wikileaksのジュリアン・アサンジが危ない

Wikileaks という、秘密情報の暴露で鳴らしたサイトを運営していたジュリアン・アサンジが英国で投獄され、いつ米国に強制送還されるかわからない。言論の自由にとって見過ごしにできない重大なことだ。
以下は米国の左派のニュースサイトTruthoutの記事である。

  * * * 

 これまで5年間、ジャーナリストで出版社主のジュリアン・アサンジは米国への強制送還を免れるために闘ってきた。米国の戦争犯罪を示す証拠を世間に発表した彼が帰国すれば、175年の禁固刑が待っているのだ。
 4月のホワイトハウス特派員晩餐会で報道の自由への忠誠を誓ったジョー・バイデンは、その誓いを守るどころか、悪名高いスパイ活動法に基づくドナルド・トランプのアサンジ訴追を踏襲している。司法省(DOJ)とFBIからアサンジ訴追に協力するよう圧力をかけられているジャーナリストは少なくとも4人いるが、その一人ジェームズ・ボールは『ローリング・ストーン』誌に書いている。
 バイデン政権の司法省は、明らかに、アサンジが米国に送還されれば、訴追を支持しようと図っている。それに賛同の声明を出すよう圧力をかけられている他の3人のジャーナリストも皆、協力するつもりはないと語った。
 アサンジ氏は、長年の監禁生活で心身ともに衰弱しているが、英国高等法院が彼の控訴を棄却したことに対し異議申し立てを行っている。英国で敗訴した場合には、最後の手段として、欧州人権裁判所(European Court of Human Rights)に、ヨーロッパ人権条約(ECHR)への違反数カ条を訴えることになる。
 だが、欧州裁判所が強制送還差し止めの裁定を下しても、英国の裁判所は裁定を守らない恐れがある。アサンジ氏の家族と消息通は、アサンジ氏が「危険なほど強制送還の瀬戸際」だと見る。
 「ジュリアン・アサンジとウィキリークスは、『拷問、戦争犯罪、民間人に対する残虐行為』をはじめとする米国政府の『大規模かつ前例のない規模の犯罪行為を暴露した』ことに責任がある」とアサンジの完成した上訴理由は述べている。
 「アサンジの活動は、全世界的な人権侵害を暴露すること、および国家犯罪の調査と訴追を推進することによって、公的説明責任を保障することに寄与し、無数の人命を救うことに寄与し、人権侵害を直ちにやめさせ、専制的で独裁的な政権を崩壊させてきた」と、彼の上訴状には書かれている。国家の犯罪を暴露して人権を擁護する者は、「その犯罪を暴露した政権からの政治的報復と迫害」を受けるもので、ジュリアン・アサンジも例外ではない」

アサンジとウィキリークスが暴いた戦争犯罪


 2010年、米陸軍の諜報アナリスト、チェルシー・マニングがウィキリークスに提供した資料には、米国の戦争犯罪の証拠が含まれていた。その一部をなす「イラク戦争日誌」は40万点の戦場報告が含まれ、それまで報告されていなかったイラクの民間人15,000人の死のほか、米軍が「悪名高いイラクの拷問部隊に引き渡した拘留者」に対する組織的なレイプ、拷問、殺人が記されていた。また「アフガン戦争日誌」では、連合軍の犠牲となった民間人の数が米軍の報告より9万も多かったことが明らかだった。「グアンタナモ・ファイル」に含まれている779点の秘密報告書には、150人の無実の人々が何年もグアンタナモ湾の収容所に収容され、800人の男性や少年が拷問や虐待を受けたことが、証拠を挙げて明らかにされており、ジュネーブ条約、および拷問その他の残虐、非人道的または品位を傷つける取扱いまたは刑罰を禁ずる条約に違反するものである。
 マニングからウィキリークスに提供された資料のなかには、悪名高い2007年の「巻き添え殺人ビデオ」もあり、米陸軍のアパッチ攻撃ヘリコプターが、ロイター記者2人を含む非武装の民間人11人、および負傷者を救助に来た男性を狙い撃ちして殺す様子が映っている。子どもも2人負傷している。このビデオは、ジュネーブ条約と米陸軍野戦マニュアルに関する3つの違反を立証するものである。
 出版人が政府の機密を開示したことでスパイ法により訴追されたのは今回が初めてである。2022年12月、『ニューヨーク・タイムズ』紙、『ガーディアン』紙、『ル・モンド』紙、『エル・パイス』紙、『デア・シュピーゲル』紙は、アサンジが軍事機密や外交機密を公開したことに対するスパイ活動法の訴追を棄却するよう米国政府に求める公開書簡を共同署名で発表した。「公開は犯罪ではない」と同公開書簡は述べている「この起訴は危険な前例となり、米国憲法修正第1条(*)と報道の自由を損なう恐れがある。
(*連邦議会は、国教を樹立し、若しくは信教上の自由な行為を禁止する法律を制定してはならない。 また、言論若しくは出版の自由、又は人民が平穏に集会し、また苦痛の救済を求めるため政府に請願する権利を侵す法律を制定してはならない。)

