濱口竜介の短編映画、『天国はまだ遠い』

世間的に間接的に物議をかもしているらしい映画『寝ても覚めても』の監督、濱口竜介の撮った30分強の短編映画『天国はまだ遠い』が無料公開されているのを知って、観た。

原作者、柴崎友香のファンであり、『寝ても冷めても』を現代日本文学の傑作のひとつとして数えている自分からすれば、本作が映画化されるとなれば観ないわけにはいかない。そうして、濱口竜介映画に出会った。観終わったあと、ところどころ不満はあるものの、原作の不気味な雰囲気を捉ええていると思い、それ以来、まだそれほど有名とはいえない濱口監督に怠惰に注目してきた。

批評家、佐々木敦氏のツイートだっただろうか。濱口監督の短編がほぼ4月いっぱい無料公開されていて、観たけど良かった、という感想をたまたま目にした。無料、という言葉にすぐに食いついてしまう自分の不甲斐なさをどうにかしたい。

それはさておき、『天国はまだ遠い』。めちゃくちゃ良かった。ほんとにほんとに良かったので、なるべく多くの人にぜひ観て欲しいと思い、この文章を書いている。べつに、関係者とかではありません。

薦めたいのだけれど、なるべく書きたくない、まずは観て欲しいという、矛盾した思いがどんどんと募ってくる。だからどんどんと、遠回しな書き方になる。

ヴィム・ヴェンダース監督の『ベルリン 天使の詩』に対するひとつの返答として撮られた映画だという気もしてきた。

いわば、天使になりきれない人間。なぜなら「彼女」はどうやら不幸な死に方をしたから。そんな彼女が、よりによって、クズみたいな生活を送る男を媒介にしてしか、この世にメッセージを送れない状態にある。

そんな時、よりにもよって、映像作家を志す「彼女」の妹から、クズ同然の媒介がインタビューの依頼を受ける。ここから、事態は複雑に。

姉を殺された妹は、極度に、「そういう」存在を信じなくなっている。一方、クズ霊媒男性は、当たり前のように死んだ姉の存在を感じている。この非対称が、余計に妹を苛立たせる。

しかし、クズ同然の媒介は、姉の圧倒的なリアリティを伝えることにやすやすと成功する。しかも、彼の人生は、クズっぽくあるがゆえに、妹にとっては、姉の存在が疑わしくなる。ほんとうは、彼の人生がクズっぽくあるがゆえに、姉の霊媒になりえていることも知らずに。

けっきょく、妹は、霊媒のことを信じたのかいなか。けれどもここに、どこまでが事実でどこまでが虚構なのか、いかにも生々しい葛藤が起きる。その上での愛の告白。



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