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ディベロッパー11

みなさん、初めまして。
プラノフと申します。
僕は趣味で小説を書いているんですが、noteに登録して小説のnoteを探していたら、たまたまこの「ディベロッパー」というリレー小説を見つけて、思わず一気読み。マガジンを見ると「誰でも続きを書いて良い」との事でしたので、このディベロッパー11を書かせていただきました。
初投稿なのでドキドキですが、読んで頂けたら幸いです。

青空ぷらすさんの「ディベロッパー10」
https://note.mu/purasu/n/ncdaa4b37bb79

目次(過去ログ・参加作品はこちらから)https://note.mu/purasu/n/nbc86a0a04957

ディベロッパーキャラクター説明https://note.mu/purasu/n/n15dd6fabeaba

マガジン(全参加作品が収納されてます。)https://note.mu/purasu/m/m11133cae80d6


「まったく、まったく! まったく!
どいつもこいつも、私の邪魔をしおって!!」
 死者蘇生技術を完成させ、不死の軍団を操って世界を掌握しようとしていた男、ドクター・プロトコルはヘリを操縦しながら毒づいていた。

 彼が今まで暗躍の場としてきたアジア各地でも、多少思惑通りに行かないことはあったが、ここまで計画が上手く運ばなかった事などはなかった。
 それも全ては、日本の忍者が作ったあの包帯男の所為だ。
 まったく面白くない。

「こうなれば、このサンフランシスコを私の兵隊たちの実験の場とするか……」
 プロトコルは邪悪な笑みを浮かべる。

 スウィーニー・リッジの研究所に運んだ、『素材の生成』は既にかなりの段階まで進んでいるし、十分な武器の備蓄もある。
 まだまだアメリカ全土を敵に回すことは出来ないが、このサンフランシスコを焦土に変えてやれば、『商品』のプロモーションとしては十分な効果を得られるだろう。『素材』は今この時も世界中で作られているのだ。

 面白い遊びを思いついたような笑顔で、プロトコルは無線のスイッチを入れる。
「こちらプロトコル。応答せよ」
 しかし、研究所の向こうから応答はなく、ただザーザーとノイズが聞こえるだけだ。
「スウィーニー・リッジ応答せよ。こちらプロトコル」
『こちらスウィーニー・リッジ。どうぞ』
「ただ今より、『商品』の性能テストを行う。ただちに商品どもをサンフランシスコに解き放て」
『『商品』とは蘇生させた死者どもでありますか? どうぞ』

 分かりきった事をわざわざ確認する愚鈍な返答に、プロトコルはイラつく。
「分かりきった事を聞くな! 今、すぐに命令を実行せよ!」
『それは不可能です。どうぞ』
「はぁ!? 不可能とはどういうことだ!」
『この胸糞悪い工場の機能は、俺たちが全部ぶっ壊したからだクソ野郎!

「正気かあいつ! 車で追ってどうする気だっ!」

 リック・ブリッジス捜査官は慌てて周囲を見回し、ディベロッパーを追いかけるための手立てを探した。が、ゾンビたちとの激しい銃撃戦に加え、ドクター・プロトコルによるガトリングガンの掃射を受けたカルデローニ邸で向こう側が見えないのは彼ら二人だけだった。
 リックは天を仰いで大げさに肩をすくめると担いでいたバレットを放り投げ、腰に付けたホルダーから無線を取り出した。

「リック・ブリッジスだ。研究所はどうなった?」

 リックとは対照的にハニー・ビーは落ち着き払っていた。あちこちから水が吹き出すようになってしまった庭の噴水の淵に結跏趺坐をすると、そのまま瞑想状態に入った。

 流石に疲れただろう。それにしても妙な格好で座るものだ。しかしあれ、ダイエットのポーズじゃなかったか? こんな時に?

