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えん罪事件に対する私なりの決着~中年、恐竜を学ぶ~

恐竜のおもしろさを知らないまま大人になった。
そんな私が、恐竜好きな娘の影響で、3年ほど前から恐竜に興味をもつようになった。

はじめの頃、娘に知っている恐竜を聞かれて
「ティラノサウルス、トリケラトプス、ステゴサウルス、プテラノドンくらいかなー。」と言うと、
「プテラノドンは恐竜じゃなくて、翼竜だよ。」とつっこまれた。
「えっ?恐竜の中に翼竜っていうグループがあるんじゃなくて?」
「ちがう、ちがう。恐竜と翼竜は別!」
知らなかった。
「ドラえもんの恐竜の映画に出てくるフタバスズキリュウいるでしょ。フタバサウルスっていうんだけど、あれは首長竜。」
「恐竜の中に首長竜がいるの?」
「ちがうって。恐竜と首長竜は別!」
「へー。」
知らないことだらけだ。

名前に意味があるということも、このとき教わった。
例えば
トリケラトプスは、トリ(3本の)+ケラ(角)+トプス(顔)

娘と一緒に図鑑や本を読んだり、展示を見に行ったりするうちに、そのおもしろさに惹かれていく。
そのなかで、気になる恐竜に出会った。
オビラプトル。
オビ(卵)+ラプトル(どろぼう)
最初に出会った図鑑の記述がこちら。

オビラプトル ≪卵どろぼう≫
卵がならんでいる巣の上に、体の骨が重なった状態で化石が見つかりました。
この巣と卵はプロトケラトプスのものと思われたので、「卵どろぼう」という意味の名前がつけられました。
その後、卵がオビラプトルのもので、巣の中で卵を温めていたことがわかりました。

小学館の図鑑NEO『新版 恐竜』

思わず、二度読んだ。
さらりと書いているけど、とんでもない濡れ衣だ。
えん罪事件だ。
気になっていろいろ調べてみる。
卵がオビラプトルのものだったとわかったのは、1990年代。
それ以前の図鑑には、どのように書かれていたのか、気になる。
図書館で探してみると、1990年発行の図鑑があった。

モンゴルのゴビ砂漠の"燃える崖"で、プロトケラトプスの卵の化石がたくさん発見された。卵はソーセージのような形をしていて、外側に向けて円状にならんでいた。恐竜が卵を産むという最初の証拠だ。
”小さな卵どろぼう”とよばれるダチョウ恐竜のオビラプトルも、巣の中で発見されている。砂嵐におそわれ、ちっ息して死んだのだ。

『恐竜大図鑑』 ドゥガール・ディクソン、金の星社

悪いことしようとしたら、バチがあたったと言わんばかりだ。
しかも、
”恐竜が卵を産むという最初の証拠だ"
と書かれている。
濡れ衣を着せられただけでなく、「最初に卵が見つかった恐竜」という称号をもらい損ねている。

”卵がならんでいる巣の上に、体の骨が重なった状態で化石が見つかりました。"
”砂嵐におそわれ、ちっ息して死んだのだ。"
この2つの図鑑の記述から、状況を想像してみる。
卵を温めている最中に砂嵐におそわれた。それでも逃げることなく卵を守りつづけて、息をひきとった。

愛に満ちた親恐竜の行動。
それなのに、ついた名前は「卵どろぼう」
ひどい話だ。
「オビラプトル科」というグループもある。
「卵窃盗団」だ。

このえん罪事件、誰かがオビラプトルを陥れたわけではない。
当時の研究、分析では、そう判断されたのだ。
最初に卵が見つかったのは、1920年代。
70年の歳月を経て、誤解がとけた。
それから30年。名前はそのままなの!?という疑問が湧いてくる。

オビラプトルを命名したオズボーン博士は、学名(世界共通の名前のこと)を発表した論文の中で、「この名前は誤解を招くかもしれない」と述べていたそうだ。
真実がわかった今、学名を変えても博士は納得するのではないか。
改名の履歴を残しておけば、問題ないのではないか。
でも、恐竜を実際に見た人はいないから、絶対の正解はなくて、新事実がわかるたびに変えていたら収拾がつかなくなるのか。
など、素人が勝手に思いを巡らせる。

そんなとき、恐竜博士の真鍋 真 先生の講演を娘と一緒に聴く機会をいただいた。
こども向けの講演なので、恐竜初心者の私にぴったり。
わかりやすくて、おもしろい。
質問タイムはこどもからのものだけで終わってしまったけれど、講演会終了後、時間の許す限り、真鍋先生が質問に答えてくださるとのこと。
おとなもどうぞ、と。
絶好の機会だ。
真鍋先生が恐竜のことを楽しそうに話す姿はとても魅力的で、先生にだったら、素人丸出しの私の疑問も聞けそうな気になった。

娘も聞きたいことがあると、一緒に列に並ぶ。
おとなも何人かいるが、先に質問する人の内容を聞いていると、なんだか専門的。
ちょっとひるむ。
娘に
「お母さん、オビラプトルの名前のこと聞きたいんだけど、一緒に聞いてくれない?」
とお願いしてみると
「私は、私の聞きたいことあるから。お母さんが聞きたいことは自分で聞いて」
と返ってきた。ごもっともだ。ちゃんと自分で聞こう。

順番が回ってくる。
「最近、娘の影響で恐竜を学び始めた恐竜初心者です。」
と言うと、
「すばらしいですねー。」
と。なんて素敵な先生!

「オビラプトルは、卵どろぼうというのは誤解だとわかったのに、名前はそのままなのですか。変えようという動きはないのですか。」

「ほんと、そうですよねー。
でも、学名を簡単に変更できると、分類学上、大混乱を起こすので、オビラプトルには気の毒ですが、変更できないんです。
個人的には、変えてあげたいなーと思いますけどね。」

真鍋先生、わかりやすく、優しい笑顔で答えてくださって、ありがとうございました。

なるほど。
生物の世界では学名はとても重要なのか、分類学という分野もあるのかと、新たな学び。

その後、オビラプトル科で、ネメグトマイアという恐竜がいることを知る。
ネメグト(ネメグトの)+マイア(よい母)
※ネメグトは地名
※実際に抱卵していたのは、オスの可能性がある

オビラプトルが卵を温めていた事実がわかったあとに命名された恐竜。
オビラプトル科のネメグトマイア=卵窃盗団のよいお母さん
これはこれで、おもしろい気がする。

それ以来、オビラプトルの名前を見たら、心の中では、
バヤンザクマイア
と変換するようにしている。
※バヤンザクは、オビラプトルが発見された場所の名前

オビラプトル えん罪事件についてのモヤモヤが、これですっきりした。

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