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『おかあさんといっしょ』に学ぶ、データを「立体的」に見る方法

小さなお子さんをお持ちの方なら、NHKの番組『おかあさんといっしょ』の水曜日限定コーナー『シルエットはかせ』をご存知かもしれません。

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博士に扮した「うたのおにいさん」が、あるものを3つの角度から見た時のシルエットを順番に見せていきます。そして会場の子供達と視聴者は、3枚の影の絵を見ながらその「あるもの」が何なのかを当てる、という主旨のクイズです。

このコーナー、単純なようで、大人でも3枚出揃わないと正解が何かよくわからない時もあって、結構よくできているのです。と同時に、「これはまさに、データ分析から仮説を導き出す方法そのものだな」と思いました。

まずは『シルエットはかせ』を観てみる

実際に「シルエットはかせ」を観てみたいと思います。最初は、一枚目のシルエット。さて、何なのかわかりますか?

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んーなんでしょう。ちょっとこれだけだとわからないですね。では次に、二枚目のシルエット。

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団扇のようにも見えますが、違いそうです。大人ならここでわかる人も多いかもしれません。そして最後に、三枚目のシルエットがこちらです。

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これでお分かりですね。答えは「やかん」です。

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はい。これだけっちゃあ、これだけのコーナーです。でもこれ、すごく「データ分析的だ」と思うのは、私だけでしょうか。

データは「影」のようなもの

この『シルエットはかせ』のコーナーを見て私は、「データって、影みたいなものだな」と思ったのでした。影には臭いや色といった、物質そのものがもともと持っている多くの情報が捨象されています。データも同じで、たとえばオンラインサービスにおけるログデータは、ユーザーの閲覧情報や購買履歴などが単に痕跡として残っているだけで、それ自体に意味や実体があるわけではありません。ユーザーの利用シーンや心理状態といった、実体をともなう情報はそぎ落とされていて、それはさながら、「実物」に対する「シルエット」のようだと思ったわけです。

データ分析は、その残された痕跡から、ユーザーの心理や状況、あるいは課題や成長機会といったものを「再構築」していくプロセスです。そこで非常に重要になるのが、まさにこの『シルエットはかせ』の手法。つまり、「データを、ひとつの側面からではなく、複数の視点から立体的に見ること」だと私は考えています。

データを「立体的」に見る方法とその重要性

さきほどの『シルエットはかせ』の「やかん」の例ですが、当然ながら、はじめから三枚目の確度で影を見れば一発で正解が分かります。しかし実際にデータ分析の現場では、「この角度でデータを見れば、一発で課題が浮き彫りになる」というような切り口は、すぐに発見できるものではありません。まずはこの角度で見て、それを踏まえて今度はこの角度で掘り下げて、といったように、段階的/探索的にデータを見ていく必要が多くの場面で求められます。

たとえば、とあるECサイトのデータ分析について考えてみましょう。


<シルエット 1:売上高>


次の図は、売上高の推移を月別に表したグラフです。

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ご覧の通り、10月の売上がかなり下がっています。昨年対比で見てもやはり10月だけがマイナスになっていて、ここに何かしら課題がありそうです。ただ、これは『シルエットはかせ』で言えば、一枚目の像。つまり「ある方向だけから見た影」のようなもので、この図だけでは課題や成長機会をはっきり読み解くことはできません。


<シルエット 2:顧客種別>

それではこれを、「顧客」という軸で分解してみるとどうでしょうか。

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既存顧客・新規顧客ともに、10月の売上が低迷しています。しかし、どちらかのセグメントが極端に落ちているというわけではなく、この切り口で深掘りをしても特定の原因が得られそうにありません。


<シルエット 3:欠品率>

では、「欠品率」という軸で見てみるとどうでしょうか。

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これは顕著に変化が現れました。10月の欠品率は8月・9月よりも何倍も高くなっているので、在庫切れによって購入転換率が落ち、売上が悪化したという仮説が考えられます。


<シルエット 4:カテゴリー別>

さらに、「カテゴリー」という軸でも見てみます。

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これも特徴的な傾向が出ています。9月から10月にかけて、カテゴリーAの売上が極端に減少し、その代わりにカテゴリーBの構成比がかなり大きくなっています。もしかすると、AとBは関連性が高い商材で、Aの在庫切れによってお客さんがBに流れたのかもしれません。


このように、4つの「シルエット(=データ)」を見ることでようやく、次のような「実体らしきもの」が浮かび上がりました。

10月は、カテゴリーAの売上が大きく減少していた。原因はおそらく欠品率の上昇で、一部の需要はカテゴリーBで吸収できたものの、すべてをカバーすることはできず、結果として全体の売上減少につながった。

※もちろん、正確には、ここからさらに、「カテゴリー別の欠品率の推移」「カテゴリー別の商品単価」「カテゴリーAからBへの顧客の移行状況」などを深掘りしていくことが必要になるでしょう。

上で述べた、「データを、ひとつの側面からではなく、複数の視点から立体的に見ること」の考え方や重要性が、少しでも伝わっていれば幸いです。

さいごに

データ分析の目的は、アクションや意思決定をサポートすることであると私は考えています。なので必ずしも、「複数の次元でデータを読み解く」という手法そのものがいつも正しいとは限りません。

それでもやはり、データ分析には決まった定石がなく、その時々の問いや求めたい内容によって地道にデータの切り口を探っていかねばなりません。そんなときは、この『シルエットはかせ』のコーナーを思い出して、複数の切り口でデータと向き合い、「影」から「実体」を再構築する営みに取り組んでみてもらいたいと思います。

限られた情報から、頭の中で再構築し、「分析する脳みそ」を育てる。『シルエットはかせ』は、そんなオトナの礎を築く、とってもいい番組でした。

おしまい

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よいサービスを設計するためのヒントについて書いています。