1218「嫁にお土産がないことの言い訳」

行きの飛行機と同様、またしてもエコノミークラスの一番前の席なので、相変わらずフルフラットで眠ることを許されたビジネスクラスの上級人間たちが銀器に乗ったマカロン状のものを目の前で供されているのが見える。しかもそこにはあろうことか子供がいる。子供の分際でビジネスクラスに乗り、マカロン状のものを食っているのだ。いくらなんだって教育に悪いだろう、とか思うのだが、それは逆に差別でもあるような気がする。

目の前でマカロンを食っているこの子はこの子で、好き好んで金持ちの家に生まれてきたわけではないのだ。この子にはこの子の苦労というものがあるに違いないのだ。好き好んでビジネスクラスに乗っているわけではないのだ。というわりにはキャッキャ言いながらマカロンを食っている。

打ち合わせばかりではあったけど、とても実りの多い出張だった。特に最終日(さっき)に上海でチームに途中経過をプレゼンしたプロジェクトは、ちゃんとこのまま期待通りに行けば、本当に世界を席巻できる気がする。そのくらいあんまり誰も実現できていないものができそうな気がするが、まだまだ時間はかかる。

悔しいのが、嫁と長女にお土産を買っていけなかったことだ。長男と次男には、男の子が好きそうな変わったガジェットを先週深圳で買ってある。

嫁には日本のお菓子、特に今回は最終的な日本の出国地が福岡だったから、福岡銘菓的なものとできれば夫婦そろって好物であるからし蓮根を買っていくつもりだった。長女が好きそうなガジェットなど深圳にはないので、本屋で幼児雑誌でも買っていくつもりでいた。年末に家族でフロリダのディズニーワールドに行くので、るるぶ的なものもあったら買っていくつもりだった。

ところが、一昨日の福岡→上海便、ゲートにたどり着いたのが出発ギリギリになってしまい、買い物が全くできなかったのだ。せっかくサウナを早めに出て余裕を持って空港に着いたのにどうしてこうなったのかというと、原因は、私のパスポートにある。

私のパスポートは8年ものくらいなのだが、思ってもみなかったことながら、結構海外主張が多い生活を送る羽目になったうえ、途中で海外移住までしてしまったもので、いろんな国・環境に連れて行ってしまい、ボロボロになってしまった。

ベラルーシでKGBの話をしたら相手に口を塞がれたときも、ラスベガスで銃撃があった後に「伏せろ!」って言われて伏せたときも、台湾で蛇の血を一気飲みしたときも、ずっとこのパスポートが一緒だった。
雨の日も雪の日もカバンの中に入れっぱなしにして行動していたら、いろんな汁が染み込んでしまい、すごい感じになってしまった。

今まで、このパスポートで止められたことはあった。確かシンガポールに入国する際に一度パスポートが汚すぎる罪で別室行きになったことがある。

ただ今回は空港のチェックインカウンターで止められてしまった。
「お客様のパスポートはきたな・・・破損が激しいため、このままでは上海で入国拒否される可能性があります」と言い出したのだ。
私としては、同じパスポートで既にこの1週間でいろんな国境を出たり入ったりしているし、実際中国にも入国している。なので、いくらなんでも入国拒否はないだろうと思ったのだが、たぶん航空会社の人が新人さんで、私のパスポートのあまりの汚さにショックを受けたのだろう。

知らなかったのだが、航空会社は、パスポートの破損等をチェックせず、外国への入国時にパスポートに問題が発覚した場合、送還の交通費など、責任を問われてしまうらしいのだ。なので、この担当の方の判断はリスクヘッジというわけできっと正しいのだろうが、私はこのパスポートでずっと国境を通過しているので、「大丈夫なので早くパスポート返してください」となる。

ところが担当の方は「このパスポートの写真を上海の入国管理に送って判断してもらう」と言い出した。「勘弁してくれ」というやつである。まず、そんなことをしていたら時間がかかってしまう。次に、このレベルの汚れたパスポートで入国させるかどうかの判断をする立場を想像してみるとわかるのだが、仮に私がそのまま中国に渡航したとして、入国管理官としてはこの汚いパスポートを目の前にして「うわーきったねえなこのパスポート。けどここまで来ちゃったんだったらしょうがねえな。他の情報に不備はないし通しておくか」となる。ところが、日本からメールで「この汚いパスポートについてどう思いますか?」なんて来たら、「汚いから変えてください」って言うに決まっているのだ。そういう立場の人が、事前にリスクを提示されて、ゆるい判断をするわけがない。
いわゆる「ヤブヘビ」になるやつだ。

というわけで案の定ヤブヘビになり、中国側から「汚いからパスポート変えてください」という連絡が来てしまった。

それで航空会社の担当者はどうしようどうしようとなる。もうこの時点で出発直前になっている。仕方ないから「私は上海で重要な仕事があるし、上海経由してアメリカに帰らないといけない。ここまでに国境を通った実績もある。誓約書でも何でも書くからパスポートを返してくれ」と食い下がって、実際「自分のパスポートの汚さのせいで入国できなくても自分で責任取ります」念書を書かされて、ギリギリでパスポートを返してもらえた。というわけで、買い物を一切できなかったのだ。

上海に着いて入国手続きをした。実績があったのであまり不安ではなかったのだが、やはり少し緊張した。上海の入国管理官は、パスポートを見て顔をしかめた後、「ヤレヤレ」という顔でスタンプを押してくれた。

いま私はこれをニューヨークに帰る飛行機の中で書いている。すべて、嫁にお土産がないことの言い訳のために書いている。

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