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「ある日」は「唐突」にやってくる

ロシアがウクライナに侵攻して早一年が過ぎ,日本に近いところでも台湾有事といって物々しい情勢が続いております.物騒な言い方をするといつ核ミサイルのスイッチが押されて報復として世界中の核ミサイルが発射されてもおかしくはない状況です.

しかし,このようないつ人類が核によって滅んでもおかしくないという状況は昔にもありました.それが冷戦の時代です.1980年ごろはソ連のアフガニスタン侵攻やイラン・イラク戦争などがあり,不安定な世界情勢は変わりないような時代でした.そんな情勢の中発表された藤子F先生の作品が『ある日……』です.発表年は1982年です.


あらすじは明快で,おじさんたちが8ミリで作った映画を持ち寄って映写会をする.それだけです.

映写会で上映された映画の最初は仕事で海外出張をする人が世界のあらゆる観光地でジョギングをしている姿を流す『世界を駆ける男』というタイトルの作品.出張するにあたって毎度ジョギング用のシャツとズボンを持って行って撮影してできた作品です.自分のしている仕事の特性を活かし,内容とタイトルもすぐに結びつく明快な作品です.最後にこんなオチまでつけています.

ですから「すみませんがシャッターを押していただけますか」という言葉を十二か国語でしゃべれます。

GC異色短編集6「鉄人をひろったよ」『ある日……』p.135

2番手は十二年前にマイホームを構えてそこからずっと定点で撮影を続けた人の作品です.十二年前というとこのときだと1970年なので新宿を中心とした首都圏が西へ広がっていく時期で,その変化をとらえた歴史的に見るとかなり貴重な作品といえるのではないでしょうか.その発展するという予見を持って定点カメラを設置し八分に八年分の変化を詰め込んだ作品でした.評判も上々で「おそれいりました」や「よくまあ八年間も……」と感嘆の声が漏れます.

3番手には会長の作品STARWALK.スターウォーズの間違いではありません.せっかくなので原画の写真をお見せします.

藤子・F・不二雄ミュージアムの10周年記念原画展第5期で展示された原画
※原画撮影可能時期に撮影,またSNSへのアップロードは許可されています.

このプラモを息子に作らせ,ストームトルーパーのような顔をした兵士たちもプラモに作らせるといった息子に結構な労力を割かせている作品です.内容はだだっ広い船内を縦横無尽に走らされる兵士のお話で,ようやく船の先端に来たかと思えば忘れ物をしてしまってまた取りに戻らなければならない始末…….こんな状況では兵士に不満もたまるもので次のような文言で終わります.

「歩き疲れた兵士たちの不満が爆発し、反乱がおきたのはそれから間もなくであった」

GC異色短編集6「鉄人をひろったよ」『ある日……』p.143

つい「フフッ」と漏らしてしまいそうなオチで自分は結構好きです.しかしこれらの作品に対してつまんなそうに三角座りをしていた佐久間さんがついに口を開きます.

作家の主張がなにもない。問題意識のかけらも見当らない! ひま人の遊びにすぎない!!

GC異色短編集6「鉄人をひろったよ」『ある日……』p.144

言われた当人たちは怒髪天という感じなのですが,会長が嫌味な顔で「問題意識とやらにあふれる作品を見せていただきましょう」と言って佐久間さんの作品が始まります.

これはですね、現代の我われが置かれている状況、戦りつすべき状況をスバリ描いた映画です。

GC異色短編集6「鉄人をひろったよ」『ある日……』p.144

せっかくなので残りの2枚も原画の写真でお送りします.

藤子・F・不二雄ミュージアムの10周年記念原画展第5期で展示された原画
※原画撮影可能時期に撮影,またSNSへのアップロードは許可されています.
藤子・F・不二雄ミュージアムの10周年記念原画展第5期で展示された原画
※原画撮影可能時期に撮影,またSNSへのアップロードは許可されています.

自分はこの作品を読んだ時,「はー...…」とため息が漏れました.この作品の中では現実としておそらく核戦争が始まってのんきに映写会をしていた小市民の生活が一瞬にして消滅したのでしょう.そんな起こるはずのない現実味のないことを言ってといったような顔ぶれの3人と必死に力説する佐久間さん.そんな対比もむなしく全てを消し去る核.

自分はこの時代に生まれ落ちていないのでわかりませんが,この当時イラン・イラク戦争などもあって世界に緊張が走っていたのかもしれません.そんな中「あり得る話」というフィクションがノンフィクションになりかねない恐ろしさというものを感じます.

さて,時代は変わって現代.令和のこの時代,冷戦も終わって平和が続くと思っていればロシアがウクライナに侵攻したり中国が不穏な動きを見せたり,いつ特定の地域の戦争が世界大戦に発展してもおかしくないような状況になってしまいました.自分がこうしてnoteを書いている最中にももしかしたらどこかでミサイルが発射されて投稿ボタンを押した瞬間に「プツン.…」となっても不思議ではありません.

より物騒になっていく現代,核戦争の予見はできなくてももしかしたらこれと同じことが起こるかもしれないということはどこか頭の片隅に入れておくべきなのかもしれません.事実は小説より奇なり.英国詩人バイロンの言葉ですが,令和のこの時代だからこそこの言葉が真となり得る恐怖をこの作品から感じ取れるのではないでしょうか.

そういうわけで,今のこの時代だから読んで欲しい藤子・F・不二雄先生の短編『ある日……』の紹介でした.

ここまで読んでくださってありがとうございました.

― 了 ―

pyocopel


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