当初は精神衛生上の理由で身柄引き渡しを拒否


 2021年1月4日、英国のヴァネッサ・バライツァー地裁判事は、アサンジ氏を米国に引き渡してはならないとの判決を下した。米国の刑務所の抑圧的な環境、投獄が彼の精神衛生に及ぼす悪影響、自殺の恐れもあることを理由としていた。バイデン政権の司法省は上訴した。
 ところが英国高等法院は、米司法省がアサンジ氏は身柄引き渡し後も配慮のある環境に置かれると「請け合う」と、バライツァーの判決を覆してしまった。
 アサンジ氏は高等法院に対し、バライツァー判事が精神衛生上の理由で身柄引き渡しを拒否したときに却下した、他の上訴理由を検討することを要求した。
 2023年6月8日、英国のジョナサン・スウィフト判事は、アサンジの150ページに及ぶ提出書類で提起された問題点にはほとんど立ち入ることのない、3ページの通り一遍の判決文でアサンジの上訴を却下した。
 アサンジはスウィフトの判決を不服として英国高等法院に控訴し、現在係争中である。


政治犯の引き渡しは英米逃亡犯罪人引き渡し条約に違反


 起訴状に含まれているスパイ防止法違反容疑は次の通りである。 
 共謀して国防情報を入手し、受領し、および開示すること(訴因1)、
 許可なく国防情報を入手および受領すること(訴因3~9)および
 許可なく国防情報を開示すること(訴因10~18)。
 さらにアサンジは、「マニングが米国の国防に関連する機密情報を取得し送信するのを助ける 」意図で行った "コンピューター侵入の共謀 "で起訴されている。
 英米逃亡犯罪人引き渡し条約第4条1項は、「犯人引き渡しを要求されている犯罪が政治犯罪である場合、犯人引き渡しは認められない」と定めている。アサンジの弁護団は控訴の中で、スパイ活動は国家に対する犯罪であるため、「純粋な政治犯罪」であると指摘している。
 アサンジの弁護団が書いているように、「各容疑の重要な点(および決定的な法的特徴)は、従って、米国国家の安全保障を損なうような仕方で米国の国家機密を入手または開示する意図があったと主張されていること」であり、それは政治犯罪を構成するのである。
 スウィフトの判決文は、2003年逃亡犯罪人引き渡し法は米英間の拘束力のある条約に優先すると書いている。この法律には、身柄引き渡しの妨げとなる「政治犯罪」は含まれていない。
逃亡犯罪人引き渡しの要請は隠れた政治的な動機のためになされ善意ではなされない
 逃亡犯罪人引き渡し条約第4条3項は、その要請が "政治的動機 "に基づくものである場合、引き渡しを禁じている。
 漏洩された国家安全保障情報に焦点を当てている点で、この起訴は法的前例がなく選択的な性質をもつものであり、それが、起訴と引き渡し要求の政治的性格を物語っている、と上訴状は述べている。
 アサンジの弁護団は、「この訴追は、刑事司法の適切かつ通常の追求とは別の事柄によって動機づけられている。国家犯罪能力の証拠を公開する者を壊滅させまたは阻害し、それによって将来、そのような国際犯罪を捜査、訴追し、防止するのを食い止めるという動機である」 と述べている。
 上訴状は、アサンジが訴追されているのは、米国による「大規模な虐待と戦争犯罪」を暴露したためだと指摘している。もし「ロシア連邦のような国の戦争犯罪や人道に反する罪を暴露したのなら」と弁護団は書いている「そのような暴露のために彼が訴追されることは、(条約の範囲内で)政治的犯罪とみなされ、彼の政治的意見/行為を罰しようという願望に動機づけられた許容不可能な訴追とみなされることは疑いない」と書いている。
「そのような資料の漏洩者は、選択的にではあれ訴追されてきたが、国家機密を入手したり公表したりする行為に対する訴追はこれまで一度も行われたことがない」と上訴状は述べている。
 それは「報道の自由は憲法修正第1条により保護されているからであり、報道機関は見過ごすのではなく暴露することが不可欠だからである......ジャーナリストが何らかの特権を持っているからではなく、市民には何が起こっているかを知る権利があるからである」と、メリーランド大学でジャーナリズムを専攻するマーク・フェルドスタイン教授はアサンジ氏の身柄引き渡しに関する公聴会で証言している。

