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Starbucks Coffee (スターバックス) のブランド提供価値

私が仕事でブランディングについて解説する時に、もっともよく例に出すのがこのスターバックスというブランドです。ちなみにその時に使う画像がこちら。

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ブランディングの効果を端的に表現したイメージで、わかりやすいですよね。元画像はこの記事から。

一般的に、セールスやマーケティングにおいては、値段を安くすることで商品は大量に売れます。逆に高くすれば、顧客単価は上がるけど、売れる数が減る。スターバックスが凄いのは、普通のコーヒーショップと比較して「高価格なのに、たくさん売れている」というところ。このポジティブな矛盾を下支えしているのが、彼らが創り出す「ブランドの提供価値」の力に他なりません。


「提供価値」とは何か?

そもそもブランドの「提供価値」とは何でしょうか。ブランド戦略(あるいはブランディング)に関しては様々な考え方やフレームワークがありますが、その構成要素をすごく単純化すると、主に以下の4つであると考えられます。その中で、「提供価値」は3つ目の緑でハイライトした項目に該当します。

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一応それぞれ説明すると、

Why」はそのブランドが存在する意義や目的を示します。社会的な背景や、業界におけるトレンド、世の中における課題やニーズなども含まれます。

Who」は、そのブランドが主にターゲットとするカスタマーの属性を示します。「25〜35歳の女性」といったデモグラフィックな情報だけでなく、そのお客様の価値観やインサイトなども含まれます。

What」は、そのブランドがお客様に何を価値として提供するかを示します。「Brand Promise」「Value Proposition」なども似たような概念になるかと思います。価値は、目で見たり触れることができる「物」から、快適さや信頼といった「気分」まで、幅広く包含します。

How」は、その提供価値を、どのようなメッセージやメソッドで伝えるか、ということを示します。ロゴやキャッチコピー、広告のチャネル選びやそこでのメッセージなどが含まれます。


なぜ「提供価値」に着目するのか?

私がブランドの「提供価値」に着目する理由は、それが商品やサービスの、「目に見えない本質」だと思うからです。

ロゴやキャッチコピーといった「How」は、あくまでそのブランドを表現するための「表層」でしかありません。一方で、「Whay」や「Who」だけを見ても、実際の商品やサービスの輪郭は見えてきません。その点、「What=提供価値」を分析することは、自然と「What」以外の要素も芋づる式に見えてくることになり、それが最もその商品やサービスの本質を捉えることにつながると考えています。


提供価値を構成する「要素」

ブランドの提供価値をまとめる手法にも色んな種類があると思いますが、ここでは以下のようなフレームワークを採用します。検索エンジンで「Brand Value Pyramid」などのキーワードで検索すると、似たようなフレームワークが色々出てくると思います。

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文字だけだとわかりにくいので、実際にスターバックスの提供価値を紐解きながら、説明していきたいと思います。


Starbucks Coffee (スターバックス コーヒー) の提供価値

スターバックスの提供価値をまとめたものがこちら。「第三の場所」は、書籍や記事など色んなところで紹介されているのでご存知の方も多いかと思います。

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Higher-order Benefit(最上位提供価値)

The Third Place / 第三の場所

スターバックスというブランドを語るうえで、「第三の場所」という概念は外すことができません。この言葉は、社会学者レイ・オールデンバーグ氏が著した『素敵な心地よい場所』における「Third Place」という学術用語が元になっており、それをスターバックス CEO ハワード・シュルツ氏が気に入って、同ブランドの存在を「第三の場所」と表現したと言われています。

つまり、スターバックスは単なるコーヒーショップではなく、「自宅(第一の場所)」や「職場(第二の場所)」に次ぐ「屋外での居場所(第三の場所)」を創造しお客様に提供することこそ、彼らの存在意義なのだというわけです。


Emotional Benefit(情緒的価値)

居心地がいい・品がいい

落ち着いた雰囲気や、そこからくる居心地の良さは、スターバックスに対して彼らのお客様の多くが抱いている印象的な質感ではないかと思います。そしてこの快適さは、スターバックスを「第三の場所」たらしめている重要なファクターだと考えられます。このブランドが登場するまで、「落ち着ける居場所」と思えるほどに快適なコーヒーショップを、これだけ広く展開できていたブランドは無かったからです。

余談ですが、ただし世の中には、「居心地が悪くても居場所になりえる」という場所も多くあります。たとえば日本のマクドナルドは、椅子が硬くてガヤガヤしていても、高校生たちにとっては正に「第三の場所」と呼べるような場所です。これは、スターバックスとマクドナルドとで、ターゲットカスタマーが明らかに異なることを示しています。ブランドの提供価値は、あくまで「ターゲットカスタマーにとっての価値」であるというのも、ブランディングにおいて重要なポイントです。


Functional Benefit(機能的価値)

居場所がある・そこかしこにある

スターバックスが提供する機能的な価値は、「外出先でも腰を落ち着けて過ごせる場所がある」「しかもそれを求めたときにいつでも近くにある」という次の二点に集約されるのではないかと考えられます。

友人とお茶しながら話したい時、買い物の途中に休みたい時、待ち合わせまでにちょっとした仕事を片付けたい時、「スタバがあったー、よかった、入ろう」と思った人は多いのではないでしょうか。こうした場面こそ正に、世界展開された「第三の場所」がその機能を発揮した象徴的なシーンと言えると思います。


Features(具体的な特徴)

コーヒー・店舗の内装やソファや音楽など・スタッフの接客

まずスターバックスは、コーヒーを売っています。しかしそれはこのブランドにとって、お客様とのタッチポイントのきっかけのようなものに過ぎなくて、彼らは「第三の場所」というコンセプトに基づいたより広範な「サービス」を提供していると言えるでしょう。

それを下支えしているのが、落ち着いたデザインの内装、くつろげるソファ、明るすぎない照明、といった店舗の様相であり、笑顔、親切な声かけ、といったスタッフの接客です。このようにハードウェアからソフトウェアまで、目に見え肌で感じられる全てのタッチポイントが、「第三の場所」という提供価値の実現に、実に上手く寄与していることがよく分かります。


さいごに

この記事を書きながら気づいたのですが、「第三の場所」というのはよくよく見ると、場所という「ハードウェア」に、第三のという「ソフトウェア」が組み合わさって出来た概念だということが分かります。これはスターバックス(あるいはコーヒーショップ)の提供価値を考える上で非常に重要なポイントです。

もともとコーヒーショップが提供しているものは、文字通りコーヒーショップであり、どちらもハードウェアなわけです。そこにスターバックスは、「快適さ」や「居心地の良さ」といったソフトウェア的な価値を加えることで、「第三の場所」というハイブリッドな提供価値を創造することに成功しています。そう考えると非常にイノベーティブな概念ですよね。

下の図のようにマッピングして見るとさらに分かりやすいですが、最上位の提供価値から具体的な提供物まで、「ソフト的な価値」と「ハード的な価値」の両方がバランスよく織り込まれていて、このブランドの戦略の一貫性・緻密さがよく伺えます。

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ちなみに私は、スターバックスに入っても快適さは感じられず、というのもなんだかおしゃれ過ぎて寧ろそわそわしてしまうタイプです笑。残念ながら、私はスターバックスのターゲットカスタマーではないようです。。


おしまい

よいサービスを設計するためのヒントについて書いています。