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ひとつのことばがせかいをかえた

三歳になった息子。覚えたての言葉はぎこちなくてどことなく暖かい。

窓の向こう。消えていったサイレン。
消防車のミニカーに夢中だった彼は本物のそれが近くにいたことに気づけなくて一生懸命教えてくれた。
「僕も聞こえたかった」
聞きたくても聞けない音があることを知っているみたいだ。
能動と受動。積極だけど受身。自発と他発。望むけど偶然待ち。
そんな言葉があってもいい。
国語のテストでどうかマルをつけてあげてください。

レジで駐車券を車内に忘れたことに気づいた。
疲労もそこそこあるのに、車までの距離もそこそこある。
夫婦が発する苛立ち交じりの雰囲気を払うように下から聞こえる声。
「明日、取りにいこうか」
時系列を示す言葉をまだ上手に使えない彼。でも伝えたいことはわかった。
僕と嫁は顔を見合わせて「そうだね」って頭を撫でながらうなずいた。駐車券を忘れてくれたおっちょこちょいな嫁のおかげで優しい時間に会えた。

「後で拾ろうか」
保育所の駐車場に繋がる道は狭い。さらに溝付きのクランク(90度カーブ)まである。それを曲がった時に起きたガツンという小さな衝撃。「タイヤを溝に落としそうになった」と安堵交じりにつぶやいた嫁に「じゃあタイヤ後で拾おうか」とチャイルドシート上からの提案。落ちたら拾えばいい。そのとおりだよ、それだけのことだよね、本当に。

彼の言葉はさりげなくて裏に隠した意図もない。
ついイライラする気持ちをすっと和らげてくれる。

僕は胸を張れるほどの育メンではないけど、期間限定の今を丁寧に過ごしたいなと、ほのぼの思わせてくれる。

いつかあなたにもあった素敵な言葉を教えてほしい。

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