身柄引き渡しはヨーロッパ人権条約の保証する表現の自由に違反


 ヨーロッパ人権条約(ECHR)第10条は、表現の自由を保護するものである。
コロンビア大学の法律学教授ジャミール・ジャファーは、起訴状が焦点を当てているものは「ほぼ全面的に」、国家安全保障問題を扱うジャーナリストなら「日常的に仕事の一部として行っている」こと、すなわち「情報源を開拓し、秘密裏に彼らと連絡を取り、彼らから情報を求め、彼らの身元が知られないように保護し、機密情報を公開する」などのことだと証言した。
 アサンジに有罪判決が下れば、ジャーナリストは公共の監視役としての役割を果たすことに消極的になる。上訴状は、1996年のグッドウィン対英国の判例を引用している。
 報道の自由は、国家の活動や決定が、その機密性や秘密性を理由として民主的なあるいは司法による精査を免れるような状況においては、ますます重要になる。機密または秘密とみなされる情報を開示したジャーナリストが有罪とされることは、公共の関心事について公衆に情報を提供しようとするメディアの担い手たちの志を挫くだろう。その結果、報道機関は「公共の監視役」としての重要な役割を果たすことがもはやできなくなり、正確で信頼できる情報を提供する報道機関の能力が有害な影響を受ける可能性がある。
地裁判事が考慮しなかった新たな証拠
 ヨーロッパ人権条約は生命への権利(第2条)を保護し、拷問および残虐な、非人道的な、または品位を傷つけるような扱いを禁じている(第3条)。上訴状は、アサンジが送還された場合、第2条および/または第3条が守られない現実的な危険性があると主張している。
 2021年9月、ヤフー・ニュースは、アサンジが亡命許可を得てロンドンのエクアドル大使館に滞在している間に、CIA の上級職員とトランプ政権高官がアサンジ暗殺の「概略の計画」と「選択肢」を求めていたことが明らかになった。トランプその人が「CIAがアサンジを暗殺できるかどうか尋ね、その方法の『選択肢』を提供することを求めた」のである。
 「アサンジが大使館の保護下にあり、英国にいる間に、これらの国家機関がこんなことまでする準備をしていたのなら、アサンジが米国に送還された場合、同様の超法規的措置や報復を受ける現実的な危険性があるにちがいない」と、上訴状は述べている。
 アサンジ氏の上訴に対する高等法院の判決は、いつ出されないとも限らない。

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