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新規事業を立ち上げるときに気をつけるべき地味なこと [Goodpatch Anywhereの場合]

Goodpatch Anywhereを立ち上げて半年以上の期間が経ち、ありがたいことに事業は順調に成長しています。メンバー数も40名を超え、超大企業からベンチャーまで、幅広いクライアント様に恵まれ、社内的にもそれなりに注目されるようになって来たのではないかなと思います。そして社長が「めっちゃ伸びてる」って言ってます。

これまで「個人的にやりたいこと」と「必要なこと」をまぜこぜにして走ってきましたが、まあまあうまくいっているような気がしたので、その理由は何だろうと振り返ってみました。結果、アイディアの作り方とか派手なものではなく、あんまり教えてもらえなさそうな地味なことばかりになりました。そんな訳で「事業立ち上げ最初期フェーズ」で気をつけて来たことを書きたいと思います。

はじめに断っておきますが、いわゆるデザインっぽい話ではありません。しかし、「全ての状況をを追い風に変換してものごとをを実現していく力」も含めてデザイナーは考えるべきです、という自戒をこめて…。

※あくまでも限定的な1ケースの紹介であることをご了承くださいませ

「VUCA時代に成功するためには狙うターゲットや市場に対する学習速度を最速にすること」

僕が最近の講演系の仕事で必ず言っていることがこれです。もうとにかく、世の中ぐちゃぐちゃに変化するし、みんな言ってること違うんだから、とにかくアイディアを具現化して現実にぶつけて返って来たリアクションだけを「学び」として捉え、その学びの蓄積スピードを最速にしようよ!いうことです。それをデザイン、UX、エンジニアリング、人材採用、組織制度、会議の仕方などなど、全てに適用していこうよ!というのが基本的な考え方になります。(詳細はまた後日)

なので、自分で事業を立ち上げる時にもこの考え方に忠実に生きようと決めました。Anywhereでは日々新しいことにチャレンジして、大なり小なりめちゃくちゃいろんなことをトライしています(現場で振り回されるみなさま、ごめんなさい。)。

この記事では、「どんなトライをしているのか」ではなく「どうやってこうした実験を自由にできる状況を作り出すか」について述べていこうと思います。

最小の組織

まず、組織体制についてです。Anywhereに関する意思決定は、週次の定例MTGにて決定されます。参加者はCEOの土屋、Anywhereの属する事業開発室の長、バックオフィスを統括する管理部長と事業責任者の僕という4名で行われており、必要最小かつ関係する部門の裁量権者が全て含まれる状態を維持しています。

総員4名なので、最悪全員を回って口頭で意見をまとめることも可能です。事業として最も意識すべき「スピード」を殺さない意思決定構造をキープできていることはAnywhereにとっての非常に大きな強みとなっています。

Googleが「デザインスプリント」を生み出し、自ら実行していることからもわかるように、新規事業をうまく立ち上げるためには「意思決定者を含む極端に少ない人数」で推進することには疑問の余地がありません。現場が決めたことの承認を得るためにかかる時間は、もっと本質的なトライアンドエラーに使うはずだった時間なはずです。日本的組織ではこの環境を作ることが非常に難しいために、ベンチャー企業に大きなチャンスがごろごろ転がっていると言えます。

人事、法務、経理部門との連携

もちろん、Anywhereのように実験的な働き方を推し進めていくに当たって、労務/法務リスクを踏んでしまうことは避けなければいけません。新しいことを行うために法務部門や経理部門に確認を行うのはもちろん、すでに進んでいることについても何か問題がないかなど、常にコミュニケーションを取る必要があります。

本質的にはコンサバにならざるを得ない領域を担当する部署ですが、「無邪気に無茶振りをほいほいと投げてくる事業サイド」に付き合いながら、安全かつ適法な領域でこちらの要求を実現できる方法はないかと考えてくれる弊社の管理部門には本当に頭が上がりません。

出張や旅行に行った時のお土産をカウントする時には真っ先に管理部の面々の顔が浮かぶようになりましたし、全社会での事業報告でも取り上げさせてもらっています。ともすればそのありがたさを忘れてしまいがちなバックオフィスチームですが、こちらが全力でお世話になっているため、全力で感謝を表明する以外の選択肢はないわけです。本当にありがとうございます、これからもご迷惑をおかけするので、どうぞ末長くよろしくお願いいたします。

既存組織からの切り離し

そして、Anywhereで大胆に働き方を変えたいと思っている以上、その影響範囲を限定しておく必要がありました。すでに存在している組織制度に対して変更を加えるのはとても大変です。ひとつの変更で影響の及ぶ箇所を洗い出して対策を打つのにかなりの負荷がかかるのは当然として、そもそも影響を受けるのは社員ひとりひとりであり、その感情的反応を全て予測しきるのは不可能なレベルであると言えます。

