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0016 - ナイトクルージング

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浜松にある木下恵介記念館で開催された、映画『ナイトクルージング』上映会に参加してきた。

生まれながらの全盲者がSF映画を制作する過程を追ったドキュメンタリー。世の中にある他の何の映画とも被らない衝撃的な作品。

今回で観るのは2度目。クラウドファンディングで制作支援したので、2年前に完成試写会で拝見済みだが、改めて見直したことで理解が深まったこともあり、気付けた&考えるきっかけになったことがとても多かった。

中学生の時にふと「生まれながら目の見えない人って世の中(世界)をどう感じてるんだろう?」と、ぼんやりと疑問を抱いた。目の前に広がる青空、緑の田んぼ、コンクリートで舗装された道路などなど、僕らが今見ているこの景色を全く知らない。今自分がいる場所がどういう場所なのかも見えない。それってどういう感覚なのだろうと。

このテーマで学校の帰り道に友人と語ったことを覚えている。もちろん「どうなんだろうねー」程度にしか膨らまず、自然と別の話題へと変わってしまった。ぼんやりと浮かんだレベルの疑問なので、それ以降も自分から熱心に知ろうと動くことはないままだった。

そのまま長い年月が経ってしまった中、ひょんなタイミングで仲良くなった映画監督の佐々木誠さんが『ナイトクルージング』を作ると発表。そのタイトルにフィッシュマンズ好きとしてニヤリとしつつ、中学生の頃に抱いていた疑問の存在を思い出し、首を長くして完成を待っていた。

知りたかった答えは、見事なまでにこの作品に詰まっていた。

語弊があるかもだが、驚いたのは、自分が想像していたよりも遥かに「普通に」生活していたこと。主人公である加藤さんは、エンジニアとして働き、1人で電車に乗って移動したり買い物するのはもちろん、楽器も演奏するし、包丁や火を使う料理もするし、タバコも吸う。周りの人と対話している場面では全盲者であるということを忘れてしまうほどの立ち振る舞い。

更に、この作品は、日常生活を追うのではなく「全盲者が映像作品を作る」という一見無謀とも思えることに、あえてチャレンジする内容。どのように思い描いている映像(見た目)のイメージを表現し伝えるのか。これまた語弊があるかもしれないが「全盲者による世の中(世界)の捉え方」を知るのに、こんなにも理解しやすい資料は無いんじゃないか、とも感じた。

劇中で描かれている行動や、試写会トークショーでの加藤さんの発言を箇条書きでまとめてみると、以下のようになる。

・基本的には「触れて」カタチを捉える
・音の細かいニュアンスの違いに敏感
・部屋や空間の広さは、指を鳴らした反響で判断する
・「色」はよくわからない
・ジャッキーチェンの映画が好きだが「避ける」という概念が無かった
・「太陽」は「暑い」という概念として、どういうものか認識している
・「月」や「星」はよくわからない
・生き物や虫も、触れたことがあったり鳴き声に特徴があれば認識できる
・音に特徴が無く触れたこともない「蜂」などはよくわからない

要するに、視覚以外でも判断できるものは、どういうものなのか認識している。「触れられない」且つ「視覚以外の要素で他の物と区別できる特徴をつかめない」ものは、そういうものが存在しているのは知っていても、どういうものなのかはわからない。なるほど。

子供の頃に感じたぼんやりとした疑問の答えを知るのに、この上なく適した作品だった。佐々木さん大尊敬である。

ちなみに、同じように全盲者について解りやすく語られた書籍が少し前に発売されたが、これを読んでみたら、ナイトクルージングで知ったことと被る部分がとても多かった。こちらもオススメ。

自分と「そもそも」が異なる人の視点を知るのは純粋に面白いし、それによって自分の視点(世の中の見え方や感じ方)が確実に変化するのも面白い。


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