髄の年輪のモノローグ 第2回 NANANINE『12E12』

 日本の音楽業界には「メジャーレーベル」と「インディーズレーベル」(と自主制作)がある。現在ではアーティストによる自主レーベルが増えていたり、もしくはずっとインディーズで出したり、また専属契約をせず作品ができる度に違うレーベルから出すという選択肢も存在するけれど、1990年代半ばくらいにはまだそういった空気は醸成できておらず、とにかく音楽をやるからにはメジャーデビューを目指す、という風向きだった。
 それが変わったのは、20世紀の末、ノストラダムスの大予言がどうこう言われていた1999年あたりから、21世紀になりたての2001年あたりまでの、ほんの数年間のことだった。もちろん、90年代初頭から、いや、それ以前からずっと、インディーズレーベルは存在していたし、ずっと活動してきていた。そこに追い風が吹いたのが、あのタイミングだったのだろうと思う。
 BUMP OF CHICKENの『FLAME VEIN』がインディーズレーベルから出て世界が驚いたのが1999年、己の道を切り開いてきたHi-STANDARDが主催のAIR JAM 2000が大成功したのがタイトル通りの2000年、沖縄のインディーズレーベルから出た地元のMONGOL800の『MESSAGE』が数百万枚のヒットとなったのが2001年。他にも色々あったけれど、高校生だった私の脳に特に深く刻まれた出来事がこの3つだった。

 東京・下北沢にハイラインレコーズというインディーズレーベルがあった。インディーズ専門レコードショップとしての業態がメインで、そのショップがレーベルもやっているという形態だった。何度か足を運んだけれど、吹き抜けがあるビルの地下1階にあって、地下なのに明るい感じで入りやすく、店内には自主制作のカセットテープ(!)やCDが並んでおり、当時の私にとっては天国のようなお店だった。インターネットが普及しきっていない、スマートフォンもなければSNSも存在しなかった当時としては、本当に貴重な場所だった。
 上述のBUMP OF CHICKENの『FLAME VEIN』を出したのが、そのハイラインレコーズだった。その数年後には、ハイラインを中心に、その近辺のライブハウスも盛り上がり、「下北系」なる音楽ジャンルが出現するに至っていた。地域で括っているので定義が曖昧ではあったけれど、主に歌モノのギターロック(を演るバンド)を指すことが多かったように思う。

 そのハイラインレコーズからミニアルバムとマキシシングル2枚をリリース後、メジャーレーベルに移籍したNANANINE(ナナナイン)というバンドがいた。ハイラインから出していたとはいえ、そして歌モノギターロックという点では一致しているとはいえ、ならば“下北系”なのかと言われると、なんだかしっくりこない。
 当時の“下北系”はとにかくオシャレなイメージだった。キラキラしていて、かっこよくて、ちょっとかわいくて、楽しい。そのイメージに憧れていた人も多かったように思う。
 一方のNANANINEは、たしかにオシャレな感じもあったけれど、それよりも元気で勢いがあってがむしゃらに突き進んでいくイメージが強かった。出身が福岡ということもあり、今思えば、もっと違うシーンから、例えば福岡特有のオルタナティブなところから出てくる可能性もあったのではないだろうか。そのくらい、ある種の「規格外」な存在だった。

 メジャーデビュー作にして初のフルアルバムである『12E12』(トエルブ・イー・トエルブ)には、ハイライン時代のシングルに入っていた曲も収録されている。そもそもハイラインでの最後のリリースから『12E12』までの間隔は5ヶ月しかない。配信ならともかく、フィジカルリリースしかなかった当時としては、圧倒的な速度と柔軟性だった。
 NANANINEは肯定の音楽を鳴らすバンドだった。人生に躓いて、悩んで、眠れず夜中に目を覚ましてしまっても、毎日が順調なわけではなくても、自分に自信がなくても、それら全てを包んで、その上から全てを受け入れて、乗り越えて前を向くよう促す、そんな「肯定」のバンドだった。
 強烈なエネルギーを惜しみなく注ぎ込み、ギターロックというよりはパワーポップに近い強靭なサウンドの上で、少年のような独特な声で高らかに歌い上げる、その様はまるで太陽のようだった。
 特に『ジム アンド フリーキー』と『デイスリッパー』の2曲には何度背中を押してもらったかわからない。『デイスリッパー』に至ってはハイラインレコーズから出たシングルにも入っていたので、そこからずっと聴いている。

 肯定の音楽のおかげでポジティブな大人になったけれど、そのNANANINEはいなくなってしまったし、ハイラインレコーズも10年以上前に閉店した。音楽配信が当たり前になり、サブスクリプション方式も定着しつつある。メジャーとインディーズのボーダーもすっかり薄くなった。自主制作でアクティブに動いているアーティストもたくさんいる。機材も進化した。インターネットやSNSもあって当然。それ故のメリットも多い。さて、これからどんな音楽に出会えるだろうか。


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掲載日:2019年9月15日
発売日:2002年7月10日
(17年2ヶ月5日前)
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髄の年輪のモノローグ 目次:
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