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なぜMTGは僕を惹きつけるのか

みなさん、ご無沙汰しております。シミチンです。

最近、MTGアリーナの日本語版リリースや、Eスポーツ化の流れを受けて色々とMTGの界隈が盛り上がっています。
今回は、こうしたことをきっかけにMTGに興味を持ってくれた人に、自分の経験から“MTGの魅力”を語りたいと思い、記事を書いてみることにしました。

今自分はアメリカで行われる Mythic Championship Clevelandに向けた機内で、キーボードを叩いています。Mythic Championshipは今回から新たに名称変更したもので、これまではPro Tour(プロツアー)と呼ばれていました。プロツアーでは、世界中で開催される予選大会を勝ち抜いて来た強豪のマジックプレイヤー達が一堂に会し、総額数十万ドルという規模の賞金をかけて戦います。

2012年、バルセロナで行われたPro Tourの準々決勝

僕はこのPro Tourで結果を出すということを目標に、およそ15年MTGのプレイを続けてきました。その間には受験や就職、結婚、そして妻の出産といったライフイベントもありましたが、MTG自体への熱が冷めきってしまったことはありません。

何故MTGはかくも僕をこんなにも惹きつけてやまないのでしょうか。

【ゲーム自体の魅力】

世の中にゲームというものが溢れているこの時代ですが、まずはその中でも僕がMTGのゲーム性で魅力に感じるのは何なのかをご紹介します。

<世界観>

MTGは約25年前にアメリカの数学者が開発した世界で最初のトレーディングカードゲームです。プレイヤーは一定のルールのもと、さまざまな呪文や、魔法生物(クリーチャー)などのカードで構成したカード60枚の組み合わせ(デッキと呼ばれます)を互いに持ち寄り、対戦します。この60枚のカードを無作為にシャッフルした上でお互いの番に1枚ずつ引いていき、呪文やクリーチャーで攻撃して対戦相手のライフを0にすれば勝ち、というのが基本的なルールです。呪文やクリーチャーは、まるで絵画のような美しいイラストで描かれており、そのイラスト自体に惹かれている人も少なくありません。

<レアだけあればいいってもんじゃない>

よくカードゲームをプレイしていると言うと、詳しくない人からは「レアカードを沢山持っている人が勝つんでしょ」と言われることがあります。しかし、MTGではそうではありません。たしかに強力なレアカードはありますが、今回の世界大会でも、誰でも持っているコモンカードを中心に構成されたデッキが大変有力視されていたりします。そうした現象を起こしているのがカードを使うための「コスト」の概念です。ハースストーンやシャドウバースなどをプレイしたことがある人には馴染みがあると思いますが、MTGにおいてもカードを使うためにはコストが必要です。一般的にはレアカードはコストが大きくて効果も派手なカードが多く、反対に効果は地味なコモンカードはコストが低くなります。MTGでもハースストーンやシャドウバースと同様、ゲーム序盤ではコストの大きなカードを使うことはできないので、必然的にデッキにはコストの低いカード(多くはコモンカード)を沢山入れておく必要があり、結果的に「レアカードばかり」のデッキは生まれにくくなります。

MTGにおける最強の呪文の1つと言われるカードですが、コモンカード

<事故るときもある>

自動で毎ターン1ずつエネルギーが増えていくDCGとは異なり、MTGにおいてはカードを使うためのエネルギー(マナと呼ばれます)を生み出すためのカードも自分で用意する必要があります。それが土地カードです。

土地には大きく分けて5種類あり、それぞれの土地は対応している色のマナを生み出すことができます。そして、その色ごとに得意としている戦術があります。小型のクリーチャーに長けた白、知略に長けた青、攻撃に長けた赤、妨害に長けた黒、大型のクリーチャーに長けた緑、といった具合です。僕が得意としているのはこのうち青と緑で、強力な呪文とクリーチャーの組み合わせによって派手な効果を得やすいことがその特徴です。

