死神の横顔

アイスコーヒーをそそいだグラスのなかに
黒い小さい虫がとびこんできてそのまま
インクの染みのようにくたっと浮いて
縁にゆらゆらと流れ着いていく
コーヒーのうえにできた溶けた氷の透明な層の静けさをみながら
わたしはただグラスをながめていた時間の長さを知る

濃紫色のうつくしいあざみが
炎天下の駐車場の傍らで光を跳ねかえし群生しているのを
毎日みながら駅まで歩いた
両手でも抱えきれないほどのあざみが
根こそぎ抜かれて同じ場所に横倒しに捨てられているのを
今日目撃してしまったがわたしは立ちどまることができない

影の許されない光のもとで突然息絶えるものたちを
深く弔うにはこころとからだがばらばらで
強い光に貫かれてしまったからだをすこし冷やし
こころが自らをとりもどすまでの猶予がうばわれたときに
目隠しをした死神がやってきて
手渡されたありったけの札束をにぎしめる手つきで
わたしを連れ去るにちがいない

あまりに急いで連れ去ろうとするので
青白い脚が残ってしまって
とんとんと床を叩き刻んでいたリズムがこの世に残っている
祭りの太鼓の音と車のアイドリングの音と冷蔵庫のモーターの音と
一緒になってわたしは夏の闇の蒸気のなかにとけてゆく
とけたわたしは死神に合流し
つぎに死すべきものの耳のうしろを追いかけている

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soi-disant poésie

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