【背景】 観察研究は、総テストステロン（TT）と性ホルモン結合グロブリン（SHBG）が肺機能に有益な効果をもたらす可能性があることを示唆していますが、これらの発見は交絡因子や逆因果関係により偽の結果である可能性があります。私たちは、これらの限界を克服するために、TTとSHBGの肺機能への独立した因果効果を調査するために多変量メンデルランダム化（MVMR）を使用しました。

【方法】 まず、男性と女性で別々に、大規模なUK BiobankでのTTとSHBGのゲノムワイド関連分析を実施して遺伝的ツールを特定しました。その後、1標本MVMRを使用して、TTとSHBGの強制呼気量1秒（FEV1）、強制肺活量（FVC）、およびFEV1/FVCへの独立した効果を評価しました。
MVMRを偏らせる可能性のある多型性に対処するため、それを考慮に入れる複数の方法を使用しました。肥満、身体活動、および閉経状態によるサブグループMVMR分析を実施し、TTとSHBGと肺機能の衰退との関連を評価しました。最後に、UK Biobankでの観察分析の結果とMVMRの結果を比較しました。

【所見】 MVMR分析では多型性の証拠がありましたが、それを考慮に入れた場合でも結果は一貫していました。
男性と女性の両方でTTのFVCおよびFEV1に対する強力な有益な効果を見つけましたが、男性のみでSHBGのFEV1およびFEV1/FVCに対する中程度の有害な効果がありました。
サブグループ分析では、肥満で年齢が高い男性の間でTTの効果が強いことが示唆されました。
観察分析は、以前の研究と一致して、TTに関してはMRMVと一致しましたが、SHBGに関してはそうではありませんでした。

【解釈】 これらの所見は、テストステロンが男性と女性の肺機能を改善する一方で、SHBGが男性においては反対の独立した効果を持つことを示唆しています。

健康な成人では、肺活量の70%～80%がスパイロメトリーによって測定された場合、1秒間に吐き出すことができます。これは、非常に弾性のある肺、低抵抗の気道樹、および動員可能な呼吸筋の組み合わせによって可能になります。しかし、強制呼気量1秒値（FEV1）、強制肺活量（FVC）、およびFEV1/FVCの比率は、正常な老化の一部としてすべて減少するため、スパイロメトリーの値が減少したからといって、必ずしも疾患を示すわけではありません。肺機能の多くは遺伝によって決定されます：肺機能の約40%は家族の遺伝性によって説明でき、ゲノムワイド関連研究は、肺機能に関連する何百もの遺伝的変異を特定しており、これらを合わせると、この遺伝性の約6%～12%を占めます。肺機能の遺伝的制御を理解することは、疾患の性質についての重要な洞察を提供し、最終的には予防治療の開発に役立ちます。
メンデルランダム化（MR）は、遺伝的変異と生物学的特徴との関係を利用して因果関係を特定する統計的構造です。いわゆる道具変数分析では、遺伝的変異の露出（例えば、血液のタンパク質）および結果（例えば、表現型や疾患）への影響を使用して、露出の結果への影響を決定します。「ランダム化」要素は、減数分裂中の対立遺伝子のランダムな割り当てから来ており、これにより、露出のレベルだけで異なる2つのグループ間の比較が可能になります。これは無作為化比較試験の治療腕に似ており、したがって因果推論が行えます。…の簡単に理解できる説明のために…メンデルランダム化を用いると、遺伝的変異が特定の生物学的特徴や疾患のリスクにどのように影響するかを明らかにし、その特徴や疾患の原因となる要因を特定することが可能になります。これは、従来の観察研究では区別が難しい相関関係と因果関係を分けるのに役立ちます。遺伝的変異は生まれながらにして持っているため、これらが引き起こす露出の変化は、環境要因や生活習慣の選択によるものではなく、純粋に遺伝的なものと見なすことができます。その結果、メンデルランダム化は、特定の露出が結果に与える真の影響を推定するための強力なツールとなり、より信頼性の高い因果関係の証拠を提供することができます。これにより、疾患の予防や治療戦略の開発に向けた新しいアプローチが可能になるかもしれません。

