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【ビッグブラザー・フギン:松原始のこと】

「チッ、面倒なヤツが来た」と思ったのだ、最初は。

2017年秋、発端はヤフーライフマガジンからのEメールだった。
同ウェブサイトが企画した特集『猫が大好き!』に参加しないか?という依頼。なんでも、わたしが同年4月に開催したトークライブ『ねこネコ猫パラダイス with サンキュータツオ』が人づてに伝わり、編集部内で話題を呼んだとか。で、丸屋九兵衛にもネコを語らせてみよう、となったわけだ。
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その特集のコンセプトは、「ネコ好き知識人(ウソ)が、ネコ関連スポットを訪れて、ネコ愛を語る」というネコ尽くし3段重ねもの。ということは、「ネコ関連スポット」を指定せねばならない。
なので、わたしはJPタワー学術文化総合ミュージアム「インターメディアテク」を希望した。そこには、とても美しいネコの骨格標本があり、ちょっと変わったポーズのネコ(いや、実際にはヤマネコ)の剥製もあるから。


幸いにもミュージアム側から許可が降りて、取材・文担当の田中元さん、撮影の川村将貴さんと共に、意気揚々とインターメディアテクを訪れたのが、2017年10月31日の夜だ。

ところが。
現地に着いてみると、ミュージアム側が我々取材班のために「案内役」を用意した、という。
そういえば聞こえはいいが、つまりは「お目付役」ではないか。「好き勝手に猫を語ったる!」と意気込んでいたわたしにとっては邪魔でしかない。
冒頭に書いた「チッ、面倒なヤツが来た」とは、この時の偽らざる心境である。

そして。
出てきた人物は、予想通り権威を傘に着た、お役人根性丸出しの嫌なヤツ……では全くなかった。
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外見には多少の浮世離れ感があるが、それに関してはわたしも人のことは言えない。髪の毛に串が通っていない感もあるが、それに関してもわたしは人のことなど言えない。
そして彼には、なにか飄々とした風情がある。

とはいえ、しょせんはお目付役だ。そう考えたわたしは、英語で言うところの「壁にとまっているハエ」のごとく無視して、話を進めようとした。
ところが。
わたしが書き手の田中元さんに向かって語っていることが、横にいる彼の心に響いているようなのだ。頷き、微笑み、相槌を打つ。
それを理解した時の、わたしの心境がわかるか?

まず「丸屋九兵衛は常にとても孤独である」という事実をわかってほしい。
うちの親戚連中も言っている、「九兵衛がしゃべっていることは、世間の人には通じていない」と。
実際に、わたしの発言の半分以上は、聴く人に理解されることを期待しないで口に出したもの。つまりは事実上の独り言みたいなものなのである。
それなのに。
この人はついてきている。

●紀元前、エジプト某所の攻城戦における「ネコ爆弾」戦術。
●グラマン社の戦闘機「ネコ科」シリーズ———ワイルドキャット、ヘルキャット、タイガーキャット、ベアキャット、パンサー、クーガー、ジャガー、タイガーなど—について。
●キツネとは極論すれば「ネコの生き方を取り入れたオオカミ」である、ということ。
●クリンゴン語。イッホッ!

こういったアレコレに全て対応可能な生命体がいようとは。
今こうして、あの時のことを思い出すだけで、涙が滲み出てくる。それほどに、理解者に巡り会うのは稀有な出来事であり、ゆえに、怒涛のような感動の波に飲み込まれていたのだ、わたしは。
……と過去形で書いたが、今でもその波に飲み込まれているというわけだ。

取材後、その彼はオフィスへと退出。我々取材班は、迷路のような廊下をグルグルと回って、インターメディアテクの外に出た。
そのとき、付き添ってくれたミュージアム職員の方が言ったこと。
「先ほどの松原先生は、カラスの本をたくさん書いているんですよ」

……あっ! あれがあの松原始(まつばら・はじめ)かっ!
確かに、対面したときに交換した名刺には、その名前が刻まれている。はっきりと。
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2018年6月。
ジュンク堂池袋本店で松原始のトークがある。そう知ったわたしは席を確保し、松原始本人に何も言わずに会場へと足を運んだ。

その時は『にっぽんのカラス』という本の刊行記念的なイベントだった。「スーパービジュアル版」という副題が示すように、写真が多めのものだ。
だが、松原始はそれをいいことに……
●カラス同様、最近の戦闘機は主翼と尾翼が重なっているものもある。F-22とか。
●カラスの空中戦は、ロシアのスホーイ社製戦闘機に似ている*。
等と説明したのだ。

終演後、「スホーイの話なんか誰に通じるんですか」と話しかけると、松原始は言った。「いいんですよ、丸屋さんに通じれば」。
松原始は、わたしの生き別れた兄弟である。そのことがよくわかる夜だった。
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ここで改めて。

松原始は、高名な鳥類学者である。
専門は動物行動学。京都大学理学部卒業、同大学院理学研究科博士課程修了で、現在は東京大学総合研究博物館の特任准教授だ。
研究テーマはカラスの生態、および行動と進化。著書に『カラスの教科書』『カラスの補習授業』『カラス屋の双眼鏡』『カラスと京都』等。

……カラスだからフギンだ。
わたしは彼を「ブラザー・フギン」と呼ぶ。
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そんなビッグブラザー・フギンとわたしの戦闘機トークイベントが目前に迫っている。

このトークイベントに合わせ、わたしは生まれて初めて髪の毛を染めるが、それに関しても、ますフギン松原に相談したのだ。
以下は3月にやり取りしたEメールである。

丸屋九兵衛「実はわたくしサラリーマンなのですが、3月末で退職します! というか、実質的には▼▲ですね。やぶれかぶれで、生まれて初めて髪の毛を染めようかと思いました。普通に染めてもしゃあないので、●●●・●●●●迷彩で! しかし、“採用されない”というジンクスがつきそうなので、やめておきます。いつか、松原さんと戦闘機トークをやる時までとっておこうかと」

松原始「●●●・●●●●な頭髪は斬新ですが、文字通り“お前、どこに向かってんねん”になりそうな気もしなくはありません。ぜひ戦闘機トークまでお取り置き下さい」

そして、その時が来たのだ!

こんなギリギリの告知ですまないが、来週2019年6月25日(火)19時30分開演だ!

丸屋九兵衛トークライブ【Q-B-CONTINUED vol.28】トップガン2まで365日記念祭! 今こそ戦闘機を語るのだ! トムキャットからF-35まで、鳥類学者と音楽評論家がスーパークルーズ feat. 松原始
https://qbc28.peatix.com
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*ただし。
この時に松原始が言及したのはPAKFAことSu-57とわたしは記憶している。だが、松原始本人は「Su-47だ」と言う。
そのあたりも、このトークライブで決着をつけたい。
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松原始との出会いの場となった記事はこちら。
【盲目的にネコを愛してはいけない 丸屋九兵衛が語るネコの生態】
https://lifemagazine.yahoo.co.jp/articles/8811

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