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人を行動の仮説理論に合うように無理やり仕立てあげるべきではありません。

「 すべての人はそれぞれに独特な個人です。それゆえに心理療法は、その個人が必要とするユニークさに合わせて行われるべきです。人を行動の仮説理論に合うように無理やり仕立てあげるべきではありません。」ーミルトン・エリクソン

最近、この言葉の意味がようやく分かるようになってきました。

ひとりひとりが、「独特(ユニーク)」であることを「知る」ためには、その人に興味関心を持ち、話を聴くことが必要です。

例えば、「チームワーク」に悩む「リーダー」がクライエントだったとしましょう。

一般的なヒプノセラピストは、「仕立てられたスクリプト」を使います。

それは例えばこんな感じです。

ちょうどこのペーパーバックのイラストにあるように、「目の前のクライエントを見ずに、用意されたスクリプトを読む」んですね。

この用意されたスクリプトは、例えばこんな感じです。

あなたは、リーダーとして自信に満ち溢れた自分をイメージできます。そして、あなたはメンタルも強く、少々の失敗でもくよくよしたり、引きずったりしません。

これは今私が適当に作ったものですが、いわゆる「自我強化暗示」の変形のようなものですね。

自我強化暗示に効果がないわけではありません。しかし、こういった暗示はそのとき効果があったとしても、すぐに消えてしまい長続きしません。(なので自我強化暗示は『繰り返し』が必要となるわけです)

なぜ長続きしないのか。それは、「抵抗」を回避していないからです。

(「抵抗」とは、クライエントの反発や不安、拒否感、疑問等を総称したものです。)

私であれば、そのクライエントの生い立ちを聴いていきます。

そしてそのクライエントが、もし「料理」好きなら…私はこんな風にスクリプトを作ります。

砂糖のような甘味を、正反対の「塩」が引き立てることを、あなたはよく知っています。また、「苦味」ですら、調理の仕方によっては「旨味」に感じられることも知っています。
あなたは、これまで何回料理をしてきたでしょうか。3,000回…10,000回…もっとかもしれません。そして、その中には、失敗したと感じられることも何度もあったでしょう…
しかし、あなたは料理そのものを投げだすことはせずインスタントに自らの人生を委ねたりはしませんでした。
また、翌日になっても「あれは美味しくできたな」と思いだしてしまうくらい、成功する喜びも知っています。
鍋の中で、フライパンの中で、異なる味を持った一つ一つの食材が、あなたの手によって時間を掛けながら混ざり合ったり…またオーブンに入れてから、ただ焼き上がるまでの時間…じっと見守ったり、冷蔵庫の中でじっくりと発酵が進むように…さまざまな個性を持った食材が、徐々に一つに調和していく様は、まるであなたが監督する映画やドラマのように感じられるかもしれません。
そして、失敗も成功も、あなたは次の料理に役立てることができることを分かっています。そうやって、あなたは経験を積むことで、成長できることを知っているからです。

いかがでしょうか。

このスクリプトに対して、クライエントはほとんど「抵抗」を示さないはずです。それは「料理好きな人」にとって、まず「事実」(に近いもの)だからです。

そしてこれが「例え話」であることが、あなたにもわかるはずです。直接的に仕事(チームワーク)のスクリプトを作るのではなく、料理は料理する人の手腕によって、その出来不出来が変わること、それは時間と失敗を経て成功していくものであることを伝え、それは仕事も同じであるとの比喩になるようにしています。

なので、もしあなたが料理好きで、チームの人間関係に悩むリーダーならば、このスクリプトを読んだだけでも、効果があるかもしれません。

このように、抵抗を回避している暗示の効果は長く続き、しかも補強されていきます。

ひとりひとりに合わせたスクリプトを作る。

そのためには、クライエントを知るためのラポール構築の訓練や、そこから得られた個性をスクリプトに反映させるという創造性を育む訓練が必要です。

ミルトン・エリクソンは、多くの論文を残し、彼のフォロワーによって長年にわたり、その手法が分析されてきました。

しかし、それらの手法を理解し、使いこなしていくためには、「ひとりひとりに合わせた、効果的なスクリプトを作る」という訓練とその実践の両輪をバランスよく回すことが必要であり、それができる環境に身を置けるセラピストは一部に限られている、というのが現状です。

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