歴史戦(情報戦)の戦い方に関する誤解を解く

歴史戦(ここでは情報戦)の戦い方に関しては、2ちゃんねるあたりで流れている俗説を無批判に受けいれている人が少なくないようだ。「黙っていたらつけあがるばかりだ! 少々汚い表現になってもかまわないから倍にして言い返すべきだ」という説である。

たしかにもっともらしい主張だが、はっきりいってこれは愚策である。いや策ですらない。これは本物の戦場に不良少年の一団が迷い込んでイキがっているようなものであり、プロである兵士からしたらいい迷惑であり足手まといでしかない。

まず心得ておくべきなのは、これはリアルな世界での殴り合いではないということだ。ネット上の情報戦である。当然ながらいくら汚い言葉を発したところで相手にとっては痛くもかゆくもない。

また仮に1億人の日本人が総出で罵っても10億人以上いる韓国、中国連合軍にはかなわない。もちろん悪口の語彙の多さに関してもそうだが、その技術に関しても声闘の伝統をもつ向こうの方が何枚も上手だ。悪口合戦の人海戦術になったら日本の負けは確実である。

なかには「怒りを見せれば外国人も日本人に同情してくれるだろう‥」という人もいる。けれど、それは日本人の勝手な期待であり、甘えにすぎない。世界の大多数の人は日本人も韓国人も中国人も区別できない。なぜ韓国人と中国人が日本人を嫌っているのかもよく知らない。

知っていたとしても「戦前の日本人はナチス同様の大悪人だったから、韓国人、中国人に何か悪いことをしたんだろう。だからこれは日本人の自業自得だ。反省すべきなのは日本人だ」という程度の認識だ。

そのため、日本人のヘイトスピーチを見た人からすれば「韓国人や中国人が言うように日本人はやっぱりナチス同様の人種差別主義者だったんだな。しかも反省するどころか逆切れしている」と思うのが落ちであろう。

これは飛んで火にいる夏の虫というものだ。今現在日本に対して世論戦をしかけている習近平と金正恩にしてみれば願ってもない展開である。「日本人は激しやすいからちょろいもんだ」と裏でほくそ笑むことだろう。

もちろん誤解してもらっては困るが、私はなにも圧力をかけるなといっているわけではない。むしろ誰よりも最大限の圧力をかけるべきだと思っている。しかし、ここで問題にしたいのは、ネット上で相手の悪口を言うことがはたして最大限の圧力になるのか、ということである。

たとえば、やくざの親分がツイッターで「おい○○組の組長、おまえのかあちゃん、でーべーそー!」と書き込んだとして、それが敵対する組に対する最大限の圧力になるのか、それで相手は実際にどのくらいダメージを受けるのか、という話である。

そもそも汚い表現を容認する人は、情報戦においてそれがどのようにして日本を有利に導くのか、そのメカニズムをきちんと説明できるのだろうか? そこにある戦略スキームははたして客観的に見て正しく、誰もが納得できるものなのだろうか?

ここで注目しなければならないのは目標設定だ。情報戦に限らず、ビジネスなどでも同様だが、なんらかの戦略を立てるときに大切なのは目標を正しく設定することである。目標がなければどこに向かっていけばよいのか、何をしたらいいのかわからないからだ。

つまり、情報戦ーーここではネット上でコメントするという個人レベルでのそれに限定するーーにおいては、誰をターゲットにしているのか、その人にどのような反応をしてもらうのか、それをきちんと戦略目標として設定しておく必要があるということだ。

またその際、何が勝利なのか、何が敗北なのかをきちんと定義しておく必要がある。そうしないとふたをあけてみたらオウンゴールでもって敵を利するだけだったということにもなりかねないからだ。

ところでYouTubeの場合、ターゲットとなる視聴者は、母集団から考えて並以下の知的レベルの人のほうが圧倒的に多いはずである。そしてそういう人は、理論的なコメントはあまり読まない一方、感情的なコメントのほうを好んで読む傾向があると推測される。したがってお行儀の良いコメントよりもヘイトスピーチ的なコメントのほうがより多くの人たちにリーチ(届く)できるというのはたしかにその通りであろう。

しかし、いくら数が多いからといって、社会的な影響力もないそのような人たちに日本人のヘイトコメントを読ませることにいったいどれだけのメリットがあるのだろうか?

泣きわめく子供をあやすやさしい母親のように、日本人に対して同情を寄せてくれるとでもいうのだろうか? そしてブログなどで日本を弁護する言論活動を積極的に繰り広げてくれるとでもいうのだろうか? マスメディアに寄稿して国際世論に影響を与えてくれるのだろうか? そんなことは考えられない。もともと批判的に考えるということに慣れていない人たちである。むしろ先に述べたように「やっぱり日本人は人種差別主義者だ。アメリカが原爆を落として正解だった」と偏見を助長するのが関の山であろう。

ここからもわかるように「感情的なコメントに反応する人たち」を相手にしても、日本にとってはデメリットこそあれ、メリットはほとんどない。すなわち、悪口合戦を是とする人たちは、戦略の土台となる目標設定段階から的を外しているのだ。

ではわたしたちはいったい何を目標にすればよいのだろうか? 具体的に誰をターゲットにし、そこでどのような戦略戦術でもって戦うべきなのだろうか? それに関しては以前に書いたものがあるのでここではくりかえさない。詳細についてはそちらをお読みいただきたい。

http://propagandawar.info/archives/3282

ここでは重要ポイントだけもう一度強調しておくーー。

情報戦において重要なのは戦略である。そしてその戦略については間違った俗説がいまだにまかり通っている。しかしそのような間違ったやりかたでは日本の勝利はおぼつかない。それどころか、かえって敵を利するだけになってしまうだろう。

怒りに任せて勝てるのは子供の喧嘩とアニメの世界だけである。これはバーチャルな世界の戦闘ゲームでもなければ、子供の喧嘩でもない。リアルな世界で起こっているリアルなーー情報戦という名のーー戦争なのだ。

中韓がしかけるこの情報戦に巻き込まれ、いやでもそれと向き合わざるをえない私たち日本人に今求められていることーー。それはこの戦いに勝利するための戦略を練り上げ、不断にブラッシュアップすること、そしてそれを達成するための戦術を淡々と実行していくことである。

心から憤り、本気で相手を倒したいというのであれば、感情に流されることなく冷静かつ沈着にそうすべきであろう。

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