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小説

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コラボ企画参加作品とオリジナル短編です。
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記事一覧

タマさんのお散歩 【小説】

 タマさんがその店に立ち寄ったのは、ほんの気まぐれである。
 それを言うなら二月だというのに、暖かな陽気に誘われて散歩に出よう思いついたのも気まぐれだし、垂直に立てた尻尾を誇らしげに揺らしながら歩く黒猫の後をつけてみようと思ったのだって気まぐれだ。

 黒猫は、後ろのタマさんに気がついているのかいないのか、尻尾をふりふり動かしながら道の端をゆっくり歩く。
 どうせすぐに気がついて、どこかに逃げてし

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摩訶不思議生物奇譚 第3話 ~夏と島にまつわる私の郷愁~

摩訶不思議生物奇譚 第3話 ~夏と島にまつわる私の郷愁~

ぷらすです。
昨年夏に刊行のモノカキ★プロジェクト季刊誌「水銀燈VOL・2」に、僕も参加させてもらい、 以前noteで書いた小説「雨にまつわる、私の景色」の続編を書きました。

本作を含む3作は、「摩訶不思議生物奇譚」という名前のシリーズで、物書きの中年男「私」と、摩訶不思議な生態を持つ生物の出会いの物語です。

ちょっと長めの小説ですが、読んで頂けたら嬉しいです。(´∀`)ノ

1話 2話 4話

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雪虫の舞う季節に

雪虫の舞う季節に

ぷらすです。
モノカキ★プロジェクトの同人誌「水銀灯vol.2」が無事発刊されたということで、僕が前号で書いた小説をアップしますよー。
一応近未来SF? のつもりで書いたんですが、SF感ゼロの仕上がりになってしまいました。(〃ω〃)>
読んで頂けたら嬉しいです。

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■ sideA

「今朝も寒いね」
 おはようよりも先に、彼

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摩訶不思議生物奇譚 第2話 資料館と漁師

摩訶不思議生物奇譚 第2話 資料館と漁師

ぷらすです。
この夏に刊行予定のモノカキ★プロジェクト季刊誌「水銀燈VOL・2」に、僕もさせてもらうのですが、さて何を書こうかと考え、 以前noteで書いた小説「雨にまつわる、私の景色」の続編を書く事にしました。
で、書いてるうちに楽しくなって、短編連作でシリーズ化してみようかなと思い、この話を書きました。
「雨にまつわる~」が1話、本作が2話、「水銀燈」に発表するのが3話になる予定で、1話・2話

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摩訶不思議生物奇譚1 雨にまつわる、私の景色【スゴろくnote!】

摩訶不思議生物奇譚1 雨にまつわる、私の景色【スゴろくnote!】

2話 3話 4話
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 降りそぼる雨が屋根を叩く音で目が覚めた。
「ああ、今日もか」
 私は湿気で重量が増した掛け布団から這い出し、窓の外を見る。

 水平線の向こうまで広がる青空を遮るレースのカーテンのように、私の家の周りだけ雨が降っていた。

 田舎生まれの田舎育ち。人だらけの都会暮らしに馴染めなかった私は、すっかり心を病んで

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青空をアナタと 【小説】

青空をアナタと 【小説】

 私を夢の世界から引きずりり出したのは、ケータイの着メロだった。

 ノロノロと蒲団から手を伸ばし、まだ開きたくないと駄々をこねる瞼を無理やり開いて目覚まし時計を見る。

 5月13日(水)AM7:20。

 目覚ましのアラームが鳴る10分前だ。
「誰よ、こんな時間に!」
 はっきりしない意識の中、這うようにしてベッドから抜け出し、乱暴にケータイの通話ボタンを押す。

「もしもし?」
『今朝は綺麗

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砂漠夜話【小説】

 西の都と東の都の間には、とても大きな砂漠が広がっています。

 昼間は熱した鉄板の様に暑く、夜になると真冬の氷の中の様に寒いこの砂漠は、今まで何人もの旅人の命を奪ってきました。
 それでも商人たちは、商いの為に西の都と東の都の間を繋ぐこの砂漠を渡ります。
 なぜなら、西の都で作られた絹は東の都ではとても高値で売れますし、東の都で作られたスパイスは西の都では大変珍しく、やはり、とても高値で売れるか

