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フィギュアスケートコーチのまなざし

 「ワールドユニバーシティゲームズ(WUG)冬季大会2023」の一コマである。あの一瞬、そこにカメラが向けられていたのはなぜだったのか。FISUの国際映像なのだ。しかもLIVEだったというのに。それは、私にとって、感動の一瞬だった。

 SP1位の坂本花織選手を残し、演技を終えた三原舞依選手。その三原舞依選手のノーミスのフリーに対し、客席にいた山本草太選手のコーチである本郷裕子コーチがスタンディングオベーションをしている姿が映ったのですが、彼女が目元を何度か拭う仕草をされていたのです。涙されていたように見えました。自分がコーチをしている選手ではないのに。優勝が決まったわけでもないのに。それは、三原選手の演技に心を動かされた姿なのだと思いました。

 山本草太選手は、ジュニアの頃から将来を期待されていた選手でした。しかし、練習中の足首の骨折によって休養を余儀なくされました。そして、トリプルアクセルの練習までしていたトップクラスの選手が、シングルジャンプからコツコツと努力を重ね、2023年の世界選手権代表を決めました。
 一方、三原舞依選手は、若年性突発性関節炎という難病で1年半近くを休養にあてた時期があります。復帰の競技会では別人のように痩せてしまった彼女がリンクの上にいました。どんなに苦しい日々だったのだろう。そして、この身体で競技者としてやっていけるのだろうかと、心配にもなりました。ところが、そこから努力に努力を重ね、紆余曲折ありながらも、2023年の世界選手権の日本代表に選出されました。

 本郷氏がコーチされている山本草太選手は、一足先に男子シングルで優勝を決めていました。どん底の状態から努力を重ねてきた自分の教え子の道のりと重なって見えたのでしょうか。

 ひとつ、思い出した情景があります。
 全日本で優勝を決めた時の宇野昌磨選手。バックヤードを歩く彼の肩をバンバン叩きながら祝福の言葉をかけるおば様達がいました。多分、その場にいるという事は、関係者の方たち。その方たち一人ひとりに会釈を返す宇野選手。小さな頃から頑張っている姿を知っているからこその、愛情のバンバン。教え子であるとかないとかではなく、フィギュアスケートを愛する人たちのその自然な行動は、なんと素晴らしい光景だろうと温かい気持ちになったのを覚えています。
 コーチが違っても同じリンクで練習することの多い日本では、教え子であるとかないとかのあまり関係ないのかもしれない。そして、なにより宇野昌磨選手「愛される選手」だということ。最初に彼のコーチとなったのは、山田満知子氏である。彼女の願いは「愛されるスケーター、人間を育てる」ことと、インタビューや著書の中で語っています。「伊藤みどり」「浅田真央」「村上佳菜子」「山下真瑚」「松生理乃」そして「宇野昌磨」。なんだか応援したくなる、彼らのスケートに心が動かされるのは、山田先生のそんな選手の育て方が理由なのかもしれない。そして、本郷氏は、現在、山田先生の元でコーチをしている。そうか、そういう人だから、三原選手の演技にも涙する、そういう事なのかもしれません。

 今季も、まだまだシーズンは続きます。スケーターのみなさんが、怪我無く健康でシーズンを終えられることを祈っています。


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