質問紙法は回答が歪曲されやすいか?

今回からは質問紙法の短所とされているもの、質問紙法以外の長所とされているものが本当にそうなのか詳しく見ていきたいと思います。1つ目は質問紙法最大の弱点とされる回答が歪曲されやすいか?です。

投影法だって作業検査法だって回答は歪曲される

質問紙法と比較して回答が歪曲されにくいとされる投影法や作業検査法ですが、私は全くそんなことはないと考えています。
バウムテストの場合、こういう絵を描いたらこういう風に判断するということがすでに知れ渡っています。例えばこういう感じです(byベネッセ)。いやもうちょっと配慮してほしいところですが。この記載内容が正しかろうが間違っていようが、記事を読んだ人は、樹幹の形・木の大きさ・木の位置・枝・果実とそれぞれこう描いたらよいだろうという意識を持つ可能性があり、回答が歪曲しうると考えられます。
ロールシャッハテストでは、テスト図版が10枚しかなく、その著作権も切れており一般の人が実物を見ることも可能になっています(さすがにリンクは貼りませんが)。バウムテストより評価は複雑で歪曲は困難ですが、書籍はAmazonで買える(いや、高いから誰も買わない)ため勉強も可能といった状態です(質問紙法はYG性格検査は通販で買えちゃいますが、それ以外は一般購入できない)。
内田クレペリン検査の場合は、どのように評価するかがはっきりと知れ渡っており、書籍やサイトで対策方法が紹介されています。
このように投影法や作業検査法の回答結果が歪曲されにくいというのは誤りです。なお、これらの心理検査の中ではロールシャッハテストが歪曲されにくいと考えられます。

質問紙法には回答を歪曲しにくくする2つの対策がある

回答が歪曲されやすいとされてきた質問紙法ですが、逆に質問紙法ならではの対策があります。一番有名なのは妥当性尺度です。
妥当性尺度は、普通そうは回答しないだろうとはっきりわかっている質問項目を混ぜ込んでおいて、その質問項目への回答を見て回答全体の妥当性を推定するものです。妥当性尺度を備えている心理検査は意外に少なく、その代表格がMMPIです。旧来のMMPIではL,F,Kと3つの妥当性尺度がありましたが、MMPI-3ではその数が爆増し多角的に妥当性を検証できるようになっています。質問紙法の弱点を潰しにきています。
もう1つは意外と論じられないていないのですが、質問項目を多くすることです。質問紙法で回答を歪曲するには、何となく都合のよさそうな(人によっては都合の悪そうな)回答をする方法と、事前に配点を仕入れて好ましい(人によってはそれとは逆に)回答をする方法があります。いずれの方法も質問項目が増えれば増えるほど困難になってきます。旧来のMMPIは550項目、MMPI-3でも335項目あり、新版TEG 3(53項目)、YG性格検査(120項目)、NEO-PI-R(240項目)よりも多く著名な心理検査の中で最多です。しかもこれらの中で唯一妥当性尺度があるため、回答に不整合が多ければ妥当性尺度でひっかかってくるわけです。
これらのことからロールシャッハテストとMMPIの組み合わせが一番かっちりしていると考え、負担を考えながら適宜使用しています。

今回のまとめ

  • 投影法は検査の中身が知れ渡りつつあるため回答が歪曲されうる。

  • 質問紙法の中でも特にMMPIは妥当性尺度と質問項目数の多さで回答を歪曲されにくくしている。



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