 女ニンジャの不可解な行動を興味深げに観察しながらリックは無線で指示を続けた。

「救護用のヘリを頼む。研究所に市警の人間が二人いる。アルフ・テイラーとティム・ホワイトだ。まず彼らを拾ってからカルデローニ邸に来てくれ。大至急だ」

 リックは相手が無線を切るのを待ち、今度はクーダの無線機の向こうにいるはずの相手に向かって、穴だらけの邸が崩れそうなぐらいの大声で怒鳴り散らした。

「おいジェームズ! 聞こえてるんだろっ! どこにいるっ! 返事しろ! 一人で何をするつもりだっ! おい! 何とか言えジェームズ!」

 無線に向かって空しいメッセージを送っているリックの目の前をハニー・ビーが静かに通り過ぎ、巨大な邸のゲートに向かった。

「いいか! この作戦は私の……おい、ちょっと、どこへ……」

 ハニー・ビーはリックの問いに振り向きもせずに「後を追う」と答えて軽く屈伸運動をすると、人間とは思えない速さで走り出し、あっという間に暗闇の中に姿を消した。

 ディベロッパーが運転する71年型プリマス・クーダは、プロトコルのヘリを追って、ハイウェイを爆走していた。
 昼間に比べ車の量は少ないが、それでも猛スピードで走るクーダの前に次々と前を走る車のテールが迫ってくる。
 それらを右に左に交わしながら、ディベロッパーは決してアクセルを緩めなかった。

 しかし、いかにモンスターエンジン搭載のクーダとはいえ空を飛べるわけではない。
 ヘリが道路から離れて見失ってしまえばそれまで。
 包帯から覗くディベロッパーの目に焦りの色が浮かぶ。
 その時だった。
 ハイウェイの反対車線に沿った崖を登る、未舗装の細い坂道を彼は見つけた。そして、追っていたプロトコルのヘリが急旋回を始め、崖の方に向かっていったのだ。

 工場を……ぶっ壊しただと!?

 インカムの音が割れるほどの大声に、プロトコルは面食らう。

「お、お前は何者だ!?」
『俺の名前はアルフ・テイラー。サンフランシスコ市警の刑事だ!』
 後ろから小さく「とティム・ホワイトだ」と聞こえる。
 サンフランシスコ市警が何故スウィーニー・リッジの研究所にいるのか、研究所の機能をぶっ壊したとは一体どういうことなのか、プロトコルは混乱する。

「なぜ、サンフランシスコ市警がそこにいるのだ!」
『なんでも何も、テメェが勝手に連れてきたんだろうが!』
 そう言われてプロトコルは、リッキー・ブリッジスのアパートから運んだ二人の男を思い出した。
「そうか、お前たちはリッキー・ブリッジスの仲間だったのか……」
『ふざけんな!』
 再び、インカムが割れんばかりの大声にプロトコルが顔を顰める。
『あんなヤツの仲間だなんて冗談じゃねぇ! 一緒にむがが…』
 インカムの向こうで何か揉みあう音が聞こえ、声が変わった。
『悪いね、相棒は軽ぅく死にかけたもんで機嫌が悪くてさ。
お前さんの胸糞悪い工場は、俺たちとFBIのリッキー・ブリッジスが仕掛けたウィルスで機能を完全に停止させたから。当然ここにある全てのデーターはペンシルバニアのFBI本部の方に転送済み。これがどういう意味か、頭のいい博士だったら分かるよねぇ? どうぞ』

 インカムの向こうのニヤケ面が見えるような声に、プロトコルは着けていたインカムを投げ捨て通信を切った。

 くそっ、雑魚がっ!

 研究所のデーターは、全てクラウドシステムで本部のサーバーと繋がっている。そのデーターがFBIの手に落ちたということは、今夜中にも政府機関を通し、アメリカはおろか世界各国の機関にブラウザーの全てが公開されてしまうだろう。

 そうなれば取引のある国や組織は、報復とこれ以上の機密漏洩を防ぐために私の命を狙うに違いない。

 文字通り、世界中を敵に回したのだ。

 まさかあんな雑魚どもがこの私の行く手を阻むとは!