すでに国内だけで100人を超える規模の弊社であまり無邪気なことをやってしまうと、それは再びの崩壊を意味するでしょう。ラディカルな実験は小規模なサンドボックスで行うのが基本です。Anywhereはこれまでの組織と切り離して完全に新しい組織として作ることによって、しがらみのない実験を行える、隔離されたサンドボックス環境を作り出しました。

もちろんこれによってデメリットも生まれました。自由な情報の行き来がしにくくなり、渋谷のメンバーとの自由な交流もなかなか思うように実現できてはいません(もちろん徐々に改善しつつありますが)。後は僕個人の寂しさとか…。

しかし、そんなことが小さく思えるほど、しがらみのないスピードで実験を繰り返すことは大切だと考えています。

「会社」から信頼されるために

このようなコンパクトかつスピーディーな体制で存在し続けるためには、当たり前ですが、所属する組織やステークホルダーから信頼される存在であり続ける努力が重要です。信頼が低い状態ではあらゆるマイクロマネジメントが発生して、その対処でがんじがらめになってしまい、あなたの貴重なリソースを根こそぎ持って行かれてしまうでしょう。というよりもっとシンプルに言えば「全てのステークホルダーを味方にして、全速力で走れるような状況を作りたい!」と考えています。自分に吹く風が、追い風か向かい風かは自分でコントロールできるはずだと信じて、行動していきましょう。

「売上は全てを癒す」を最大限に利用する

一般論として、企業活動において売上と利益以上に重要なものはありません。逆を言えば売上さえ達成していればそれだけで全てを突き通すことも可能だと言えるくらい強力なものです。とにかく早く売上を上げ、黒字化することを意識して全てを進行する必要があります。「立ち上げ初期なのだから売り上げについては目をつむっておいてくれ」と言いたくなる気持ちはわかりますが、「ではいつ十分な売り上げが上がる?」という質問に対して、完璧な計画で応答しなくてはいけなくなります。VUCAの時代なのに。本質的に「わからない」としか言えないことに対して無根拠に「できます」とは言いたくないのです(もちろん気合いの問題ではなく)。

売上の立っていない事業に対しては経営層の目、株主の目、他の社員の目の全てが厳しく突き刺さります。ポジティブなアドバイスやネガティブな意見、不確かな見通しで発せられる言葉を全て受け止めて説明責任を果たさなければいけない状況に追い詰められてしまいます。受け止めるにもスルーするにも圧倒的なタフネスが必要とされ、僕は「そういうのちょっと無理かな」と思ったので全力でこのシナリオを回避しようと思いました。(あくまでも一般的にありがちなシチュエーションを挙げているのであり、Goodpatchはこの辺り一般的な企業に比べて圧倒的にポジティブで協力的だと思います。圧倒的に。)

無駄な予算はかけない

そのため、Anywhereは立ち上げ初期は超低コストで進行、事業に必要な固定費はほぼ自分の人件費だけという状況を維持しました。自分が一社員として働いていた半年前は、極端に言うと「富豪的経費投入でレバレッジをかけることこそ勝ち筋である」とか考えていたような気もしましたが、自分が事業責任者として考えるとやはり浅はかであったと思い知りました。経費感覚は会社員として働いているだけだとあっという間に埋没していきます。湯水のような経費があって当然のものだと権利者意識が芽生えて増長します、本気で気をつけましょう。

ということで、Anywhereでは事業が始まれば即黒字化する状況にこだわりました。メンバーが0人の状況から始めて、数ヶ月で単月黒字を達成でき、その後は毎月予算達成できています。この状況を作り出せたことで、(あえてネガティブにいうと)過度な事業干渉を避けることができ、「自由にやっていいよ」という状況をキープし続けることができたと考えています。

そして、これまた地味に大切なのは「常に予想を上回り続けること」です。周囲の予測ラインを感じ取り、それを超え続ける胆力が事業責任者にもっとも必要なことではないでしょうか。

まとめ

事業立ち上げ初期はとにかく全ての変数が予測できません。「正確な見積もり」なんて夢のまた夢です。当たり前すぎることではありますが、不確実な状況を受け入れて対処するために、損益分岐点の最小化は優先度を下げるべきではないと思います。そして可能であれば周囲からの期待値を適度に低く抑えましょう。(もちろん、めちゃくちゃなレバレッジをかけて、大いに成功している人もたくさんいるということは知っていますが。あくまでもAnywhereのケースにおいて、今まではこれでうまくいっているよということです。)

ということで、今回は地味で、ともすればあんまり考えたくないようなテーマばかりになってしまいましたが、Anywhereは本当に可能性を感じる魅力的な事業なので、こんなことを考えながら僕と一緒に戦ってくれる事業推進ポジションの募集をおいて記事を締めたいと思います[PR]



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