青緑の組み合わせは、MTGにおいては”シミック”と呼ばれます

デッキを用意するに際しては、自分が使おうとしているカード全体の構成を考慮して土地をデッキに入れておく必要があり、ゲーム中、この土地を引かなければ全くゲームをすることができません(このケースは事故と呼ばれます)。事故はどんな百戦錬磨のプロでも回避できません。また、事故とまでは行かなくても適時に適切な枚数の土地を引けるかどうかというのはゲームの勝敗に大きく関わります。こうした運が絡むため、将棋をはじめたばかりの初心者は逆立ちしてもプロ棋士には勝てませんが、MTGではルールさえ理解すればどんな初心者でも上級者に勝てる見込みがあります。それがMTGの初心者にとっての魅力であり、上級者にとっての頭痛の種でもあります。MTGの上級者たちは、いかにしてこのゲームから運による下振れを極小化できるのかということに心血を注いでいます。
なお、誤解のないように言及しておくと、このゲームはもちろん運だけで勝てるものではありません。世界大会の上位入賞者を見ると、運が絡むはずなのに何度も入賞している常連組がいます。彼らにも不運は他のプレイヤーと同様にやってきますが、不運ではないゲームでの勝率が尋常ではないのです。そんなプレイヤーになることを目指して、僕たちは常に「どのような組み合わせのデッキが勝てるのか」「どのようにプレイすれば勝てるのか」を追い求めて毎日のように考えを巡らしています。MTGのプレイヤーはこの手の話題が他の何よりも好きなので、仮に相手が初対面の人であったとしても瞬く間に意気投合することができます。

<イメージの具現化>

情報化が進んだ最近では、勝率の高いデッキはあっという間に世界中に広がり皆の知るところになります。しかし僕は逆に、まだ誰も見つけていないカードの組み合わせを見つけ出して相手を出し抜いて勝つという方法が有効であると何年も前から考えています。この瞬間がMTGで勝つ時の中でも至高です(今回の大会でも、皆があまり使わないようなカードを敢えて使っています)。どうやって勝ちたいかを事前にいろいろとイメージして、それを実現させることができる。それが自分にとってのMTGのデッキを作る醍醐味です。僕は大会に出始めてからずっと、基本的にはネット上にあるような皆がよく知っているタイプのデッキを使うのではなく、オリジナルのデッキを使うことを1つのポリシーとしてきました。結果が十分に出ないことも少なくありませんが、逆に結果を出せたときの喜びは何にも代えられません。

今回の大会で使ったデッキも、
ほとんど皆が使わないカードにスポットを当てたものです

<絶妙なバランス調整>

MTGでは、新しいカードのセットが発売されるたびにその時々で有力とされるデッキが大きく変化するよう、適度にバランス調整がなされています。長い歴史の中ではバランスが崩壊しているのではないかと批判されることも幾度かありましたが、逆に長い歴史があるゲームだからこそバランス調整のノウハウも蓄積されており、比較的デッキを作る人にとっては高い自由度が与えられていると言えます。更に、MTGでは古くから「ローテーション」があり、主要な大会で使うことが出来るカードは直近の約2年以内に発売されたものに限定されるようになっており、1年に1度大きく環境が一新されるタイミングがあります。こうしたシステムや、上述したような運要素の不安定さがあることなどもあって、MTGでは「これさえ使っておけば勝てる」という戦略は生まれにくいですし、仮に生まれてもその賞味期限は非常に短いものとなります。

<リミテッド>

MTGの競技ルールには、手持ちのカードを使って構成した60枚のデッキで対戦する以外に、「リミテッド」と呼ばれるものがあります。リミテッドは対戦に使えるカードがその場で開封したパックに含まれたカードに限られるというもので、パックから1枚ずつカードを選んで隣に回して45枚を集める「ドラフト」と、その場で開封した6パック=90枚のカードのみでデッキを作成する「シールド」という2種類があります。

このルールでは二度と同じ組み合わせのカードが配られることはありません。常に臨機応変な対応力が求められます。また、使えるカードがパックから出てきたものに限られる関係上、運の要素も大きくなります。そういったことから非常に難しいルールなのですが、この競技ルールがとにかく好きな「リミテッダー」と呼ばれるプレイヤーは世界中に数多くいます。なお、Pro TourやMythic Championshipではデッキを持ち寄る通常のルールと、ドラフトの2つの総合力が問われる大会になっています。

