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【縁凜の日常】バンジージャンプ

この話は当時の中学生の中でも、知能の低い訓練された中学生の話だ。
決してマネをしないでいただきたい。

人付き合いが極端に下手で超弩級のコミュ障である私だが、中学生時代には二人だけ友人と呼べる人間がいて、その二人と昨晩見たテレビの話をしていた。

三人共同じ番組を見ており、その内容はダチョウ倶楽部が罰ゲームだったかドッキリだったか、「聞いてないよ〜」と言いながらバンジージャンプを飛ばされるというものだ。
今でこそバンジージャンプは一般的で様々なバリエーションが存在するアクティビティとなったが、当時バンジージャンプは流行り始めて間もない頃だ。
バラエティ番組の罰ゲームといえばバンジージャンプが定番だった。

当然どのようなものかもわからない。
情報を得ようにも、スマホやパソコンが一家に一台あるような時代でもない。
バンジージャンプの「バンジー」ってなんだろう・・・といった具合である。

三人で笑いながら話していると、私の悪い癖が疼き出した。
興味を持ってしまうと、やらずにはいられないのだ。
「よし、やってみよう」
笑顔だった二人から、ゆっくりと表情が消えて行く。
本当の真顔とはああいうものを言うのだろう。

中学生が考えたバンジージャンプはこうだ。
・家からシーツを持ってきて頑丈に縫い合わせる。
・校舎の屋上の鉄柵に結びつけ、解けないよう更に結び目を縫い付ける。
・校舎の高さをメジャーで計測し、シーツの長さを落下した際に足元が地面ギリギリになるように調整。
・友人一人を実際に吊り下げ、落下後の高さを確認。
・身体側も解けないように結び目を縫い付ける。

完璧である。
少なくとも当時の私たちは綿密に考えられた計画だと思っていた。
これを書きながら、当時の私にバックドロップを喰らわせてやりたい気分になった。

翌日から準備に取り掛かった。
家から持ち寄ったシーツを三人で家庭科の裁縫箱(箱の表に龍が描かれているやつ)から針と糸を出し縫って行く。
三階建校舎だった為、8〜9枚縫い繋いだと記憶している。

完成したバンジーシーツを屋上に運び、(屋上は立入禁止だったが、鍵は私が合鍵を作成していた)鉄柵に縫い付ける。
長さは十分だった為、地面側から友人を縛り付ける。
シーツとはいえ伸縮性を考慮し、地面から30cm程度の余裕を設けた。
(この話は中学生の中でも、知能の低い訓練された中学生の話だ。決してマネをしないでいただきたい)
念には念を入れ、体育の体操マットを敷いた。

いざ決行である。

まずは一人目。
彼はとてもノリが良く、躊躇無く飛んでいった。
壁際垂直落下の為、バンジーシーツが伸び切った所で壁に叩きつけられたが成功だ。

そして二人目。
彼は慎重派ではあったが、プライドが高い為飛ばないという選択肢は無い。
少々ゴネていたが、その途中で何故かしゃべりながら落ちていった。
こちらも壁に叩きつけられながらも成功。

最後に私なのだが、ここでトラブルが起きた。
騒ぎを聞きつけた教師達が集まり始めたのだ。
屋上に来るのも時間の問題だろう。
屋上のドアにつっかえ棒を引っ掛け時間を稼ぐ。
下では教師が騒いでいる。
ダメだ、もう時間が無い。
バンジーシーツを結びつけ、荒く縫い付ける。
心の準備などしている時間は無い。

私は空へ飛び立った。

私は今空を飛んでいるのだ。
身体は水平状態。

重力を感じ、落下を始めた刹那。
一つの懸念が頭をよぎる。

「俺、180cm 80kgじゃね?」

そう。
前に飛んだ二人の身長は160cm程。
体重も私よりずっと軽い。
そして、落下後のシーツの長さ調整は彼らで行っている。
ということは、ヘタをすると壁ではなく地面に叩きつけられる。

危機の瞬間はスローモーションになると聞くが、本当にそのように感じた。
落下する間、バルコニーに出ている生徒達の顔が一人一人見えるような気がした。

グングンと近付いてくる地面。
その時バンジーシーツが伸び切り、私の重量級の身体を受け止める。

「助かった、なんて運が良いんだ・・・」

スローモーションはまだ続く。
水平だった身体が、慣性で垂直に戻されていく。
念の為膝を曲げておいた。

成功だ。

私の足はしっかり地面を踏んでいた。

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