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初めのシャドウスレイヤー

戦士は農家の長男である。農家と言っても多少は土地を所有しており極端に貧乏では無い。そして彼には姉がいて、姉は彼氏の元に身を寄せていた。よくある地味な話である。
しかし、彼がまだ幼い時に故国で革命が起き姉の彼氏は革命に燃え、共和国化した際にちょっとした官職をゲットなどした。つまり彼は中央官僚の義理の弟となってしまいそれなりに豊かな暮らしができる様になったのと……相続すべき農地を失った。姉に奪われたのだ。

農家育ちで体力だけはあった彼は対モンスター戦に特化した郁芳裂斬いくほうれつざん流という剣術流派に入門し、小麦の収穫の際にサイズ(死神の持つ鎌)などを振り回していたから長大で鋭いグランドシャムシールを得物として修行した。群がる敵を小麦の様に刈り取れたら素敵だなと。

グランドシャムシール……長大な野太刀の如き刀剣だ。基礎ダメージは最大級の2d10(2〜20)だが、対金属装甲だとダメージが半減する。熊などの猛獣やキメラ相手に振るうのは良いが……

そして、皆が皆魔法を使う冒険者の一党に唯一の最前線担当として参加した(スレイヤーズが流行り、バスタードが連載中だったからだ)
なお採用の決め手は趣味で学んでいた罠解除や罠検知、つまり盗賊技能のサブスキル持ちだったからである。これは実際ガチで一党の女エルフに言われた事だが、「本職の盗賊より罠解除とか上手いって信じてるから!」
そんなバカな事があるか(真顔)
まぁ、この一党に盗賊が居ないというのが馬鹿の始まりだ。マジかよ(マジです)
解除確率が高いのは事実だが、それは注意を張り巡らせて観察し、考察するからだ。そもそもの確率の低さを思考で引き上げ経験で補足する。もし戦士がダンジョン管理をするならば、必ずここにアロースリットを配置するし、起動スイッチはここに置く。調べてみよう(GMから罠検知に補正値を貰う)……やっぱりか!
この様にして病的なまでに気を張り巡らせてサブスキルを使いまくると使用回数に応じてサブスキルが育つ。好きこそものの上手なれとはよく言ったものだ。
戦士が強力なアタッカーに育った理由も似た様なものだ。攻撃専従というか白兵戦しか出来ない彼は一党の壁役かつアタッカーであり、1人だけ最前線に立ち敵からの攻撃を1人で捌く。敵の攻撃を受け流しの技術で逸らし、自分の攻撃を効果的命中の技術で倍化ストライキングさせる。本来は複数人で壁を作りダメージを散らすべき所を、一党は有り余る回復力を用いて戦士一人に担わせた。結果的に通常の冒険者一党に参加している戦士の2〜3倍の副次技能使用回数を積み、戦士系サブスキルはアホの様に高まることになる。なんなら「こんなにサブスキル盛ったら流石の戦士でも手こずるでしょ」とミッションに出てきた鎧武者を更に上回るサブスキルで圧倒した事もある。大体周りは白兵戦したがらないから白兵戦での戦士の地力を知らないのである。
更にこの戦士は盗賊系サブスキルの時と同じ様なことを戦闘でも行う。朽ちたシャンデリアがあれば落とし、長大なテーブルがあれば脚を叩き折りその上の敵の姿勢を崩す。和マンチ極まる戦い方だ。近年の人にはゴブリンスレイヤー的と言えば伝わるだろうか。
ふむ、鎧武者か。ならばグランドシャムシールの威力は半減するが、遠隔攻撃で飛ばした真空波はどうかな?
なる程、グランドシャムシールは長大だから閉所では振り回せない。いい所に気付いたな。だがここにダガーというものがあり、私は強打スマッシュを習得している──そんな短い武器で? いや遠隔攻撃は強打スマッシュと併用可能だよ?
他人ひとは戦士を「殴ることしか出来ないつまらない職」という。しかしそのつまらない「殴ること」を徹底的に追求すると化け物になるのだ。最初にスマッシュを取りマルチアタックを取らぬ事を武僧モンクは非難した。だが戦士にすればヘイストの呪文で代用できる事を態々スキルでやるのは不合理に見えた。仲間は戦士を壁役として使役したが、戦士は仲間をバッファーとして使役した。技能を組み合わせるから強くなる──戦闘を単体全力の積算で考えてはいかんのだ。
この様な戦士を相手にする為、敵の白兵戦戦闘力は段々と上がって行き、気が付けば戦士でなければ──つまり魔法も使える戦闘職種程度では──攻撃は当たらず回避も出来ない、簡単に敵に屠られる戦線が生まれた。殴るしか能の無い戦士を極めると、殴ること以外も出来る連中では到達出来ない境地に至るのである。そんな戦士が立つ場所では、戦士並みの生き物以外は生き残れない。

そんな一党がシャドウスレイヤーを見つけたのは、まだ戦士がネームドクラスに到達する前の事だった。特定属性にストライキングの効能はあるが、補正は命中率向上のみでそれも冒険者の等級レベルに依る……当時の一党にはつまらない剣に見えた。等級上がればThac0タコゼロ(To hit AC0:D&D系旧ルール)も上がるんだから、等級低い時こそ命中率の補正が欲しい。ダメージ補正も無いしなんだこれ……
戦士(のプレイヤー)だけが気付いた。あ、これヤバい奴だ。無駄に見える等級上がった時の命中補正の使い方考えたら、これ激ヤバ過ぎんか。シャドウスレイヤー創出した奴白兵戦ルール熟知してない!
──まぁ、魔剣だし他のメンバーじゃ有効活用できないから戦士に持たせるか。こうして戦士の未来は「超戦士」である事が確約された。この剣は後々皆が呆れる程の猛威を振るうことになる。

素で命中性能が高い職種に更なる命中性能与えたら大惨事になるの見えてるでしょ!

戦士以外のメンバーでは当てることすら出来ない敵に戦士だけは5割近い命中率を維持できる。つまりもう戦士以外のメンバーは「魔法も使える」のではなく、「魔法でしか」戦えない。敵前には戦士以外立っていられなくなった。逆に言えば他のメンバーが前線に立てる時、戦士は敵と言う藁を狩る無敵の死神になるのだ。

こんな状況で戦士やってたから、強い戦士とかちょーつまんねーって視点になるだよ。ゲームで(あり得ないことに!)無敵戦士散々やってもーた(本人談)

方針変えて、noteでの収益は我が家の愛犬「ジンくんさん」の牛乳代やオヤツ代にする事にしました! ジンくんさんが太り過ぎない様に節度あるドネートをお願いしたいっ!