ロサンゼルスからの便って、こんな変な時間のあるんだなと驚いたが、朝４時に東京に着きつつ、９時から打ち合わせが入っていたので大井町の温浴施設で仮眠を取ろうと思ったら、「おふろの王様」が閉まっていた。仕方がないので、渋谷近くまで移動して別の温浴施設に行って、サウナと水風呂を４往復しつつ、仮眠を取った。さすが日本のサウナ、わりとすごい疲れが取れた。

そこのサウナ室は、老舗でもありなかなか汚くて、週刊ポストとか、FLASHとか、そういう日本の雑誌がそのへんに転がっていた。あと、そこはイレズミOKの施設なので、完全にそっち系の方が一緒だった。「お兄ちゃんよく来るのかい？」みたいに話しかけられたので、飛行機で着いたばかりという話とかでそこそこ盛り上がりつつ、FLASHに載っていたグラビアを見て、「いやーこの姉ちゃんいい体つきしてるよね」的な同意を求められ、異論はないので同意したりしていた。本当に日本っていいなあと思う。

日本は楽しいなあと思いつつ、打ち合わせをやってオフィスに出社したら、会社の前のファミマの入口で結構な量の鳥の糞に直撃されて、このアジアツアーの幸先の悪さを象徴するような形で非常にテンションが下がった。

その筋の人には比較的気に入られる傾向にある。一番やばかったのが初心運転者教習のときのことだ。

免許を取って一年間以内とかで違反を切られたりすると、この「初心運転者教習」というのを受けなくてはならない。この初心運転者教習では、免許の更新のときとかで見せられる辛いビデオに加えて、３人１組での路上講習というのがある。

で、私は１年目にいろいろ違反を切られてしまって、この初心運転者教習に行く羽目になった。

ところがこの初心運転者講習には「免許を取って一年間以内に３点以上の違反を切られる」という条件と、もう１つの参加条件というのがあったのだ。３人１組での路上講習のとき、私も当然３人組の一人になったわけだが、私以外の２名が、明らかに自分と違うタイプというか、その筋の人たちだった。私は大学４年とかで、そういう方々にあまり触れたことがなかったので、大層びびった。路上講習中はチームプレイだ。向こうは積極的に話しかけてくる。

「おい兄ちゃん、今日は暑いのう」

とか、もうなんか男塾感あふれる広島弁的な何かで話しかけられるのだ。

で、よくよく聞いてみると、この人たちが初心運転者講習に来ている理由は、「免許を取って一年間以内に３点以上の違反を切られる」ではないもう１つの方の理由だった。それはなんなのかというと、「免許更新期間中に一定期間以上刑務所に服役して免許が切れてしまった場合、初心運転者講習を受ければOK」というやつだ。

つまり、このお２人は、ちょうど刑務所から出てきたところだったというのだ。

旭川刑務所にずっと服役していて、２週間前くらい前に出てきた。２週間ずっとすすきので豪遊してやっと東京に戻ってきた、のだという。それはボスっぽい１人の方で、もう１人の方は別のところに行っていたっぽかった。もうちょい短かったらしい。この旭川に行っていた方が明らかに上役だった。本を読んでいたので、旭川刑務所がどちらかというと長期の重罪の人たちが行くところだというのは覚えていた。こ、これは・・・。

「な、何年入ってたんですか？」

「15年」

懲役15年って、それなりのことをやらないとそんなに服役することにはならないだろう。

「何やったんですか？」

「あー。抗争抗争。抗争で◯◯組の若頭を日本刀でバッサリ行った」

「あー抗争抗争」って。

もう一方も似たような事情らしく、私は教習の先生と人殺し２名とS字とかクランクとかを練習する羽目になっていた。クルマの中でもそういうハイブローな会話が繰り広げられた。先生もビビって止められない感じだった。

その後も、大変に聞いたことのない話を聞いた。その頃はバーテンダーを経験した後だったので、人にしゃべってもらう技術がそこそこついていて、気持ちよくお話頂いた。気に入られたのだ。

「日本刀の練習するために、本物のニワトリを何度も切った」

「一応銃で攻撃することも考えたんだけど、エレベーター降りるときを狙う予定だったから、銃だとエレベーターの壁で跳ね返って危ないから日本刀にした」

「すすきのの◯◯の姉ちゃんはめちゃくちゃいい」

等々の、含蓄の深い話をたくさんお伺いして、最後に「兄ちゃん、困ったことがあったらいつでも電話くれや」と言って、S会（有名な指定団体）の名刺をくれた。

あの業界の方々は、刑務所から出てくると待遇がガッと上がるものなはずだから、「人生これから」というタイミングだったろう。

怖いから連絡していないが、もうあれから20年くらい経っているので、あの方も結構な大御所になっているのではないか。近日中、新幹線で移動するときに「週刊実話」でも買って読んでみようかと思う。