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「capo」の思想実験 【スゴろくnote】

先日、ネットサーフィンをしていたら、様々な科学論文を集めたサイトで、「Capo」という名義の思想実験に関する論文を発見したので、こちらに転載します。

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まず、男女共学の高校を用意して、この中に「なんの取り柄もないが何故か美少女に縁のある男子学生(以降、主人公)を1人入れる。

学校の中には他に、各種タイプの違う美少女女子高生

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初恋 【スゴろくnote!】

 僕の住んでいる街は戦争時代、いわゆる「赤線」と呼ばれていた地域だった。もちろん今は違うけれど当時の名残で、迷路のような細い路地を入っていくと、間口2間ほどの狭い二階建ての小さな店がビッシリと並んでいた。

 一見、住居付きの小さな飲み屋のようだけど、一階の飲み屋で気に入ったホステスの娘がいたら、店のママに『特別料金』を支払って二階の部屋で……という仕組みらしい。
 『連れ込みスナック』とでも呼べ

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メイフノサクラ

『桜の樹の下には屍体(したい)が埋まっている』と書いたのは確か梶井基次郎だったか。
 文学というものに凡そ縁のない俺は、何処かで聞き齧った、その冒頭の一文しか知らないけれど。

 それでもこうして、見上げる者の視界を薄紅色に染めながら、その心を奪わずにはいられないほど妖艶に咲き誇る桜の樹を見上げると、『桜の樹の下には~』はどという戯言を思いついた男の気持ちも、多少は理解出来るような心持ちになる。

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・小説 目次・



・みゆきちたべにっき
「グルメもの」を小説でやったら良くね? と書き始めたものの、出来上がった作品は、思ってたのとなんか違ってました。

・みゆきちたべにっき2
『こんどこそ!』と意気込んで書いてみたものの、やっぱりなんか違いました。(*´д`)ナゼニ?

・人類はお引越ししました
未来の地球を妄想して書いてみました。
SF? ファンタジー? なんか、そんな感じのヤツです。

・人類はお引越

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みさきちたべにっき【小説】

 ミサが「池波正太郎」の名前を知ったのは、読書家が集まるSNSだったと思う。
 まだ二十代後半のミサは、「仕掛け人 藤枝梅安」や「剣客商売」などは、子供の頃に新聞のテレビ欄でそのタイトルを見かけたくらい。そもそも時代劇に興味のあるわけでもなかったので当然、ドラマを見たこともなかったしそれは今でも変わらない。

 そんなミサが、時代劇の大家である池波正太郎という作家に興味を持ったのは、SNSの中でミ

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みさきちたべにっき2【小説】

 三月になり、日中暖かい日が随分と増えた。

 まだ、朝晩はコートが必要だけれど、昼間はシャツにジャケットだけで十分な日も多くて、通りにいる人の数も増えてきたような気がする。

 ミサも、そんな春の陽気に誘われた一人だった。
 食道楽で飲んべえ。友人からはオッサン呼ばわりされている彼女は、冬の間、会社絡みの飲み会以外では殆ど外出することなく部屋にこもっていた。

 彼女のもう一つの趣味は読書なのだ

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人類はお引越ししました。【小説】

 透明なドーム越しに、沈みゆく夕日を眺めていた。
 遠くでカラスの鳴き声が聞こえる。
 もう少し日が暮れれば、狼や犬の遠吠えが聞こえてくるだろう。
 もしかすると、象の嘶きやライオンの鳴き声も聞こえてくるかもしれない。
 暴君による支配から解放された地球は、しかし、本来の姿を取り戻すことは出来なかった。なにしろ生態系がしっちゃかめっちゃかになっているのだから。
 けれど、彼らは持って生まれた生命力

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