スーパー銭湯で無我に達する

最近、たまにスーパー銭湯に行っています。

家にもお風呂があるので贅沢なお話なのですが、遠くに旅行せずとも、ちょっとだけ非日常な気分を味わえるのが楽しい。あと最近のスーパー銭湯はそこそこ広い休憩所があったり水が飲み放題だったり漫画が大量に置いてあったりして、けっこう快適なのです。だいたい800円前後なので安いし。

銭湯の湯船って、窓も時計も置いていないんですね。いや、置いてあるところもあるかもしれないけど、自分の地元にある数軒は、いずれも置かれていません。

だから長湯しているとだんだん何分くらい経っているのかよくわからなくなり、不思議な感覚になってくる。

現代人の多くがそうであるように、自分も1日のうちのかなり長い時間スマホを見ているのですが、スマホを見ているということは同時に時計も見ているということなんですね。常に時間を気にしています。

バーに時計を置かないのは、時間を忘れて非日常な空気を楽しんでもらう、という意味合いがあると聞いたことがあります。まあ今どき、よっぽど格式の高いバーでなければみんなスマホで時間を見るんでしょうけど。

銭湯はスマホを持ち込めないので、強制的に時間のない世界に行けるのです。この亜空間のような感覚がやめられない。そして最後にサウナのテレビでマツコさんを見て現実に引き戻されるのも含めて心地良い。

ところで話が変わりますが、あまりにも変わり過ぎておまえちょっと大丈夫か?と言われそうなくらい変わりますが、世の10代以上の男性のほとんどは「賢者タイム」という時間を経験します。

この「賢者タイム」がいかなるメカニズムによって引き起こされる時間なのかについてここで説明するとぷらーな氏の清純なイメージが崩れるので割愛します。各自、自己責任でおググりください。なお、ググった後のいかなる事故に関しても自分は責任を負いません。

露天風呂というのは観光名所にしかないものだと思っていたのですが、調べれば近所のスーパー銭湯でも普通にあるものです。湯船のそばには畳が備え付けられています。ここまで来るともう、入浴料800円で採算が取れるの?と心配になってきますが、せっかくあるものなのでその畳で寝ます。

熱湯で茹でられた身体で、空の下の畳の上で寝そべる。銭湯なのでもちろん全裸。なんか微妙な背徳感もある。そうしてウトウトしているうちに、頭の中が一瞬だけ空白になって寝落ちする。ひとときの睡眠の中でとてつもなく綺麗な場所へと旅立っていく。

そしてしばらくすると起きるわけですが、わずかな時間だけ無我の境地へと達するあの現象はまさに賢者タイムそのもので、寝起きの時に夢の断片しか覚えていないのと同じく、確かに感じたけど具体的にどんな内容なのかは思い出せないのもとても似ている。

通常の賢者タイムは体験後しばらく身体が重かったりぼんやりしたりするのですが、スーパー銭湯の賢者タイムは逆に身体が軽くなり意識がはっきりするので良いことしかありません。その意識のまま全裸の漢だらけのサウナで汗を流すと、何かこう生まれ変わったような気分になれます。マツコさんはこの世界を知っているのだろうか。

煩悩を捨てて生まれ変わった姿で帰宅して20分後、靴のロッカーに入れた100円玉を取り忘れたことに気づいて戻りました。幸いその後に誰にも使われていなかったらしく、100円玉は無事に回収できたのですが、微妙に凹みました。

完璧に生まれ変わったはずなのに、100円玉を取り忘れた……そのためだけに20分を無駄にした……。さっきまでは賢者だったのに……。とぼとぼと僕は家路を歩いた。もう一度800円を払ってリベンジしようか、いや、それはちょっと……。

それから数週間が経った昨日、別のスーパー銭湯に行きました。同じように外で寝ましたが、賢者タイムは訪れませんでした。じゃあアレ、単に寝ぼけていただけか……?

いや、私は信じている。あの時、確かに私は賢者になった。いずれ再びあの奇跡を求めて、スーパー銭湯へと旅立つのだ。

サウナはたのしい。