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不安の海を漂う妊婦

 妊娠中幸せな気分に溢れる女性も多くいるらしい。流行を通り越して今や普通になっているマタニティフォト(自分が妊娠している姿を撮る記念写真)では、大きなお腹を幸せそうな顔で撫でながら写真に写る女性が沢山いる。私は、マタニティフォトは撮らなかった。なぜなら私は妊娠中は、いつも不安でいっぱいだから。「元気に生まれてくるかな」「ちゃんと育てられるかな」「私がママで大丈夫かな」「お継母さんみたいに世の中には妊娠できない女性もいっぱいいるのに私が妊娠して恨まれるんじゃないか」・・・妊娠中は、ずっとそんな風にそわそわした気持ちになる。自分が妊娠していることも出産3ヶ月くらい前になって、どこから見てもお腹が目立ってくるまで人には言わないようにした。「流産した人がいるかもしれない」「不妊治療で辛い人がいるかもしれない」「自分も途中で流産しちゃうかもしれない」そう思った。そんな感じで生活しているもんだから、表情もなんとなく「もわ〜っ」と濁っている。妊婦は、トイレが近くなったり、変な夢をよく見るから、夜中によく起きる。そしてモヤモヤいろいろ考えだして眠れない。妊婦だから睡眠薬も飲めない。休みたいのになんだか休めなくて疲れる。私にとっての妊婦生活は、日々おかしくなって不安の水面に揺らいでいく自分が不安の海に沈まぬように必死でこらえる小競り合いの日々なのだ。

 私は、不安になると友達のマニちゃんに度々メールした。マニちゃんは、いつも正直でお世辞を言ったり、嘘をつかない人だから。たまに彼女の反応が辛口すぎて毒舌だったり、私の痛すぎるところを突いてくるものであると正直凹む。でも、「あぁ、やっぱりそうなんだ」「やっぱりマニちゃんは、私をわかっている」とすごくホッとするのだ。私の頭の中は、沢山の人格のそれぞれの声や人格のお面をかぶった実は親の声などが混じり合って鳴り響いている。ごちゃごちゃした私の脳内で一人冷静に私を見つめる人格がいる。マニちゃん曰く、その人格がまりちゃんに頼んで自分の言いたいことを言わせているらしい。「コトリちゃんの一部は、本当はわかってるんだよ 私にそれを言わせたいだけじゃない?」マニちゃんは言った。マニちゃんみたいに大人になっても等身大で正直な人は、とても貴重な存在なのだ。しかも心に優しさを合わせ持っている人はとても少ない。いや、正直で優しい人はきっと世の中に結構いるんだけど、それをあかの他人のいい歳の大人に分けてくれる人は、なかなかいない。そういう意味でマニちゃんは、私にとってもはや友達とかいう表現では表せない、すごく稀有な存在なのだ。

 そんな彼女に「二度目の出産だけど、まだ自分みたいにトラウマがある人間がちゃんと育てられるか不安だ」「心療内科行ってすごく生きやすくなったけど、まだモヤモヤが残っている」というようなことを漏らすと「心理学といえば加藤諦三先生が有名だよ テレフォン人生相談を聞いてみれば?」と教えてもらった。


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