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これが恋 #夏の香りに思いを馳せて

うちのとーちゃんは祭りが好きだ。

毎年夏にやって来る、この街のお祭りは家族行事になっている。
小学生だった去年までは、そんな子たちがたくさんいたし、私もそういうものだと思っていた。
でも今年は3つの小学校が集まった中学生。
少人数だった私たちの小学校は、田舎者の集まりで、他の小学校から来た子たちは何となくあか抜けている。

仲が良かった同じ小学校の子たちとクラスが離れてしまって、すぐに友達をつくれるタイプではない私は、ようやっと葵ちゃんと話せるようになった。
葵ちゃんはそんなに目立つタイプではないけれど、「おしとやか」という言葉がよく似あう。
私達はガヤガヤする教室の中で、二人だけの世界をつくり、好きな音楽や好きな本、好きな動画なんかを共有した。
不思議なほど「ここが好き」という部分が似ていて、同じように感じる所が居心地がいい。

みんな仲良く、という小学校までとは全然違う。
中には中学に入ってすぐに男の子とつきあっている子たちもいて、世界が全く違ってしまった。

夏祭りは一大イベントには変わりないけれど、私のように家族行事ではない。
みんなそれに向けて
「とおる君といっしょに行けるかなあ」
「カワイイ浴衣買っちゃった」
なーんてソワソワしてる。

「おまえらなんて、誰も行ってくれる奴いねーよ」
私の右隣の席の松下が言う。
席替えをしてすぐ
「今何時?」
と私の右手の腕時計をつかんだ。
思わす引っ込めた右手に
「何だよ~!」
何てこっちのセリフだよ、と心の中で毒づきながらも、ちょっぴりドキドキした。

それ以来、失礼な事ばかりを言ってくるもんだから、さすがの私も軽口をきけるようになって、今では唯一気兼ねなく話せる男子だ。

「お祭りまであと1か月だな!」
と楽しみにしているとーちゃんを見ていると、恥ずかしいから行きたくないなんて言えずにいる間にも、お祭りの日は近づいていく。

「朱里ちゃんは、松下君とお祭りに行くの?」
いきなり言われて驚いて葵ちゃんを見ると、真っ赤な顔で私から目をそらした。
葵ちゃん、松下が好きなんだ。
誰がどう見ても、すぐわかる。
「そんなわけないよ~。葵ちゃん誘ってみたら?
うちはおとーちゃんと行くし。」
言った後で、心がざわざわした。

「松下、お祭り誰と行くの?」
「あん?大吾たちと行くけど?」
「おまえは?」
「うん。」
おとーちゃんと行くとは、恥ずかしくて言えなかった。

葵ちゃんは松下を誘ったのかな?
聞けないままのお祭りの日。
声の大きなおとーちゃんとおかーちゃんと、ちょっと離れながら歩く。
遠くから松下の声が聞こえた。
私は松下の声を間違わない。
パッと目が合い、思わずおかーちゃんに
「トイレ行ってくる」
と、その場から離れた。

家族でお祭りに行ってたなんて、何だか恥ずかしい。
松下にきっと見られたよね。
明日、学校に行くの何だか嫌だな・・・
そういえば松下、大吾たちと一緒だったってことは葵ちゃんは?

次の日そんな想いを抱えながら、深呼吸して教室のドアを開ける。
松下と目が合う。
葵ちゃんが近づいてきて、
「松下君にふられちゃった。」
とうるんだ目で言った後、すぐに席に戻ってしまった。
仕方なく席に座る。
松下がガタンと席に着く。
絶対バカにされる・・・
胸がドクドクする。
「お前、昨日無視しやがって。」
絶対バカにされる・・・

「家族仲良くていいな!」
無邪気な顔でクシャっと笑う。

ドクドクとドキドキとホワーっとした気持ちが広がる。
自分の気持ちに鈍感な私は、今ごろ気づく。
はじめて自分の気持ちに名前がつく。




こちらの「夏祭り」で参加します。


創作ってむずかしい~
というか恥ずかしい~

でも、ステキな企画にぜひ参加したい!
えいっつ!参加!

記事を読んでいただいて本当にありがとうございました。 めちゃめちゃうれしいです! もしちょっとでもいいな、と思っていただきましたらサポートぜひぜひお願いします🙏