髄の年輪のモノローグ 第3回 Cornelius『Point』

 自宅にはじめてパソコンというものが導入されたのは1998年のことだった。中学時代の恩師が理科準備室に置いていたMacintoshで遊ばせてもらっていたのがきっかけで、それを母に申告したところ、我が家でも購入の運びとなった。恩師から「Windowsにしておけ」との助言があり、実際に買ったのはWindows 98のデスクトップPCだった。おかげで今ではWinとMacの二刀流生活を送れているので、恩師には本当に感謝している。

 初代パソコンは自宅の居間の片隅に置いていて、家族共用ということにはしていたけれど、実際に使うのは私だけだったので、事実上の専用機だった。インターネットも繋いでもらったので、毎日毎日ちょっと触り、時に好きなミュージシャンについて検索したり、勇気を出してBBSに書き込んでみたりしていた。

 高校生になったあたりから、ネット上の世界が賑やかになり、情報量もどんどん増えていった。単純にネット人口が増えたことと、発信側からしても「インターネットは『使える』」という認識が高まってきたことが原因だと思っているけれど、定かではない。

 コーネリアスこと小山田氏は、コーネリアスという形態になるよりも前から、時代を先取りするどころか最先端を走っている。ので、もちろん当時からインターネットを活用していた。(現行の公式サイトとはドメインも見た目も違ったけれど)

 私がはじめてコーネリアスの音楽に触れたのは『FANTASMA』リリース当時で、ちょうどpre-schoolの衝撃に追随する形(約2ヶ月後)だった。とにかく情報量の多いアルバムなので、田舎の中学生にとっては刺激が強く、今でも自分のコンディションによってはちょっとビリビリする。

 2001年の夏、コーネリアスのサイトで新曲が解禁されていると聞き、家のパソコンからアクセスした。TVに出て演奏するわけでもなく、ラジオで流すわけもなく、自分のサイトに載せる。そんな解禁方法があるのか、と驚いた。今ではよくある話だが、当時は珍しいどころか、日本国内初もしくはそれに近い早さだった可能性がある。
 開くと、QuickTime形式で動画が埋め込まれている。フルスクリーンに耐えられる画質を配信するのは難しい時代だったこともあり、ブラウザの画面の真ん中あたりに小窓が埋まっていて、その中で再生する形式だった。
 通常の数倍の速度で動く景色、飛び交う人工的な光、交互に映ることにより何かを示唆しているような日々、青いインク。それが『Point Of View Point』のMVだった。

 驚いた。前作の『FANTASMA』はあんなにもぎっしり詰まってごちゃごちゃしたアルバムだったのに、音数が激減し、ぐっと解像度が上がってクリアになっている。身構えなくても、心地よくスッと入ってくる。水というか、スポーツ飲料というか、そんな感じの浸透圧。サビがどこなのかもわからないし、歌詞どころか歌すらあるようなないような状態なのに、ちゃんとポップで、うっすら毒もある。そして、映像が、曲と合っていて美しい。何気ない光景ばかりのはずなのに。
 こんな音楽もあるのか。そして音楽にぴったりな映像をつけるとこんなにも増幅するのか。ある種のカルチャーショックを受けた。

 その後、もうひとつの先行シングルの『Drop』を経て、フルアルバム『Point』がリリースされた。『FANTASMA』の無限ジェットコースターの面影は一掃されていて、『Point Of View Point』同様のハイファイな感じに統一されている。ずっと続けて聴いても、耳も頭も痛くならない。でもやはり意図的な「引っかかり」はあるので、さりげなくBGMに流すにも向いていない。奇跡的に取れたバランスを、そのままそっと詰めたようなアルバムだと思う。

 しばらくして、ライブがあると聞いたので、観に行った。オープニングからラストまで、ずっと音と映像がシンクロしている。そんな演出、はじめて観た。「ライブ」というより「ショウ」。(コーネリアスはそれ以前から映像シンクロライブを行っていたけれど、あくまでも「私がはじめて観た」のはその時だった)
 そして、『Point Of View Point』も披露された。あの映像をバックに、あの不思議な構造の曲を人力で生演奏。会場全体が綺麗なプールのようだった。美しすぎて、涙が出た。

 インターネット上で曲をお披露目することも、ライブで映像を流すことも、今ではよくあることだけれども、この『Point』が先駆けのひとつだったことは間違いない。
 そして、『Point』……というより『Point Of View Point』のおかげで、不思議な骨組みの曲があってもいいし、それもそれで大変魅力的なものだ、と知ることができた。そもそも音楽には形なんてないのだ。ただ、水のように。


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掲載日:2019年9月29日
発売日:2001年10月24日
(17年11ヶ月5日前)
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髄の年輪のモノローグ 目次:
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