見出し画像

0411「『楽しい職場』という凶器」

昨日はBASSDRUM台湾総会だった。海外でBDのコミュニティのイベント展開をやるのは初めてだったが、最初としてはずいぶんうまく行った気がする。詳細はBASSDRUMのnoteでレポートを書かなくてはいけないが、ちょこちょこ呼んだ技術職ではない方々が結構面白がっていて、わりと次のイベントの話につながったりとかしそうでとても良かった。

BASSDRUMはすごくイベントが多い会社・コミュニティなので、こういう、構成員総出で海外に行くような催しが結構あるが、1月のラスベガス以来、AirBnBで家を借りてみんなで泊まる、みたいな流れになっている。私はわりと、仕事は殺伐としたチームでやるのが良いと思ってきたのだが、特に私は海外でもあるし、このようにたまにがっつり顔を合わせるのは尊いことだなとは思う。

社員旅行とかあんまり行ったことないし、わりとそういうものから逃げて生きてきたんだが、社員旅行というのは本来こんなような効果を期待して行われるものでもあるのかなと思う。会社・コミュニティの人間で集まって議論したり酒を飲んだりするのは良いことなのだろう。実際そういうのはとても楽しい。

しかしこういうコミュニティというのはそう簡単ではない。
例えば私が12年前くらいにイメージソースノングリッド)に入社した頃は、会社のメンバーが毎月クラブイベントのようなものをやっていた。社員がみんなDJ的なことをやるのだ。さすが最先端のデザインスタジオ、超かっこいいなー、とか思っていた。

入社してしばらくして、このイベントに参加したのだが、その回が、会社と仲が良かったセミトランスペアレントデザインの菅井さんの誕生日会を兼ねた回だった。その日は菅井さんの誕生日の週だったのだ。

菅井さんは当時から独立していろいろ面白いことをやられていて、自分にとってはクリエイターとして雲の上の存在だった。

問題は、菅井さんの誕生日と私の誕生日が近かったということだ。しかも、同い年だ。菅井さんは4/28、私は5/3だ。そんな日付まで覚えている。その日はゴールデンウィーク明けだったので、菅井さんが祝われるなら、私だって祝われるべきだったのだ。

かたや、会社と付き合いのある外部の有名クリエイター。かたや、内部の無名な新入社員。菅井さんはみんなに「おめでとー」なんて言われている。私は新入社員だし、コミュニティに馴染んでいないので、カウンターで一人寂しくウイスキーを飲っている。寂しくなんかない、羨ましくなんかないもん。

自分はウイスキーを一人で飲みたいしそういうハードボイルドスタイルだから一人で飲んでるんだ。好きでやってるんだもん。

盛り上がるイベント。そして宴もたけなわ、午前1時くらいになると、「菅井さんおめでとー!」、イベントは最高潮となり、菅井さんのDJプレイが始まる。みんなか菅井さんを祝福している。私はDJなんてやったことはない。DJ、やってみたかった。レコード、集めてみたかった。30歳の誕生日っていったら人生に一度しかない。数日違い、ほぼ同じだけの人生を過ごしてきたのにこの差は何なのか。私がハゲてるのが悪いんですか? 何が問題なんですか? 前世の報いですか?

などと思いながら、盛り上がるフロアを横目にウイスキーをあおる。「ノリの悪い新入社員だな」と思われるのならまだマシだ。それはつまり、ノリの悪い私を見つけてくれた誰かがいるからマシなのだ。あの日、私のことを「ノリが悪い」と思った人はいなかっただろう。誰も、カウンターでウイスキーをあおる私を見ていなかったはずだからだ。私は、空気だった。

30歳の誕生日を迎えた、ただの空気だった。

トイレに立って、鏡を見て自分が存在することを確認した。

新入社員だから、早く帰りすぎないようにして、3時くらいに会場を後にする。三軒茶屋の街は眠っている。いつかこのイベントで、菅井さんと一緒に祝われるくらいになる。そう、心に誓って、静かな三茶の街を歩いた。泣いてなんかいない。「ハッピバースデートゥーユー」と呟いた。それでも三茶の街は、静かだった。

で、何が言いたいのかというと、この当時のこのイベントをやっていた会社にも菅井さんにももちろん何の罪もないのだが、一定の規模のコミュニティをやっていく場合、ちょっと気を抜いてキャッキャ盛り上がっていると、このときの私のような人が発生してトイレで泣いているかもしれない、ということだ。

クラブイベントなら去る者追わずで来たい人だけくれば良いのだが、これが会社とかだと、目的はあくまで仕事なのだから、「楽しい職場・楽しい人間関係」にプライオリティを置くことで、大事な仕事仲間を置いてきぼりにしてしまうことというのは結構ある。

制作会社みたいな総合サービスをやる会社だと、ディレクターやデザイナー、エンジニアみたいに、いろんな人種が一緒に仕事をしている。会社の中で、特定のクラスタだけがキャッキャしていないか、みたいのは気をつけないといけないと思う。人知れず病んでいるエンジニア、とかは人知れず発生する。どこにでも、文化祭になじめなくて体育館の裏で漫画を読んでいる奴はいるのだ。しかし、それか会社みたいな組織だったら、その人は仕事上必要だから一緒にいるのだ。文化祭やクラブイベントとは違う。

というわけで、私はBASSDRUMを運営する上で、ここにはかなり気をつけている。キャッキャせず、あくまで仕事上の職人同士のリスペクトによって成り立っている、質実剛健な人間関係。仕事のための集まりなのだから、基本的に仕事と職能を通して絡む。

「楽しい職場」にもいろいろある。「人間関係が楽しい職場」と「仕事が楽しい職場」はイコールでない場合がある。光があれば影は生まれる。コミュニティをつくる人は、どちらかというとコミュニティを楽しんできた人、常にコミュニティの中心にいた人であることが多い。だから、影の存在に気づかないまま光を強めることばかり求めることがある。

しかし、あるコミュニティは、そうではない人の居場所であるべきだし、能力を発揮できる場所でなくてはならない。

私はできれば、バーカウンターでウイスキーをあおっている新入社員に、「おめでとう」と言える人でありたい。できていない可能性もあるし、いろんな人を傷つけて来ているはずだ、が、私はそうありたいのだ。

菅井さんは、ニューヨークのオフィスに一度遊びに来てくれた。あのとき、眩しい存在だった菅井さんが、ちゃんと私を認識して会いに来てくれて、すごくありがたくて嬉しかった。早いけど誕生日おめでとうございます。

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!