SNSはADHDを悪化させているかもしれない?やめられない人の対処法

0. 要約

読者の中には、長い文章を読むのが嫌いな人も多いと思う。なので、はじめに要点を簡潔に述べておこう。

①SNSの利用はADHDの症状を悪化させる可能性がある
②SNSをやめると、ADHDの症状が改善する可能性がある
③ADHDの人はSNSをやめるか、せめて利用する時間を限った方がいい

主に伝えたい内容は以上になる。これさえ伝われば充分だ。
しかしこれだけ読んでも納得できない人が多いのではないかと思う。なのでその理由や根拠を以下に詳しく述べている。太字の項目だけでも拾って読んでもらえれば幸いだ。

1.はじめに(背景と注意書き)

①背景
近年ASDやADHDなど発達障害の認知度は急激に高まっており、ADHDの症状に悩む人の訴えが聞かれる頻度も多くなった。かく言う私もADHDで、不注意や衝動性といった症状に長年悩まされてきた。そんな中、悩みのタネになったのがSNSとの付き合い方だ。SNSに長時間熱中して、生活や仕事がおろそかになったり、電車を乗り過ごしたり、予定に遅れたり…時期によってはSNS中毒と言えるような状態だったかもしれない。しかしこれまで、何となくよくない気はしていたものの、その影響について真剣に考える機会はあまりなかった。だがADHDについての知識を得たり、さまざまな実体験を経て考える中で、その影響が思っていたより深刻であることに気がついた。その考えと、それに対する提案について、この記事で述べようと思う。

②注意書き
私は一応精神科医としてADHDの患者を何人か受け持った経験もあり、発達障害についての専門文献も読んだりはしているが、臨床経験としてはまだ未熟な身だ。この記事に書かれているADHDの基本的な知識は一般的に共有されているものだが、SNSがADHDに与える影響についての分析や、その対処法については、私の当事者としての経験に基づく独自の推論や提案が含まれる。要するに、この記事の全てが実証的な医学的エビデンスに基づいた内容ではない。なので、この記事を活用する際は、専門家の意見としてではなく、あくまで同じ悩みを抱えた仲間からの経験的なアドバイスとして受け取るようにして欲しい。
また、私がよく使うSNSがTwitterなので、ほかのSNSをよく使う人には当てはまらない項目もあるかもしれない。活用できそうなところだけでも使ってもらえるとありがたい。

2. SNSはADHDの症状を悪化させている可能性がある?

いよいよ本題に移ろう。ADHDの人は様々な依存症になりやすいと言われている。依存の対象にはアルコール、薬物のほか、ギャンブルやインターネットなども含まれ(*1 2 3)、インターネット依存症の人にはADHDを合併している人が多い(*4)といわれている。
SNSとADHDの詳しい関係はまだわかっていないことも多いが、私はSNSはADHDの症状やその影響を少なからず悪化させる可能性があると考えている。その理由を以下に述べる。

①散漫になり集中力が低下する
SNSは、スマホなどで手軽にいつでも見ることができ、つねに様々な新しくて楽しい刺激に満ちている。一方でADHDの人は、集中力をコントロールすることが苦手だと言われている。たくさんの刺激が入ると普通の人でも気が散ってしまうものだが、もともと散漫になりがちなADHDの人なら、その傾向はより強くなる。仕事中や勉強中もSNSが気になったりして、作業の能率が著しく低下することに繋がる。
また、移動中にスマホでSNSを眺めたりして散漫になることで、ケガや事故に繋がる危険性もある。ADHDの人は特に、歩きスマホは絶対にやめた方がいい(私はこれまでSNSに夢中になって何度も電車を乗り過ごしたり、階段で転びそうになったり、信号無視しかけたことがあった。)