性ホルモン結合グロブリン（SHBG）とテストステロンは、ヒトの体内で重要な相互作用を持つ2つの物質です。これらの関係と意義を理解することは、ホルモンバランス、生殖健康、さらには全体的な健康状態を理解する上で重要です。

【SHBGとは？】
SHBGは、その名の通り、性ホルモン（主にテストステロンとエストラジオール）を結合し運搬するタンパク質です。このタンパク質は、性ホルモンの生物学的利用可能性を調節する重要な役割を担っています。SHBGに結合したホルモンは、体内で「不活性」な状態に保たれ、細胞の受容体に結合して活動を開始することはありません。したがって、SHBGのレベルは、体内の自由（活性）ホルモンの量に直接影響を与えます。

【テストステロンとの関係】
テストステロンは、男性と女性の両方に存在するステロイドホルモンで、性的特徴、筋肉量、骨密度、性欲などに影響を与えます。テストステロンの大部分は、SHBGやアルブミンなどのタンパク質に結合していますが、小さな割合（約2%〜3%）が「自由テストステロン」として活動しています。SHBGのレベルが高いと、結合するテストステロンの量が増え、自由テストステロンの量が減少します。これは、テストステロンの生物学的活性に影響を与えるため、さまざまな生理的影響を及ぼす可能性があります。

【意義】
SHBGとテストステロンのバランスは、性的健康、生殖機能、さらには心血管病や2型糖尿病などのリスクに至るまで、幅広い健康面に影響を与えます。例えば、SHBGのレベルが異常に高い場合、十分な量の活性テストステロンが利用できず、男性の性機能低下や女性の月経不順などの問題が生じる可能性があります。逆に、SHBGのレベルが低いと、自由テストステロンのレベルが過剰になり、女性では多毛症や月経異常などの症状が見られることがあります。

SHBGとテストステロンの関係は、健康状態の重要な指標であり、特にホルモン関連の疾患や状態の診断と管理において重要です。

性ホルモン結合グロブリン（SHBG）に影響を与える要因には、さまざまなホルモナル、代謝、栄養的要因が含まれます。SHBGの濃度は、利用可能なテストステロン（T）とは負の関連があり、アディポネクチンとは正の関連があります[1][2]。さらに、SHBGはエストロン硫酸塩と正の関連があり、インスリン抵抗性とは複雑な関係を持っています[1]。
SHBGの産生に影響を与える要因には、ホルモナルおよび代謝的要因（例えば、核受容体の肝細胞核因子4-α（HNF4α））によって影響を受ける肝臓SHBG mRNAレベルが含まれます[1]。
遺伝的差異もまた、血漿中のSHBGレベルの個人間の変動に寄与します[2]。
外来性エストロゲンや甲状腺ホルモンは血漿SHBGレベルを増加させ、アナボリックアンドロゲンやアンドロゲン性プロゲスティンはそれを減少させます[3]。
さらに、SHBG遺伝子の特定の多型は、2型糖尿病のリスクに影響を与えることがあります[5]。これらの要因は集合的に、体内のSHBGレベルを調節する役割を果たします。

運動、食事、およびその他の健康的なライフスタイル要因が性ホルモン結合グロブリン（SHBG）に与える影響は、重要で多面的です。研究によると、さまざまなライフスタイル要因がSHBGレベルに影響を与えます。例えば、タンパク質の摂取などの食事成分はSHBG濃度に影響を与え、低タンパク質摂取はインスリンレベルに対する潜在的な影響により高いSHBGレベルと関連しています[1]。
さらに、糖分が少なく食物繊維が豊富な食事は、閉経後の女性の血清SHBG濃度の増加と関連しており、食事がSHBGレベルに影響を与える役割があることを示唆しています[2]。
運動と減量もSHBGレベルに影響を与えることが示されており、SHBGの変化は代謝環境を反映し、使用される方法に関係なく減量に応答します[4]。
運動や食事の改善を含むライフスタイルの介入は、主に脂肪量の変化によって影響を受ける、循環するSHBGレベルの動的な変化をもたらすことができます[4]。
要約すると、運動、食事、およびその他の健康的なライフスタイル要因は、SHBGレベルを調節する上で重要な役割を果たします。これらの要因は、体内でのSHBGの産生と調節に影響を与えるために、ホルモナル、代謝的、栄養的な側面と相互作用します。