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わたしの旅行記③・・・オーストラリアの川に、酔う(後編)

(前回のあらすじ)
オーストラリア・ケアンズでラフティングに挑んだ私は、開始3分で川に落ちた。
幸い助けのロープが投げられたが、なぜか掴んだとたん「NO!」と怒鳴られたのだった。

どうなる、私!


この状態から、話は続きます。

それでもロープを握りしめていた私だが、とうとう怒鳴り声に負けて手を離した。

このまま何処へ・・・。

しかし次の瞬間、私は首根っこを掴まれガッと引き上げられていた。

後発のボートが助けに来てくれたのだ!引き上げてくれたのはインストラクターさん。
確かにそれなら、ロープへのしがみつきが仇になる。

私はオージー・おじさん二人組に感謝しながら、ラフティングへ復帰した。
今度こそタリー川の激流を乗りこなすため・・・だが、出来なかった。

なぜなら

酔ってしまったから!!


さっきから何なんだ君は、と思う方に弁明させてほしい。

確かに私は乗り物酔いがひどい。でもそれは左右の揺れに対してで、上下の揺れにはまだ耐性があった。そしてラフティングの魅力は、アップダウンのときめき。

だから行ける!と思ったのだ。私だって馬鹿じゃあない、多分。

でもタリー川には、そんな確信を吹き飛ばす威力があった。
アップに次ぐダウン。ダウンからのアップ。時に加わる水平カーブ。

ジャブ ジャブ ストレート のち アッパーって感じ。

ぷるる、K.O


せっかくボートに戻れたのに、別の意味で私は死にかけていた。
その横では西洋人たちが「Oh!」だの「Wow!」だの、キャッキャとはしゃいでいる。

地獄。

すべて自業自得だけど。

それでも何とか2時間(!)を乗り切って、お昼の休憩を迎えた。
しかし人々が笑顔でランチを楽しむ中、私はぼんやり虚空を見つめるのみ。
気持ち悪い、食欲ない、話しかける気力もなかったから。

だが、そんな私に近寄ってきた人がいた。日本語ができるオージー・ガイド氏だ(以下ガイド氏)。
彼は悲しげに眉を寄せ、「ダイジョブデスカ〜」と声をかけてくれた。

その優しさが身にしみ、ふいに泣きそうになる。
彼の笑顔に勇気をもらった私は、思い切ってこう告げた。

「ありがとう。でも気持ちが悪いので、私ここでリタイアします。」

実は行きのバスで、『リタイアシステム』の説明があったのだ。
体調不良の人はバスで、ラフティングの終点まで送ってくれるという。
スタッフからは気軽に申し出てほしいと、言われていた。

途中退場は悔しいけど、そんなこと言ってられない。
だが私の切なる願いに、ガイド氏は笑顔で首を振った。

「ソレ、『ダッスイショウジョウ』。シンパイナイ!」

脱水症状?


いやいや。
川に落ちた時、めちゃ水飲んでますやん。
おたくもそれ、見てましたがな。

「違います。酔ったんです」
「ダッスイショウジョウデス!」
「酔ったんですよ」

「ダッスイショウジョウデス!」


脱水症状・ゲシュタルト崩壊


何なの一体。『酔う』の意味がわからんのか。
私は脳を絞り、車酔いを英語で言ってみた。

「だからね、car sickなの。気持ち悪いんだってば」

辛い体にムチを打ち、ジェスチャーも使い主張する。
するとガイド氏は、深くうなずきこう言った。

「ウン、ダッスイショウジョウデス〜」

一瞬殺意を抱いたことを、どうか責めないでいただきたい。
だがこの不毛な会話をするうち、私もさすがに気づいた。

リタイアシステムは形だけってこと。

制度は作るが、使わせる気はまるで無し。
日本の行政でよく見られるアレなのだと。

だがこっちも命がかかっている、引き下がる事はできない。

休憩時間いっぱい、同じ問答バトルを繰り返す私たち。
だが結局タイムオーバー、軍配はガイド氏に上がった。

脱水症状背負い投げ、Ippon!


「ダッスイショウジョウ、ワタシサポートスルヨ!」

彼に背中を押され、私はノロノロと最初のボートに戻った。
ラフティングのために。さらに酔うために。
それからの2時間(!)をどう過ごしたかは、ご想像にお任せしたい。

皆さまの脳裏に浮かぶ姿で、正解だから。

もちろんサポートは、何も、無かったDeath!!!


さてラフティングの終盤、ボートは流れのゆるい場所に出る。

こんな感じの段差を経て、
達成感を味わう仕組み。


そう、川と遊べる時が来たのだ。

誰もが歓声を上げ水に飛び込む中、私はボートでぐったりとしていた。
もう指一本動かしたくない。

そこへ、つつつ・・・と別のボートが近寄ってきた。
見ればガイド氏が乗っており、笑顔で手を差し出すではないか。


「ダッスイショウジョウ、ガンバリマシタネ!」

だ・か・ら 

脱水症状じゃなーーーい!!!



しかし言い返す気力はもうない。
私は黙って川へダイブし、彼から遠ざかった。

そして澄んだ水に浮かびながら、荒ぶる心を整えた。


這うようにしてホテルへ戻ると、友人Kはすでに買い物を終え部屋にいた。
そして私を見るなりこう叫んだ。

「どうしたの?しぼんでる!!」

「枯れた花っぽい」とも言われた。


対してKは素敵な服を買い込み、輝いている。
せめてあなたが幸せでよかっ・・・た・・・。

Kに何があったか聞かれたので、私は説明した。疲れて事実をただ伝えることしかできなかったけれど。

しかしさすが我が友、実に良いツッコミと反応をするではないか。
そうなると、俄然こっちもノッてくる。

気づけば立ち上がっての熱演になっていた。特に「ダッスイショウジョウデス!」のくだりには力が入り、悪意に満ちたモノマネを披露。

そしてKの爆笑を勝ち取った頃、私はすっかり元気になっていた。

やはり疲れを取るには笑うに限る。
おかげで私は楽しい気分で、長い一日を終えることができた。


その翌日、私たちはグレート・バリア・リーフへ出かけた。
Kはダイビング、私はシュノーケリングを楽しむために。

グレート・バリア・リーフの海は透明度が高く、シュノーケルでも十分その美しさを味わえた。

もちろん移動の船で酔った。


私はのんびり海に浮かびながら、幸せを感じていた。
何事にも適正な距離があり、それは人により違う。

誰もが飛び込んだり潜ったりする必要はないのだ。ましてや川下りなど!

もう、その距離を間違えない・・・カラフルな魚を見ながら、思う。

そして何より、もう2度と自分を酔いで苦しめまいと、強く固く誓った。



だが、この時の私は知らない。
この13年後にバリ島ウブドで、またもや激しい酔いに苦しむことを・・・



次回、「バリ島ウブド、山上ホテルにて酔う」は、そのうち書けたらいいなと思っています。

ご精読いただき、ありがとうございました。


*写真はすべて無料画像サイト「O -DAN」様からお借りしました。
当時の写真は、実家のどこかで夜明けを待っている・・・

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