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豚コマ肉と子ども雑誌と

近所のスーパーではレジの横に雑誌を陳列していて、その中にはもちろん子ども向けのものもある。
昔っからある、付録がついた、あの、あれ。
表紙にはアンパンマンだとかプリキュアだとか、なんとか戦隊とか、いろいろがぎゅうぎゅうに描かれていて、子どもたちを魅惑してしょうがない。
三人の子どもたちを引き連れてスーパーに行くと、その時々でなにかしらをねだられる。お菓子だったり、ガチャガチャだったり、そして、水曜日はこの付録付き雑誌だった。

「ねぇ~これ買ってよ~」
息子である。さすが中間子、カツオ的センスに長けている。
その日は参観でマラソン大会があった。頑張った今日ならイケると判断したのだろう。
それを見た娘、優等生気質が邪魔をして普段はなかなかおねだりができない。
が、カツオが撒いたこのタイミングにならすんなり乗られる。
あざとくキャラメルから雑誌に乗り換えると宣言した。

しかし、皆さんご存知でしょうか。
今日びの子供雑誌のお値段を。
息子が手にしていたそれは裏を見れば ¥1900 と書かれてあった。
表紙には猛々しいヒーローがドアップで映っている。

スーパーで¥1900っていうとかなりの高額商品なことは間違いなくて、お米なら5キロ、豚コマなら2キロ買えてしまう。

いや待て、いつも行くお肉屋さんなら今日は特売だから67円/g、3キロ近く買える。3キロの豚コマならうまくやれば一週間食いつなぐことができる。この¥1900 に家族五人、一週間分のエネルギーの価値があるのだろうか。

豚コマ算が止まらない。

表情を失って呆然とする私を見て、息子は無理だと悟ったらしく、やっぱりこれにする、とアンパンマンが描かれたものを差し出した。
裏表紙には¥670 と書かれていた。
豚コマ1キロだ。
娘は、サンリオのキャラクターが描かれたピンク色の雑誌を持っていた。
こちらは¥980 、豚ひき肉1キロちょっとだ。
2キロの豚肉がちらついて仕方がない。

欲しい気持ちはわかる。
大好きなキャラクターが所狭しと描かれていて、どこを開いても賑々しいその雑誌が楽しくないはずがないのだ。それに加えて魅力あふれるふろくが付いていて、それはわくわくするだろう。
この雑誌を開くその瞬間を思うと欲しくてたまらない気持ちになるはずだ。
わかる。ちゃんとわかってるんだ。
けれど、母さん豚肉がどうしてもちらついてしまうのだよ。

曖昧な押し問答を繰り返しているうちに退屈していた末っ子が、うーたんとワンワン(教育テレビのスーパースター)が描かれたそれを見つけてしまった。
「ワンワン!!」そう叫ぶが早いか、その雑誌を私に向かって突き出した。

三冊の合計は¥2380 、豚コマが……豚コマ……いや、豚バラだって、豚ロースだってたくさん買えてしまう。

キャラメルやぷっちょをねだられるのとはわけが違う。

ときめきが真っ最中の子どもたちに説明する。
「あのね、今日は本を買いに来たわけじゃないんだよ。とってもほしい気持ちは分かるんだけど、この本を買うお金でお肉がたくさん買えるくらいのお金がかかるんだよ」
こちらもそう簡単にお財布を開くわけにもいかないのだ。
今日はお肉の特売日でまとめ買いする予定だし、お給料日はまだ先だし。

少しでも傷を浅くしたい一心で、ガチャガチャを提案すると、長女はあっさり飛びついた。
息子は意地を張りたがったけれど、末っ子がヒヨコのマスコット人形が取れる小さなクレーンゲームのようなものにしがみついたのを見て、「これにする!妹に取ってあげたいから」と雑誌を手放した。
三冊の雑誌は思いのほか簡単にリリースできてしまった。

子ども雑誌にまったく罪はない。
とってもよくできたコスパ最高の本だと思う。何か月も、なんなら、何年も大事に読んでくれたりもするし。
すぐ飽きてしまうカプセルトイに比べたらよほどよかったのかもしれない。
でも、スーパーでいきなり想定外の¥2380 を払えないくらいには気が小さくて、そしてしつこいようだけど、水曜日はお肉の特売日だから、お肉を買うはずのお金で雑誌を買う気分にはなれなかったのだ。
そういうことってある。

また読みにきてくれたらそれでもう。