 有り得ない失策にギリギリと歯を噛み締めながら、それでもプロトコルは自分が生き残る道を考える。

 このヘリコプターの燃料もいつまでも持つわけではない。
 まずはロスアンゼルス……いや、サンディエゴあたりまで飛んで、人気のない場所に墜落したように見せかけるか……。

 プロトコルがそう考えてヘリを旋回させたその時、こちらに向かって坂道を駆け上ってくる一台の車のライトが見えた。それは獲物に飛びかかろうとする、猛り狂った獣の目に似ていた。

 ディベロッパーは考えるよりも先にハンドルを切り、サイドブレーキを引く。後輪が流れ真横を向いたクーダのアクセルを目いっぱい踏み込むと、中央分離帯に思い切り乗り上げる形で車体が宙に浮く。
 そのままクーダは、反対車線を飛び越えガードレールを突き破って坂道に続く未舗装の道路に突き刺さるように着地。
 その瞬間を狙って、ディベロッパーは再びハンドルとアクセルでコントロールしながら、クーダを坂道に乗せると、思いっきりアクセルを踏み込んだ。

 未舗装の道がクーダを跳ね上げ暴れさせる。
 しかし、ディベロッパーはアクセルを緩めない。
 プロトコルのヘリが、崖から離れても届くようにアクセルベタ踏みのまま坂道を上りきり、そして時速210マイルで空中に飛び出す。

 クーダのライトに照らされて、ヘリの操縦席で目を見開いたままディベロッパーを見るプロトコルの顔がハッキリ見えた。

「これで終わりだ」

 周囲の空気を震わせる爆音とともに、真夜中の空に巨大な炎が炸裂した。

 身体を包む熱とバラバラになりそうな程の衝撃と爆音に薄れていく意識の中、ディベロッパーの視界の端にゴールデンゲートブリッジが映る。

 いよいよ死ねる。

 やっとだ。俺の復讐は終わった。愛するリンダとジュニアの命を奪った奴らは全員地獄行きだ。

 目玉が飛び出すほどに自分を凝視した断末魔のドクター・プロトコルの姿が脳裏をよぎった。

 あの野郎……最後の最後に何か叫んで……それから……何かしたな……あれは何だ?……拳で腕を叩いたような……まぁいいか……復讐は終わった……はずだが……なんだこの感じ……なにか忘れているような……どのぐらい落ちてるんだ……思ったより長いな……今、どの辺だ……どんな格好してるんだ……空に舞い上がっているのか……海に落ちているのか……どっちでもいいか……怖くはない……蘇ってからずっと、この時が来るを待っていた……そうか。待ち遠しい瞬間ってのは……なかなかやってこないんだな……大丈夫か?……俺だけ地獄に案内されちまわないか?……。


 不意に身体が、きつく、優しく抱きしめられた。細く力強い腕にしっかりと抱き抱えられ、柔らかく豊かな胸を顔に押し当てられ、小さな手で頭を抑えられた。

 まるで母親に抱きしめられたようだった。

 誰?……そうか……迎えに来てくれたのか……まったく……相変わらずせっかちだな……。
 
 
 ……ただいま。リンダ。


 ジェームズは、復讐の鬼として蘇ってから忘れていた心の安らぎを思い出しながら、かろうじて保ち続けていた意識を、そっと手放した。

 サンフランシスコ市警にとってこれほど困難な事件は前例が無かった。
 いや、前例が無いからこそ困難なのであり、更に言うならこの一連の事象を事件として扱うこと自体が困難だった。二つの現場に夥しい数の死体を残しながら、この事件による死亡者は一人もいなかったのだ

 被害者と呼ぶことができたのはスウィーニー・リッジの研究所に向かった警官、消防、救急隊員だった。我々二人がヘリで救出された後、施設内にマスクなしで踏み込んだ全員が中毒症状を起こして入院した。
 研究所内は――施設に弾丸の穴が少なかったせいもあって――有毒ガスが充満していた。ゾンビたちはシステムダウン後、急速に腐敗、液状化したと考えられた。

 直ちにSWATから特殊処理班が派遣され回収を試みたが、施設の床に漏れ出した液状遺体のどこまでが誰であったかを割り出すのは、ドクの技術と知識を持ってしても不可能だった(三カ月後、人間以外に熊、ゴリラ、ワニ、ピラニアの遺伝子を検出したことを彼の名誉のために記す)。
 カルデローニ邸で採取された比較的程度の良い遺体は全て、一年以上前に死亡が確認されているマフィア構成員だった。

