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0308「クレジット・リーディング」

今日は、朝6時からBASSDRUM(会社を含んだコミュニティ)の評議会だった。なんのことやらわからないと思うが、要は会社とその周辺のメンバーが集まって議論する会議で、今日の会議は本当に良い会議だった。皆さん本当に偉い、尊い、すごい人たちで、自分がこの中で仕事をさせてもらえていることが光栄すぎて気がおかしくなりそうだ。あんまりやると心身の調子を崩すので、ニューヨーク時間の夜の12時以降と朝の9時前はミーティングを入れないようにしているが、それでもどうしても発生することがある。朝早いミーティングの場合は、ギリギリに起きると絶望的な気分になるので、どんなに寝ていなくても1時間前には起きてコーヒーを挽くであるとか、抹茶を点てるであるとか、無理くり活動を開始しておくと、生活の中に自然に発生したミーティングとして処理できるので良い。

今日も日記を書かなくてはいけないが、昨日紹介した川村さんの記事が思った通りそこそこ共感を呼んでいて、これを書いている時点で♡163である。ちくしょう悔しいな。紹介するんじゃなかった。私はこんなに♡をもらったことないのに。しかし言及している限り貼らざるを得ないのでまた貼っておく。良いことが書いてある。自分では♡は押さない。

で、じゃあこういうクレジット話はなかなか話題設定として良いのかもしれない、受けそう、ということで、今日は、自分がここまでのキャリアで醸成してきた業界ストーキング術の1つを紹介することにする。

私は自分が携わっているデジタルクリエイティブ開発系の領域については完全にネットストーカーで、いろんな会社にいるいろんなプレイヤーがどういうスキルを持っているのか、みたいのはわりと追いかけている。アメリカに引っ越してからはアメリカの業界についてもそうだ。で、それは自分の仕事であるテクニカルディレクションにおいては、ともすれば開発チームを構成しなければいけないわけで、この性癖は仕事をする上でものすごい役立っている。いざというときに誰に相談すべきかを知りつつ、どこの制作会社にどういう人がいてどういう人材が足りていないのか等々、そういうところまである程度見抜くことが可能だ。

で、そういった業界ネットストーキングのコアにある技術が、「スタッフクレジットを読む」という技術だ。「アートディレクターが誰それ、デザイナーが誰それ」というようなあれだ。この、スタッフクレジットを読む、という技術はなかなか奥が深く、熟練を要する。私の場合、この業界に入る前に1年ほど業界に憧れまくっていた時期があって、その際にずーーーーーっと人が作ったもののクレジットを見ていたので、この「クレジット解析」についてはもう13年くらいのキャリアがある。このブログ記事に書いていた頃からやっている。

そんなわけで、これから書くのはこの「クレジット・リーディング」のうちの一部の重要なテクニックだが、あくまでこれは「こういう場合、この人はこういう人であるケースが多い」というだけの確率っぽい話なのであって、この条件に合致するからといって必ずしもこの「クレジット・リーディング」の結果が正しいというわけではない。実際結構当たるのだが、違う場合ももちろんある。ただ、読む人によっては、結構ガクブルする内容ではあるかもしれない。

早速、いくつかのテクニックを挙げてみる。

その会社の大黒柱を見極める

これは非常に基本的なテクニックだが、このテクニックが示唆しているのは、「スタッフクレジットは1作品だけ見てもあんまし意味がない」ということだ。複数のスタッフクレジットを見て比較する、というのが「クレジット・リーディング」の基本だ。

で、どんな制作会社やエージェンシーっぽいところにも、「大黒柱」が存在する。つまり、その人がいないとその会社の制作・開発レベルというか対応能力が全体的に下がるような主要プレイヤーだ。

見極めるのは簡単で、その会社がやっているプロジェクト全体の中で、やたらとその人が不自然に多くの案件にクレジットされている場合(ただし、クリエイティブディレクターやチーフなんとかオフィサー的な偉い人を除く)、その人はきっとその会社の大黒柱だ。

あとは、その会社のプロジェクトの中でも難しい案件や、有名なクリエイティブディレクターの作品に常にクレジットされているような人もきっと大黒柱だ。

繰り返すが、この大黒柱が抜けると、その会社の実力が全体的に下がったりする。

ただそこで重要なのが、大黒柱は必ずしも表向き目立っているわけではないということだ。メディアにどんどん露出する(インタビューされたりとか)クリエイティブディレクターとかの影で、意外に目立たずに不遇をかこっていたりする場合がある(これはその人の性格とか意識にもよる)。

リピート率を見る

これは重要なポイントである。人間、できれば気持ちよく良い仕事ができる相手と仕事をしたいものだ。ある仕事をやって、「あーこの人(チーム)との仕事はうまく行ったな」とか「この人(チーム)との仕事は楽しかったな」という成功体験が生まれると、当然ながらまたその人やチームと一緒に仕事をしたくなる。

であるから、同じチームで何回か続けてプロジェクトをやっているようなクレジットを見つけたら、きっとそのチームはお互いに優秀な人たちであるはずだ。少なくとも各々の持ち場できちんとプロフェッショナルとして動く人々であるはずだ。なぜなら、同じチームで仕事をするためには、最低限お互いに相手に対するリスペクトを持って動く必要があるからだ。その前提は、プロフェッショナルとしての仕事だと思う。相性もあるけど、相性以前にちゃんと仕事をしない人とは一緒に仕事をしたくないわけなので、相性の前に「優秀」であることが多いと思う。

