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ぬまたび①~沼に向かう~

「わたし、、、沼が、見たい、、、」
九十九一短編戯曲集の中のとても切ない話の台詞。
初演は四ッ谷の小さな舞台、それから、リーディングドラマとして様々なところでやった。小学校の読み聞かせでもやってみたが、子供たちが大笑いしていた。

海でもなく、湖でもなく、、、沼、なのだ。

「しんちゃんと行った、あの、じめっーーっとした、ぬま」

私も沼が見たくなった。
きっと、、人魚の姿を見ることも、女神様が斧を持ってあがってくることもないだろう。

それでも、死を目前にした女が最期にどうしても見たかった沼、、へ、私は向かうことにした。

橋を渡る勇気が出ない。
「大丈夫ですよね?」ビジターセンターの方に何度聞いても「はい」とは、言ってくれない。ただ、熊に出会ったときの対処方法の紙を指し示すだけ。
至るところに、「熊が住んでます」「熊が出ました」の張り紙。平日の森は人の気配はなく、、かといって、熊の気配があるわけでもない。

100円の地図を購入。
お守りの様に握りしめ、森に入った。
森には目印がない。歩けばそこが道となる感じで、地図を見ながら40分、かなり進んだはず。ふと開けた道に、大きな道しるべ。
あれ?ここ、最初に通った、、、、。

熊鈴を買いそびれ、スマホでレディガガを流し歌いながら進んでいたが、、、はっとして、地図を見る。まさか!途中三角形に描かれた部分が。ここをくるくる廻っていただけ??

日も暮れかけた森に、再度踏み入れる勇気もなく、しんとした森はただそこにひろがっていた。

しかし森を通り抜けることなく辿り着ける沼があった。本日は初めから、ここをゴールにしておけばよかったのかもしれない。毘沙門沼、水面に映る緑に吸い込まれそうだ。

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