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あの日の日記

2021年3月13日(土)


東京は久しぶりの雨。


僕にとって、いや僕らにとって昨日12日は良い知らせが舞い降りた。


それは一戸建ての融資が下りたからだ。

紆余曲折の我が家は兼ねてからの夢であった
マイホームが手に入るのだ。


京都でその一報を聞き一目散に嫁に電話をした。


「融資下りたよ!!良かったね!!」

「そうなんだ!良かったね!」と

ネクラな嫁の声色も少し上がったのが嬉しかった。
出張での仕事を終わらせ新幹線に飛び乗った。

家路に着いたのが21時30分。
いつもは翌日学校なので寝ているはずだが、
みんな起きていた。
一報を子供たちに伝える。
小学4年生の娘に「お家が決まったから明日学校に行って転校の手続きするね」と。
YouTubeに釘づけになりながら、
小さくうなづいた。
年長の息子は家が大きくなることを無邪気に喜んでいた。
冷静を装う嫁もレモンサワーの空き缶が増えている。


そして今日
娘が学校へ。
僕たちは賃貸や駐車場の解約など土曜日でも出来ることを手分けして行い、娘の下校に合わせて僕と息子は登校した。

空は重たい雲でいっぱいだ。
傘を持って息子と戦いごっこをしながら。

校門に着いたら雨がばらつき始めた。
そこにちょうど娘とすれ違う。

「一緒に先生のところに行ける?」
「私は帰る」と
味気ない返事が雨で消された。

そのまま息子と4年2組に向かうさなか
娘の友達が僕らに気づき、クラスまで連れてってくれた。
元気な声で
「先生!ゆいちゃんのパパと弟君が先生に会いにきたよ!!」
教室から「あら、そうなの〜」と優しい先生の声が聞こえる。

24歳の若い先生と向かい合い会釈を交わす。

「何かありましたか?」

「娘が転校することになりましたので手続きに来ました」

笑顔を先生が急に目頭が熱くなるのがわかる。

「そうですか・・・そしたら職員室までお越しください」
友達の声が廊下に響く。
「転校しちゃうの?」
「どこかいっちゃうの?」
寂しさを募らせながら先生に問いかけるが
声には出さず空気で伝える。

1階の職員室に向かう途中、
「この地域は転勤など多いですもんね
急だったんでしょうね」と、失礼にならないように僕に問う。

「一戸建てを購入したので引っ越すことに決めました。」

「そうなんですね。おめでとうございます。」

乾いた声が感情に響く。

職員室では用紙を2枚記入。
先輩の先生が書き方をレクチャーしてくれた。
書きなれた住所と書きなれない住所を
同じ紙に記入し先生方によそ行きの挨拶をして校門を出た。


雨を強くなっていた。


帰り道で僕は自分に問いただす。

娘にとってこの選択は良かったのだろうか

あと2年過ごさせてやれないことか

この土地に一戸建てを買えない自分へのふがいなさ

募る思いと同じくらい雨足が強くなる。

「パパーー待ってーーー」と息子の声が遠くで聞こえる。


玄関を開けると娘の無邪気な声が聞こえて一安心した。


きっと一戸建てに住んだらもっとしあわせになる。
きっと仲の良い友達もたくさんできる。
きっと楽しい毎日が待っている。

自分に思い込ませるように。


場所は変わっても家族は変わらない。
また一からみんなで暮らしていこう。
もう一度、出逢った頃のように。


生きていれば続きがあるのだから。

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