30分ずつ

最初にtもといaさん

明るい感じは変わらず、この4ヶ月でこんなことがあったよーと教えてくれた
喘息のような症状も出ず、調子はそれほど悪くなかったようだ

そして施術が終わる頃

前のお店で話したことは話さないでね
あの人知らないことたくさんあるから
と、小声で伝えられた
それと

最近できた彼氏なの!
と、小声の部分をかき消すかのように少し大きめな声で教えてくれた

僕は
大丈夫ですよと言いたかったが、言うとまずい気もしたのでグッと親指を立てるだけにした

カーテン1枚で聞こえると大変だ

交代して、次は彼氏
やはりムスッとしている

あんまり話してくれないが、腰がつらそうだ

ずいぶん腰ツラそうですね
と、言ったら

運送屋なので
とだけ返ってきた

施術が終わる頃

あいつとは付き合い長いんですか?
と、聞かれたので

半年くらいのお客様ですよ
いきなり見えられたので、驚きました
と返した

施術が終了し、お会計が終わり二人とも帰っていった
なんか疲れた

3週間後くらい経った頃

dさんという名前で指名予約が入った

知らない名だ
誰だろう

しばらくして、自動ドアが開く

ガラガラガラ

出迎えると、aさんの彼氏だった

こんにちは
この間はどうもー
と、挨拶した

すると
腰が痛くて…
と返ってきた

状態によってはマッサージすると悪化するとこもあるので、様子見ますね
と、伝えて様子を見る

すると腫れているわけでもなく、熱もない
単純に疲労からきているようだ

なにかしたんですか?
と、聞いてみる

オレ長距離トラックの運転手をしてて…
荷物多くて、運んでたら腰痛くなってきたんです

実に痛そうな声だ
とりあえず歩けていて、もともと腰痛持ち
腫れて熱を持ってるわけではない
叩いても痛みはない

ということで、普通に施術することにした
時間は一応短めで30分コース

恐ろしくガッチガチだ
施術開始

施術しながら、少し話をした

dさんはどうやら彼女の元お客様らしいことがわかった
そして店に通って頑張って口説いた
付き合って3ヶ月くらい
いきなり僕の名前が出てきて警戒した

ということを教えてくれた

それでムスッとしてたんですか
と、返し

大丈夫ですよ
お客様には手を出しませんし、連絡先も知りませんよ
だから前のお店に僕の勤め先聞いたんですよ
と伝えたら、少しホッとしたのか会話が増えた

他のお客のことなんか言ってなかったですか?
と聞かれたので

あんまり他のお客様の話はしなかったですねぇ…

と嘘をついた

そうですか…
と、返ってきた

腰の症状は、それほどでもなく
ただただ疲労しているだけだった

施術後は50%ほど痛みが取れたようだったので、次回来院の予約をとってもらった

2回目のときはそれほど痛みは強くなく、普通に施術ができた

かなり話すようになった

彼女への愚痴なんかも聞いた
口説くときは通って大変だったとか
こういうとこが好きだ
あとこの辺が痛い

dさんは会話好きなのがわかるほど話をした

腰の調子も悪くなさそうなので、次の予約は取らずあまり痛みを我慢せずに来てください
と伝えた

わかりましたー!
と元気に帰っていった

なんだ、明るくていいお客様じゃないか
最初の印象とはまるで正反対だった

それから1ヶ月に1度はマッサージを受けに来た
ニ人で来るときもあり、たまに一人で来るときもあった

何度目だろう
4回目くらいだったと思う

オレ、結婚しようと思うんですよ
アイツと
と、唐突に切り出された

だったら稼がないとないですね
いつまでも風俗というわけにもいかないでしょう

余計なお世話かと思ったが、そういうふうに話せる間柄にはなっていたからだ

もうさせてませんよ
付き合ったときから同棲してます
と返された

僕は驚いた
この子には覚悟があったのだ

このとき僕の口から出た言葉は

すばらしい

だった

それだけdさんがしっかりしているなら大丈夫ですよ
あとは頑張って!
と、背中を叩いて施術を終了した
少し苦笑いをしてたかのように思えた

それから2ヶ月後くらい

dさんの予約が入った

久しぶりですね
お元気でしたか?
と、出迎える

施術をしながら

久しぶりですね
実はあれから子供ができてることがわかって、結婚したんですよ
と教えてくれた

僕はなんだか、とても嬉しく思えて

おめでとうございます!
としか出てこなかった

いやー大変ですよ
ほらマリッジブルーとかいうじゃないすか
嫁が気が立って大変です
と、軽く笑顔でため息をついていた
左手にはリングをはめている

子供の分まで稼がないとですね
僕はハッパをかけることしかできないけど、腰が悪くなったらまたいつでも来てくださいね
と、冗談混じりに言いつつ施術を終了した

その後は知らない

今となれば、お子さんも高校生ぐらいになるのだろうか
良い人生を送られてることを祈る

実際あった話しか書けませんが、気が向いたらサポートお願いします