②タスクの先延ばしや計画性の無さが悪化する
ADHDの人は、目の前の利益にとびつきやすく、長期的な利益や損失を重視して行動することが苦手で、この性質が衝動性や計画性の無さと関連している(*5 6)と言われている。また、時間の見積もりが甘い傾向がある。
SNSは少ない労力ですぐに楽しい刺激が得られてしまうので、ADHDの人は大事なタスクよりそちらを優先してしまいがちになる。また、時間の見積もりが甘く、熱中すると時間を忘れてしまうので、ついついSNSを長時間やって、やるべきことを先延ばしにしてしまうことになる。結果的に実生活や仕事に割くべき時間やエネルギー、思考のリソースをSNSに大きく削がれてしまい、計画的に行動できず、あわてていきあたりばったりになってしまう。そうして時間に余裕がなくなると、じっくり考えて物事を計画したり、計画を見直す時間も充分とれないので、ますます無計画になってしまう。

③生活リズムが乱れる
長時間SNSに熱中すると、それによってついつい夜更かししてしまう。また、熱中して寝る直前までスマホやPCを手放せないと、画面の光や情報などの刺激で入眠が阻害されてしまう(*10)。その結果睡眠時間が短くなったり、起きる時間が遅くなったりして、生活リズムが崩れてしまう。ADHDの人は生活リズムが乱れやすい傾向がある(*7)と言われているが、長時間のSNSはそれをますます酷くする可能性がある。そうして朝起きられなくなった結果、遅刻に繋がることもある。また、睡眠不足はADHDの不注意と衝動性といった症状をより悪化させる(*8)といわれている。

④他人とトラブルを起こす
SNSはスマホで思ったことをすぐに投稿できるため、普通の人でも感情や勢いにまかせて軽率な発言をしてしまうことがある。ADHDの人は衝動性をコントロールするのが苦手(*9)と言われていて、その分SNSでつい余計なことを言ってしまう頻度も多くなる。軽はずみな発言で周りの人を傷つけたり怒らせたり、もっと酷い時には炎上したりして、社会的な信用を失うリスクが高くなってしまう。

以上述べた4つの理由から、SNSはADHDの症状やその影響を悪化させる可能性があると考えた。私自身の経験的な反省に基づくと、その程度はそれぞれそこそこ深刻なのではないかと思う。
次はそれに対する対処法について述べる。

3. SNSをやめるのがベストだが…やめられない人の対処法

手軽に交流を楽しめて、これまでにない人との繋がりや情報を得たりとSNSのメリットは大きい。だがADHDの人に関して言えば、その症状の悪化によって失う社会的信用や経済的損失などと天秤にかけると、やめた方が無難だと言えそうだ。

とはいえ、この記事の読者には同じように自分によくない影響があると考えて、SNSをやめようとした人や、それで失敗してやめられなかった人も多いのではないだろうか?かく言う私も何度もやめようとしたが、結局繰り返し失敗して、いまだに続けてしまっている(2010年の春ごろにTwitterをはじめ、2018年6月現在まで。もう9年以上にもなると思うと恐ろしくなる。)

SNSはやめようと思ってもそうそうやめられるものではないし、やはりそのメリットも捨てがたい。なので、SNSがやめられない人のための次善策を自分なりに考えてみた。

①SNSをやる時間帯をあらかじめ決め、その時間内に限定する
単純な発想だが、これしかないだろう。おすすめは平日なら夕食前後〜寝る2時間前など。寝る準備を整えて睡眠時間を確保し、入眠を阻害しないためにも、寝る2時間前にはやめることをすすめる。休日であっても、家事をやる必要があったり、予定が入ることもあるので、平日よりは時間を伸ばしてもいいが、やはり時間を区切る必要はあるだろう。
決めた時間帯以外も完全に見ないことが不可能なら、通知欄だけサッと見る。それも無理なら他人の発言もほんの少し眺めるようにする。投稿や他人の投稿への言及、返信はしない。投稿や他人の投稿への言及、返信をすると、それに対するリアクションが気になりはじめて、やらないでいるのがさらに難しくなるので、絶対にしない。
どうしてもすぐ返信する必要のある連絡はやむを得ないが、なるだけそういった連絡手段はSNS以外にしたり、娯楽的に使うSNSとツールをわけておいたほうが良いだろう。