 両施設の所有者となっているドクター・プロトコルはヘリで逃走、数十分後の空中爆発の際に墜落した、との仮定でCSIの連中が付近一帯を捜索し、奇跡的にわずかな残骸を回収した。しかし狂博士の遺体は見つからず、根拠がリッキー・ブリッジズ捜査官の証言のみによることもあって、行方不明者として扱われた。

 この空中爆発と前後して別の奇妙な事象が目撃された。ルート101を走行する車の屋根の上を飛び移る金髪の女性を見た、というものと、ゴールデンゲートブリッジから海に飛び込む金髪の女性を見た、というものだ。
 深夜にもかかわらず、国外からの観光旅行客も含めた数十人の証人があるため信憑性は高い、と伝統あるくそったれタブロイド紙『フリスコ・エグザミナー』は報じた。

 私アルフ・テイラーと相棒のティム・ホワイトは勤務時間外にスウィーニー・リッジの研究所に拉致監禁後に救出された。その後の事情聴取の結果、研究所で何らかの薬品を投与され、心神喪失状態に陥っていた、と判断された。我々が研究所内で行ったであろう過剰防衛、器物損壊、死体遺棄(傷害ではない)は不問となった。

 その代わり狂気の実験と恐るべき野望を阻止した功績も評価されなかった。市警はゾンビなどという存在を認めるわけにはいかなかったし、先週『行方不明者』のリストに名を連ねたアントニー・ジョーンズ前市長と違い、新市長のリチャード・マークソンは我々に感謝状を授与する事は辞任することと同意であることを分かっていた。

 私とティムはサンフランシスコ市警の厄介者となってしまった。メディアに騒がれたくない署長は長期休暇を勧め、我々はこれを受諾した。六カ月あればワシントンDCにいるリック・ブリッジズからの転職の誘いに対して、しかるべき準備ができると考えたからだ。

「新市長の写真が撮れない? そんなことで電話をしてきたのかね?」

 アレクセイ・ユキノフは訪問した相手に顔をしかめて見せると、携帯電話に凍りつくような呪詛の声を浴びせかけはじめた。

「君はこれから帽子を被るようにしたまえ。どうせ空っぽの頭だ、何かに使わねば。一体何年この仕事をしているんだ? 本人を撮る必要などない。女房の写真を撮る。『彼女の寝起きの息が恐ろしく臭いのは新市長のイチモツのせいだ』と書き立てる。マークソン市長は自ら編集部を訪れてくれるだろう。これが読者が求めているもの、すなわちセンセーションだ……事実? 事実と言ったのかね?
「我々が『ある銀行が危ない』と書き立てる。愛する市民たちは金を引き出す。銀行は立ち行かなくなる。いいかね。我々が事実なのだ
「もし分からないのなら、まず右足を西に向けて踏み出すのだ。そして家に帰ってベッドにもぐれ。もう来なくてもよろしい……そうだ。そんなものが知りたい奴は経済紙を読んでる。我々の新聞に唾を吐きかけてな」

 アレクセイ編集長は電話を胸のポケットにしまうと苦笑いした。

「落ち着いて話もできませんな。できの悪い奴ばかりで」

 編集長の向かいで車椅子に座った紳士らしい男は薄く笑って片眼鏡を外し、クロスで丁寧に汚れを取ってからまた嵌めた。

「案外バカにならないものですぞ、できの悪い奴というのは。私はそういう輩を侮ったせいで酷い目に遭いました」
「大変な事故だったようですな。まったく奇跡だ」
「アンプルの量が少なかったせいでこの有様ですが、その反面パラダイムシフトが生まれた。生きた人間に微量を投与する。見た目は一般の人間と何ら変わらず、高い再生能力を持つ」
「後はお体が良くなられたら増殖能力の確認ですな。いや、伝染と呼ぶのが正しいのかな?」