【Play the Game, See the World】

次に、そんな魅力的なゲームで僕が世界の道を見出した経緯をご紹介したいと思います。

<2005年の世界選手権>
僕は中学時代にこのゲームに出会い、高校時代に地元のローカルな大会に出始めて、大学受験の際にゲームを一度お休みしました。大学受験を無事に終えた僕は、MTGの世界に再び帰ってくることができました。とは言ってもすぐにプロツアーを目指すようなことはなく、当時は(今も根本的には変わっていませんが)自分の好きなカードで遊ぶ、ということがメインでした。
そんな時、横浜でMTGの世界選手権が開催されたのです。
当時の世界選手権はプロツアーの1つとして開催され、その場で国別の対抗戦が同時に開催されていました。また、会場は広く一般開放され、多くの併催イベントで盛り上がっていました。
このイベントに遊びに行った僕は、たまたま出会ったフランス人と意気投合するなどして楽しんでいましたが、本戦の結果にとてつもない衝撃を受けることになります。

この世界選手権で、日本勢は大躍進し、個人戦の優勝、国別対抗戦の優勝という二冠を果たしました。彼らは当時の僕にとってはある種の憧れの存在でしかありませんでしたが、彼らが使っていたデッキのタイプは当時日本国内のローカル大会で流行していた“Ghazi Glare”というもので、自分もよく知っているものでした。しかし情報がほとんど日本語で書かれたものしかなかったため世界の人にとっては全く未知のデッキでした。そんな日本の“草の根”から生まれたデッキが、世界を制したのです。僕はその場に立合うことができたことで、日本のローカルなMTGのコミュニティのレベルの高さを知り、自分にも世界が近づいたような気がしていました。例えれば、いつも遊んでいる身近な友人がオリンピックでメダルを取ったようなものです。

いつか自分もこの場に立ちたい。
このゲームなら、MTGなら、きっとそれを成し遂げられる。

プロツアーに出たい。

この時初めて、自分の中の火花が目覚めました。

そして幸運にも、次のチャンスはすぐにやってきました。
この翌年に発売されたセットのカードを、大学の友人が従前から持っていたアイデアと組み合わせることで、想像以上に良いデッキを作ることができたのです。

この天使の見た目からデッキ名を命名


僕はこれを“太陽拳”(英語名はSolar Flare)と名付け、主にオンラインで開催された大会で勝利を重ねました。今ではオンラインで勝ったデッキはすぐに内容がネット上にばら撒かれますが、当時はそうではなく、珍しがった多くの対戦相手から内容の共有を求められました。僕は気を良くして内容を共有し、自分のクレジットをつけるために“Call this Solar Flare”(太陽拳って呼んでね)とだけ念押ししました。
そして、2006年の各国の国別選手権ではSolar Flareが勝ちまくったのです。何より嬉しかったのは、使用者たちが皆Solar Flareの名前をしっかり残してくれいていたことです。こんな形で世界に影響をもたらせるなんて!
また、自分自身も太陽拳で日本選手権の予選を突破し、その本戦で見事トップ8まで勝ち進み、世界選手権への切符を掴んだのです。
憧れたあの舞台に自分が立てる。会場は、フランス・パリのルーヴル美術館。2006年は、中2病が抜けない19歳が、MTGの世界に取り憑かれるには十分すぎるほどの成功でした。

尖りに尖っていた青年シミチン
この後あの「ちくしょーなんでだー!!」が飛び出すやつ

この年初めての海外でのプロツアーに参加した僕は、残念ながら本戦では成績が振るわなかったものの、生まれて初めて見るパリの街並みに感動しました。
今は何故か使われなくなってしまったのですが、MTGのキャッチフレーズに”Play The Game、 See The World“というのがあります。この時まさしく自分はゲームをすることを通じて世界を見ることができました。自分が好きなゲームに勝つことで、世界の扉が開かれる。こんなに素晴らしい経験は他のことではとてもできません。
 その後、完全にMTGの世界に取り憑かれた僕は、とうとう2009年に初めてプロツアーのトップ8に進出することとなります。また、就職して3年目の2012年にも再びプロツアーのトップ8に進出し、一定の実績を残すことができました。そこから先は、結婚して家族を持ち、仕事・家庭・MTGのバランスをいかにして取るかということに日夜奮闘している日々です。