②時間外にどうしても発言したい内容を思いついたら、ノートにメモしてあとで投稿する
ノートアプリやSNS上の下書きでもいいかもしれないが、ADHDの人は衝動性が高いことを考えると、それだとそのまま勢いで投稿してしまう可能性が高い。なので紙のノートなどアナログな媒体に記録しておくことをすすめる。
大事な内容が埋もれてしまうとよくないので、タスクや予定を書いたノートとは別にした方がいい。あるいはページを分けておく。
思いついたことをすぐに投稿せず、時間をおいて見直すことで、軽率な発言を防げるというメリットもある。

③通知をなくす、通知欄の表示を減らす
スマホアプリの通知設定をオフにしておくことで、気になる頻度は少なくなるはず。また、Twitterの場合、通知欄の表示をフォローしているアカウント限定にする、タイムラインの表示設定をいじるなどして刺激をなるだけ減らすのも効果的だ。

4. SNSをやめる、やる時間を減らすことで、ADHDの症状が改善するかもしれない

項目2に書いた内容を踏まえると、SNSをやめる、あるいはやる時間を減らすことでADHDの症状やその影響が改善する可能性がある。以下に根拠を簡単に述べる。

まず、余分な刺激が減ることで散漫さが改善し、集中力が高まる。またSNSに費やしていた時間やエネルギーを仕事や実生活に避けるようになる。これは単に行動する時間が増えることだけを意味するのではない。行動に備えて、計画的に物事を考える時間的余裕もできるので、計画性も高まることになる。夜更かしが減り、生活リズムも整えやすくなるし、衝動的な発言を投稿することに伴うトラブルの頻度も減ると考えられる。

5. 本の紹介

ここで、私がこの記事を書くきっかけになった本を紹介しておく。ADHDの症状で悩んでいる人には参考にしてもらいたい。

「大人のADHD」のための段取り力 (健康ライブラリー) 司馬理英子 著

ADHDの人の仕事や日常生活における課題を①時間の管理、②ものの管理、③プランニング、④記憶の補強、⑤持続力・モチベーション という5つに大別して解説している。そしてそれらのカテゴリを意識した上で、ADHDの人が仕事や生活の具体的な課題をうまくこなせるようになるための方法を各論的に述べている。
図やイラストが豊富で、仕事や家事の課題の具体的な対処法がそれぞれ見開き2ページ以内でわかりやすくまとまっていて、通読しなくても、困った時に辞書的に使える構成になっている。短い本なので、通読してもたいした時間はかからない。これは集中を長時間持続させることが苦手なADHDの人にとってはありがたい構成だと思う。
普段から5つのポイントを意識することで、自分が失敗する状況や癖に対してより自覚的になり、対処法を自分で考える手立てにもなる。
失敗したときに自信を失ったり落ち込んだりせず、分析して次に備えるように読者を繰り返し励ましているところもポイントが高い。自分の行動を見直して改善しようとする過程では、どうしても過去の失敗で自分を責めたり、自信を失ったりしがちなので、その気持ちを切り替える方法も重要になるからだ。
仕事や生活がうまくいかなくて悩んでいるADHDの人は、参考にしてみるとよいと思う。

6. 終わりに

SNSがADHDの症状を少なからず悪化させている可能性を指摘し、どうしてもやめられない場合にSNSをやる時間を減らす方法を提案した。
繰り返し述べるが、この記事の内容のすべてが実証的なエビデンスに基づいているわけではなく、私個人の経験に基づく推論も含まれているので、あくまで参考意見にとどめておいて欲しい。
SNSは先に述べたようにメリットも大きいが、ADHDの人にとっては付き合い方が難しいツールの一つだと思う。この記事を読むことが読者にとってSNSとの付き合い方を振り返る契機になり、自分に当てはまる項目や、使えそうな内容があれば活用してもらえると幸いだ。