 三月に入ってから『フリスコ・エグザミナー』は五年前に打ち立てた売上記録を毎日のように更新し続けた。
 ゾンビたちが人間に襲い掛かろうと準備している、という荒唐無稽な『報道』は、同紙の創刊以来の信条であるセンセーショナリズムを十全に反映しており、長年の購読者をして『これぞフリスコ・エグザミナー』と言わしめる出来栄えであった。

 編集長のアレクセイはこの絶好の機会を逃すまいと、通常の記事を全てスタッフに任せ、ゾンビ事件を元にしたムック本を企画編集した。終末も夏休みも返上し、ようやく原案者である紳士を訪問、最終原稿の確認を取りに来たのだった。

 片眼鏡をかけた男は、うまく動かない様子の左手を伸ばすと、デスクの上の原稿を自分の近くに引き寄せて記事を読み上げた。

「……侵略者は文化的にまったく我々と同等であり、その外見や挙動から『異物』であるかどうかは判断できない。まずはこの点に留意されたい……そう。見分けが付かない。これが恐怖だ。地球外という印象も良い。大変結構だ」

「すでにキャラクター商品の話も動き始めています。年末には新たな研究所も研究費も準備できます……ちょっと失礼。私だ。なに? 撮り逃した?」

 アレクセイ編集長は携帯電話を耳に当てたまま紳士を見た。車椅子に座った紳士は手を差し出して会話を続けるように促し、別の原稿を読み始めた。

「先ほどバカのボビーにも同じことを言った。一体何年この仕事をしているんだ? 今後は自分たちでバカ伝言板を作って回覧し、食事の前に読み上げるがいい。なぜヒーローたちがマスクをしていると思ってる……違う。誰でもなれる様に、だ。その辺にいる体格のいい奴に声をかけて写真を撮れ。
「なに? マスクがない? 君は車のエアバッグを返品したまえ。空っぽの頭を保護する必要はない。薬局に行って包帯を買う。それで頭をグルグル巻く。ダークヒーローの一丁あがりだ……そうだ……その通りだ……本物? 本物と言ったのか? 本物かどうかを気にするようでは本物のフリスコ・エグザミナー愛読者とは言えない。いいな。君たちは写真を送れ。私は……」

 アレクセイ編集長は再び相手を見た。紳士らしい様子の男は原稿から目を上げると大きな笑みを浮かべて編集長を見返し、深く頷いた。

私たちは戦争を送る

「おいティム。頼むからそのクソ新聞を広げるのはやめてくれ」

 ワシントンDCのロナルド・レーガン国際空港まで約七時間のフライトを前に、俺たちはサンフランシスコ国際空港三番ターミナルのカフェで暇をつぶしていた。ティムは低俗なタブロイド紙を少し下げて顔を半分だけ覗かせると、俺のリクエストに応じる代わりに質問してきた。

「なあ『クリス・フィッシャー』って名前に覚えはないか?」
「クリス……フィッシャー。どっかで聞いたような気が……なぜだ?」
「夕べ殺されたらしい」
「別に珍しいことじゃ……おい、まさか」
 ティムはタブロイド紙をこっち向きにしてテーブルの上に乗せると、相も変わらず胡散臭い記事が羅列している紙面の端にある、小さな囲み記事をトントンと叩いた。『猟奇殺人再び!』の見出しが目に飛び込んできた。

「どれ……今朝、ベイエリアの倉庫で惨殺死体が発見された。被害者のクリス・フィッシャー氏は椅子に拘束された上、体中を撃たれ冷たくなっていた……おい、この手口……」
「な? 引っかかるだろ。『フリスコ・エグザミナー』じゃなきゃもっと信用できるんだが」
「それにしても何なんだこの『アルカトラズの亡霊』って? ふざけやがって。お前もお前だ。ちゃんとした新聞買えよ!」
「ちゃんとした情報は本部に行ってからでいい。リックが調べてるだろ」
「じゃどうして買ったんだ?」
「これさ」
 ティムはタブロイド紙をひっくり返し、裏面に掲載されたコミックを得意気に紹介した。「あの『ブルー・スカイ・プラス・プロダクション』の新作だ。今日から連載開始だぜ」

フリスコ・エグザミナーをもっとよく読む

END


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