優秀な人たち同士は、何回も同じチームで仕事をする傾向がある。

全然リピートしてない人

当然だがその逆もあって、人間、全然働いてくれない人とか、仕事が雑な人とか、責任を押しつけてくる人とか、パワハラとか、アレオレとか、そういうタイプの人とは仕事をしたくないものだ。私もまあ経験はある。「この人(チーム)との仕事は最悪だった」とか「この人(チーム)との仕事はグダグダだった」となると、その相手とは二度と仕事したくなくなったり、次回以降警戒したりはする。

ある人がクレジットされている仕事のクレジット一覧を比較して、全然チームがリピートしていなかったら、その人の実力は微妙な可能性がある(もちろんそうじゃない場合もあると思いますが)。

「中の人」を見つける

大黒柱の話とリピート率のハイブリッドな理論だが、大御所や有名なクリエイターには大抵、「中の人」がいる。これは大御所や有名なクリエイターをディスっているわけではなくて、基本的にそういう人たちは売れっ子なので、いろんな打ち合わせに引っ張られるし、メディアに出たりとか講演したりとか、まあ作業に集中できない。これは手前味噌だが、私自身ですら一日中打ち合わせに出席していたり、メディアに出たり、何かにお呼ばれしたりはするし、それはそれでもちろん仕事ではあるので、フルタイムでフルサービスを誠実に提供するのはなかなか大変だ(それでも毎日遅くまで仕事してどうにかしているのですが)。

で、そういう場合、多くの場合その大御所や有名なクリエイターを常にサポートする「中の人」がいる。「◯◯さんはカリスマプログラマーとしてもてはやされているが、実はそのチームには●●さんという真の神プログラマーがいる」なんていうケースはたくさんある。

これも簡単で、そういう人たちのプロジェクトの常連参加者を見て、必ずクレジットに入っている人が中の人だ。同じ会社とかじゃない場合なんかもある。

で、さらにいやらしいのは、この技術を使うと、「有能でないアシスタント」みたいのを見極めることができてしまうことがある。明らかに誰かのアシスタントとして動いているのにちょこちょこその人のクレジットから外れている人とかは、必ずではないが、微妙だったりすることがある。

大御所・有名クリエイターの実力

やや高等テクニックだが、大御所・有名クリエイターみたいな人たちは、実力があって大御所・有名クリエイターになっていると思いたいところだが、残念ながらそうではなく、世渡りだけで有名になっている人というのは少なからず存在する。

そして、有名な人はもはや自分のお抱えのチームを持っていたりするので、単純なリピート率では判断できない。

そこで注目すべきは、有名人同士のリピート率だ。

有名クリエイター同士がコラボレーションするようなことは良くあるわけだが、そこにもリピート率という指標が存在する。「有名クリエイター同士のリピート率」だ。有名クリエイター同士なので、どちらかが「あーこりゃダメだったな」と思ったらその相手とは仕事をしない。

ただ、単純にAさんとBさんがリピートしていないのだったら、それは相性が悪かっただけかもしれない。

問題は、AさんとBさんの他の有名クリエイターとのリピート率の比較で、Aさんは他のCさんと何回かリピートしている、しかしBさんは常に違う人とコラボレーションしていて全然リピートしない。

この場合、そこそこの確率で、Bさんは世渡りだけで有名になった実力のない有名人である場合がある。

これはそこそこ残酷な形で見えてしまうことがあって、この理論で「あ、あの人は微妙な人なのかなー」と推測できる人のことを他の有名クリエイター的な人が「あいつは何にもしなかった。二度とやらない」なんて酷評していることは往々にしてある(そうではない場合もあるかと思うけど)。

AさんもBさんも両方共他の人とリピートしているようならそれはきっと相性が悪かったのだ。

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他にもいろんなテクニックがあるが、私の場合、業界ネットストーキングをするときに結構このへんを見ている。ちなみに、私の師匠といえば、PARTYの伊藤直樹さんだが、伊藤さんは、私が一番下っ端のプロジェクトマネージャーとして入っていたキャリアの初期の案件で、「お前が一番貢献したから」という理由で当時の私の会社の上司を差し置いてクレジットの順番を伊藤さんの次の2番目にしてくれた、ということがあった。

これは業界の慣習とか会社の上下関係を考えると結構パンクなことだった。一回上司を慮って私がクレジットを直して出したら、伊藤さんが「いや、元のがいいんだ」と言ってわざわざ差し戻してくれた。で、その後もずっとリピートしてくれた(というかリピートが高じて会社を一緒につくった)。

あのとき自分を評価してくれたことへの感謝は一生忘れることはないと思う。

前述のブログ記事にも書いたように、私はクレジットの恨みで頑張ったようなところがあったのだが、その後そんなふうにクレジットに救われて仕事を続けてきたところもある。

クレジットはよく読むと、その人たちの仕事へのスタンスとか、働き方とか、価値観とか、いろんなものを投影している。私も人のクレジットをミスったことはあって、お詫びしてもしきれないケースもあるのだが、クレジットというのはたまにその人の仕事人生を変えてしまったりするものなのだ。

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