苦役列車(2012) 感想

144回芥川龍之介賞受賞を受賞した、西村賢太の同名小説の映画化作品。
原作は、作者自身をモデルにした半自伝的な物語。
監督は「もらとりあむたま子」の山下敦弘。主役の北町貫多役は森山未來。

あらすじ

子供の頃に父親が犯した性犯罪が原因で、家庭が崩壊した主人公 北町貫多(森山未來)は中学を卒業後、目標や夢もなく日雇い仕事で得た給料で酒を飲み風俗に通う毎日。
そんなある日、貫多は同じ現場で出会った専門学校生、日下部正二 (高良健吾)と仲良くなる。
また、正二の仲介で、貫多が片思いしている、古本屋でバイトしている苦学生 桜井康子(前田敦子)とも親しくなり、三人は一緒に遊ぶ仲になるが……。

ラジオで紹介されていて、ずっと気にはなっていたけれど中々借りる勇気が出なかった本作だったけど、同じ監督の「もらとりあむたま子」が面白かったので、今回レンタルしてみました。

結論から先に言うと、とても良かったです。

特に主人公 貫多の、だらしがなくて、粗野で卑屈でコンプレックスの塊という、下手な人が演じれば、ただただ嫌なヤツになりかねないキャラクターを、それでも憎めないキャラとして魅力たっぷりに演じきった森山未來さんの演技は素晴らしいの一言。

片思いの相手、康子に対して抱くロマンチックな恋心と、肉欲が一切の逡巡も矛盾もなく同居してる感じとかね。普通なら恋心と性欲の間で少しは揺れ動きそうなものだけど、貫多にはそれはないんですね。

「女=セックスの相手」というシンプルな思考なんです。
非常に動物的です。
ところが、「体だけが目当て」かというとそういう訳でもないという。
純愛の感情と肉欲とが、並列じゃなくて直列で繋がってるんですね。

貫多は万事そんな感じで、何もかもがアンバランスなキャラクターです。
 言葉遣いも「テメーバカ野郎」みたいなガラの悪い口調と「○○だっていうのかい」みたいな昭和初期の小説に出てくるのような言葉が入り混じってる。一人称は「僕」だし。
そんなアンバランスさに、映画の中では多くは語られない、貫多のそれまでの人生や複雑な内面が出ているように感じました。

中でも圧巻だったのは、中盤、親友の正二に出来た彼女と三人で飲みに行って、酔いに任せて二人を罵倒するところ。
その時の笑い泣きのあの表情を見るだけでも、この映画を見る価値があると思います。

そして、どうやら映画オリジナルキャラ(らしい)の前田敦子さんも良かったです。
「もらとりあむ~」同様に、特別演技が上手い感じはしないんだけど、なんか独特な存在感というか、宇多丸師匠の言葉を借りれば「実在感」があるんですよ。
舞台設定である昭和後期という時代で、彼女のキャラクターは異質です。
考え方や行動は平成のそれなんですけど、彼女が演じると、ちゃんと昭和の女の子になるっていうか。
その佇まいも含めた「実在感」で、昭和(物語)と平成(観客)を繋いでいたように思います。

映画後半、貫多は手に入れたものを全て手放し、深く傷つきます。
それは、観客や周りの人から見れば完全な自業自得なんですが、彼はそうは思いません。
そんな貫多の気持ちを代弁するかのように、現場の先輩だった男、高橋岩男(マキタスポーツ)がテレビ番組で歌を歌うんですね。
職場では、軽蔑していた元先輩の言葉が初めて貫多の心に響く名場面です。

本作の中で高橋は「もう一人の貫多」もしくは「未来の貫多(かもしれない)」という大事な役どころですが、マキタスポーツさんの起用は100点だったと思います。超ハマり役でした。

原作が私小説だけに、本作では映画的な改変が結構あるみたいで、その辺は賛否の分かれる部分みたいですが、原作を読んでいない僕にはとても面白かったです。
貫多の言動に「いたわーこういう面倒くさいヤツ」と笑いながらも、自分の心の奥の方にいる貫多は、思いっきり感情移入してるみたいなw

貫多の持つ「歪さ」を僕らはみんな持っていて、だけどそれを普段、それが見えないように見栄えのいい包装紙で包んでいます。だからこそ、歪さを隠しもせず丸出しでして生きている彼に、惹かれてしまうのかもしれません。


まぁ、絶対友達にはなれないけどねw


興味のある方は是非!

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