白亜

漫画という形式のアートブック「白亜」

ぷらすです。

「愛✩まどんな」という人をご存知でしょうか。
都立芸術高校デザイン科卒業後、美学校・会田誠バラバラアートクラスを経て、絵画、立体、イラストレーション、ライブペインティングなど、国内外で活躍。

また、二次元美少女をモチーフに数々の個展やグループ展を行い、アイドルグループ「でんぱ組.inc」の衣装やアートワーク、ヴィレッジヴァンガードとのコラボグッズなど多方面で活動する新進気鋭の女性アーティストです。

そんな彼女が「Bバージン」「ゼブラーマン」「絶望に効くクスリ」などで知られる漫画家の山田玲司。
シリーズ世界累計500万部、空前のロングセラー「嫌われる勇気」や、2018年最大のヒット作といわれたマンガ「君たちはどう生きるか」を手がけてきた編集者の柿内芳文と組み、3年の月日をかけて完成させた初の漫画作品が『白亜』なのです。

表紙カバーと表紙のデザイン(あとサイズも?)は、自身もファンだという大友克洋の代表作「AKIRA」を完コピ。
しかし絵柄は見ての通りの可愛い美少女で、その絵柄は内山亜紀などの80年代に活躍した“美少女漫画家”を連想させるポップな作風ながら、「自らの愛を代弁し表現する究極のモチーフ」としての二次元美少女だけを描き続ける作家としての信念や、幻想的でどこか退廃的な「江戸川乱歩」的な世界を感じさせる「明るい狂気!」(愛✩まどんなx山田玲司対談より)に満ちたアートブックでもあります。

そんな本作の内容は、主人公で”不完全美少女”マイが親友カズノに片思いする物語を縦軸に『10代の「まっ白」な美少女7人がくり広げる、愛と狂気とエロと刹那の物語』です。

少女期特有の不安定さや潔癖さ、幼稚さ、身勝手さ、純粋ゆえの残酷さや、内に秘めたドロドロした欲望などを1冊の本の中に閉じ込めた純度100%の愛✩まどんな作品。

その創作過程は、彼女が山田玲司に「自分の中にある体験や欲望を吐き出し」それをもとに物語の全体像を話しながら「徐々に、ふたりでより具体的な物語にしていった」のだそう。

全9話の物語に設定し、各話でどんな物語が進行するかを決めていき、彼女が一話ずつストーリーラインを文章で書いたのを、ベテランマンガ家の山田玲司がネームに起こすという作業を繰り返しながら全体をシェイプアップしていき、最終ネームが決まったら愛✩まどんなが作画していくという手順だったのだとか。

作者である愛✩まどんな自身が投影されているという主人公マイの視点で紡がれる物語は、友人たちとの会話など現実の“外的世界”と彼女の心の中や空想の“内面世界”で進行するストーリーが入り混じり、やがて夢とも現ともつかないマジック・リアリズムの世界へと読者を導いていくのです。

そんな本作は、漫画の合間に登場キャラのカラーイラストが差し込まれていて、ミシン目が入っているカラーページを切り取って一枚の絵画作品として飾ることも出来るんですね。

これは編集者の柿内芳文の仕掛けらしいのですが、この仕掛けのせいで原価率が大変なことになってしまったのだとか。
また当初は出版社からの発売を考えていたようですが、この実験的な企画に乗ってくれる出版社はなく、結果フリー編集者の柿内が自ら立ち上げた「株式会社STOKE」で出版することに。
結果、クリエイティブ面に余計な横槍が入らなかったことで“作品”としての純度が保たれることになりました。

さらに発売前のプロモーションとして、2019年5月1日~7日までの一週間に渡り、アーティスト、漫画家、編集者の3人が「白亜」の世界観をそれぞれの“アート”として表現・演出するグループ展を開催。その費用をクラウドファンディングで集めるなど、いくつもの画期的な試みが行われていたのです。

値段も1冊3,672円(本体価格)と、「漫画本」としてはかなりの高額ではあるものの、アーティストの画集やアートブック。また、アメコミやバンドデシネなど海外のコミックブックならこのくらいの値段は普通ですよね。

「白亜」制作には、二つの狙いがあります。

一つは前述したように、作品としての純度を保つこと。
もう一つは物語を1冊で完結させること。
つまり、数話に分けて放送されるテレビドラマ形式ではなく、本作を1本で完結する映画形式で作りたいという意図があったのです。

この二つの狙いは、(出版のためのプロモーションも含め)出版不況が叫ばれ、コンプライアンスが厳しくなって自主規制だらけの出版業界で、「漫画」が(作家性とクオリティーを保ちながら)生き残るための答えの1つであり、本作はそれを形にしたサンプルでもあるんですね。

正直、いわゆる出版業界のコンプライアンス的にも商業的にも「白亜」はかなりギリギリな作品です。
しかし僕が若い頃の漫画の中には、こういう作家性が強く純度の高いアート的な漫画は沢山あったし、そうした清濁両面を許容出来る豊かな土壌の中で今や伝説となった漫画も生まれたのです。

ところが、今や漫画を取り巻く現状はすっかり萎縮してしまい、ヒット作を後追いする“商品”だけが求められ、殆どの作家が“作品”を描けない状況なのです。

3人が作り上げた「白亜」は、そんな漫画や表現を取り巻く現状を打破するために3人が出した答えの一つであり、“正しさ”を振りかざし多様性を否定する社会へ「NO」を突きつけるレジスタンス運動なのです。

興味のある方は是非!!


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