<コミュニケーション>
MTGというゲームの大きな特徴に、相手の番であっても、相手の行動に合わせて妨害をすることができるというものがあります。その結果、対戦相手とは必然的に多くのコミュニケーションが生まれます。例えば僕がドラゴンを召喚したいと言えば、対戦相手は対抗する呪文を唱えることでそのドラゴンの召喚を打ち消すことができます。この際、僕は対戦相手に”ドラゴン出ますか“といった形でお伺いを立てることになります。このようなやりとりを繰り返し、ゲームを通じて、対戦相手とのコミュニケーションは常に取り続ける必要があります。
また、ゲームに勝つためには、相手がどんな手札を持っているのかを予想し、その行動を読んで有効な手段で攻撃する必要があります。しかしながら当然、それが上手くいく保証はどこにもなく、しばしば裏目を引くことになります。そんな時、多くの場合試合の後、この時あのカードは持っていなかったのか、どうして〇〇で△△に対処しなかったのか…。ここは□□ではなく〇〇すべきだった…。レベルが高い相手になればなるほど、こうした感想戦は盛り上がります。それまでゲーム中に会話をしてきた相手ですから、これをするのにそこまで大きな抵抗はお互いにありません。やがて、勝ち負けは忘れ、目の前の対戦相手はMTGを通じて切磋琢磨する良き友人になる、、、ということは少なくありません。最近流行りのDCGではコミュニケーションを取る必要がほとんどないため、こうした原始的とも言える部分が逆にMTGの大きな魅力になっているようにも思われます。
高校生の頃にMTGの大会に出始めた僕は、毎週の大会で戦った相手とどんどん友達になることができました。下は小学生から上は社会人まで、年齢を問わずに次々に友達が増えていったことが大変嬉しかったです。ただ1点だけ残念だったのは、ほとんど女友達ができなかったことですが(苦笑)
今でも多くの人にとって、大会に出て対戦をしたことをきっかけに、そのときの勝ち負けをそっちのけにして仲良くなるというケースが多いのではないでしょうか。そしてそれは大会の舞台が世界になっても同様です。世界大会に参加すればするほど、さまざまな国の人と友人関係になることができるのです。

<グラインダーとの出会い>
世界中で開催されるPro Tourに出場するためには、2015年までは日本全国各地で開催されていた予選大会に優勝する必要がありました。Pro Tourに憧れるプレイヤーはもちろん僕だけではなく、彼らは近場のみならず全国各地の予選を行脚し、優勝というものだけを目指して戦う人、通称グラインダーです。彼らはPTQ(Pro Tour予選)があるところ、北は北海道から南は九州まで、僕は権利を獲得するために必死に飛び回りました。結果として、日本のどこでも、いつも会場にいる連中がいる、ということになります。僕を含め、グラインダー同士はライバルではありますが、同じ目標を目指して努力すよき友人でもあります。 

強敵と書いて「とも」と読む、というやつです。

当時PTQを連戦していたプレイヤーといえば、代表的には佐藤レイさん、井川良彦さん、高橋優太さん等がいますが、僕にとってはみな良き強敵(とも)です。特に井川さんについては、「富士山の頂上でPTQが開催されたとしても奴は来る」という逸話が出てくるくらいの猛者です。(そんな井川さんですが、今回のMythic Championshipで準優勝という快挙を成し遂げてくれました。おめでとう!!)

聞けば、今年からこのPTQに相当する制度が復活するようです。また、全国各地でグラインダー達がしのぎを削る光景が見られるかもしれません。現在の家庭の事情的に僕は以前のように遠征するのは難しいですが、きっと第2第3の強敵(とも)が生まれてくることでしょう。楽しみです。


【まとめ】

色々と書いてきましたが、僕にとってのMTGの魅力というのは以下のように集約されます。

・自分のアイデアと努力次第で大きな結果を実現することが出来ること
・国境、年齢を問わない友人が出来ること
・ゲームをすることで世界の扉を開くことが出来ること

そういう意味では、残念ながら賞金の規模というのは僕にとっては最大のファクターではありません。もちろん賞金が貰えるということは嬉しいことですしモチベーションにはなりますが、賞金額の多寡はアピールしやすい魅力ですが、大きな賞金の確保のために、上記3点を経済的に補助してきた予選突破者に対する航空券の援助制度がなくなってしまうというのは非常に残念です。こればかりは企業のマーケティング戦略的な部分ではあるので嘆いても仕方がないところですが、現在の方向性でMTG全体盛り上がってくれるのであればそれはそれで良いことなのではないかとも思います。ただ、自分が大切にしてきた「自己実現」、「MTGを通じた友人関係」、「Play the Game, See the World」という3つの概念は決して捨てて欲しくないなと切に願っています。

Decks, be Ambitious!!

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