参考文献
*1 Gillberg, C., Gillberg, I. C., Rasmussen, P., Kadesjö, B., Söderström, H., Råstam, M., Johnson, M., Rothenberger, A., & Niklasson, L. (2004). Co-existing disorders in ADHD – Implications for diagnosis and intervention. European Child and Adolescent Psychiatry,13(Suppl. 1), 80–92. doi:https://doi.org/10.1007/s00787-004-1008-4
*2 Biederman, J., Wilens, T., Mick, E., Milberger, S., Spencer, T. J., & Faraone, S. V. (1995). Psychoactive substance use disorders in adults with attention deficit hyperactivity disorder (ADHD): Effects of ADHD and psychiatric comorbidity. The American Journal of Psychiatry, 152(11), 1652–1658. doi:https://doi.org/10.1176/ajp.152.11.1652
*3 Weiss, M. D., Baer, S., Allan, B. A., Saran, K., & Schibuk, H. (2011). The screens culture: Impact on ADHD. ADHD Attention Deficit and Hyperactivity Disorders, 3(4), 327–334. doi:https://doi.org/10.1007/s12402-011-0065-z
*4 Weinstein, A., & Weizman, A. (2012). Emerging association between addictive gaming and attention-deficit/hyperactivity disorder. Current Psychiatry Reports, 14(5), 590–597. doi:https://doi.org/10.1007/s11920-012-0311-x
*5 Diamond, A. (2005). Attention-deficit disorder (attention-deficit/ hyperactivity disorder without hyperactivity): A neurobiologically and behaviorally distinct disorder from attention-deficit/hyperactivity disorder (with hyperactivity). Development and Psychopathology, 17(3), 807–825. doi:https://doi.org/10.1017/S0954579405050388
*6 Scheres A, Tontsch C, Thoeny AL, & Kaczkurkin A. (2010). Temporal reward discounting in attention-deficit/hyperactivity disorder: the contribution of symptom domains, reward magnitude, and session length. Biol Psychiatry. Apr 1;67(7):641-8. doi: https://doi.org/10.1016/j.biopsych.2009.10.033
*7 Coogan AN & McGowan NM. (2017). A systematic review of circadian function, chronotype and chronotherapy in attention deficit hyperactivity disorder. Atten Defic Hyperact Disord. Sep;9(3):129-147. doi: https://doi.org/10.1007/s12402-016-0214-5
*8 Vélez-Galarraga R, Guillén-Grima F, Crespo-Eguílaz N, & Sánchez-Carpintero R. (2016). Prevalence of sleep disorders and their relationship with core symptoms of inattention and hyperactivity in children with attention-deficit/hyperactivity disorder. Eur J Paediatr Neurol. Nov;20(6):925-937. doi:https://doi.org/10.1016/j.ejpn.2016.07.004
*9 Winstanley, C. A., Eagle, D. M., & Robbins, T. W. (2006). Behavioral models of impulsivity in relation to ADHD: Translation between clinical and preclinical studies. Clinical Psychology Review, 26(4), 379–395. doi:https://doi.org/10.1016/j.cpr.2006.01.001
*10 Carter B, Rees P, Hale L, Bhattacharjee D & Paradkar MS.. (2016). Association Between Portable Screen-Based Media Device Access or Use and Sleep Outcomes: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Pediatr. Dec 1;170(12):1202-1208. doi: https://doi.org/10.1001/jamapediatrics.2016.2341
*11 Bielefeld M, Drews M, Putzig I, Bottel L, Steinbüchel T, Dieris-Hirche J, Szycik GR, Müller A, Roy M, Ohlmeier M & Theodor Te Wildt B. (2017). Comorbidity of Internet use disorder and attention deficit hyperactivity disorder: Two adult case-control studies. J Behav Addict. Dec 1;6(4):490-504. doi: https://doi.org/10.1556/2006.6.2017.073

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