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本当にその食べ物は好き?

給食で、パンにつけるジャムやマーガリンがあって、私はその中で「ピーナッツバター」が一番好きでした。

私が子供の頃、いちごジャムやマーマレードジャムは定番だったんですけど。いきなり彗星の様に、ヒュンって、現れたジャムがありました。

その名前は「ブルーベリージャム」

ぱっと見、黒いツヤツヤで海苔の佃煮のよう。よく見ると深い濃いむらさき色をしている。ブルーベリーの実物をその時は、まだ見たことがなかったけど、「ブルーベリーガム」のパッケージの写真なのか精巧なイラストなのか分からない、あのイメージでしか見たことなくて。ぶどうをもうちょっと丸くコロンとさせて、先が割れてて・・・ブルーベリージャムは食べた事がなかったけど、ブルーベリーガムは好きでよく食べてた。

そのブルーベリーがジャムになって給食に出てくるなんて・・・給食の献立表の「ブルーベリージャム」の文字を見た瞬間、その日が楽しみで仕方ありませんでした。

いよいよブルーベリージャムが出る当日。いつもより楽しんで学校に行って(いつも暗い気持ちで行ってた)給食の時間はいつもよりも楽しみになっていました。

おかずとブルーベリージャムと食パンと牛乳を給食当番の子からもらって、みんなで声をあわせて「いただきます」と言って、食べ始めました。しょっぱいお味噌汁に、おかず、そしてパンと牛乳、そして甘いジャム。家では出てこない組み合わせの献立、そういうのが給食。給食はあまり好きではなかったけど、ブルーベリージャムを楽しみに、おかずを食べてから、パンとブルベリージャムに手をつけました。

ブルーベリージャムの袋の切れ口を慎重に、すこーしだけあけて、冷えた食パンにつけます。ベターっと全体に塗ってから食べるのは好きじゃなかったので、かじる部分にほんのすこしだけつけます。ドキドキしながら、ひとくちめ。

・・・ん?

やたらと甘くて、すっぱくて、ブルーベリーの独特の風味が舌に残る。

これがブルーベリージャムなん?

想像していた味と全く違ったので困惑しました。ブルーベリーガムの味と全く違っていて・・・(そりゃそうだ)

でも周りの子は「おいしい」と言ってる子が多かった。

「うーん、あまりおいしくない・・・」と言ってる子には「おいしい」と言ってる子からブーイングが。

「ブルーベリージャム、おいしいやん、この味が分からんとか、人生損してる。」

と、ものすっごい上から目線。人生って。お前何歳やねん。

私はどちらかというと、率直な意見は「あまりおいしくない」でした。でもおいしいと言ってる子が多いので、私がおかしいのかもしれない・・・と思って、もう一口、もう二口。やはり何かが違う・・・と思いました。なんか違う・・・

おいしいと言ってる子は、パンも食べきって、残ったブルーベリージャムの袋を名残惜しそうに、チューチューと吸っていました。私はよくそんな甘ったるい物を吸えるもんだと・・・感心しました。

なんか違うけど、みんなが美味しいと言っているから「おいしいんだ」と思うようにして、なんとか食パン2枚、ブルーベリージャムは吸いはしないけど一応、全部食べたと言える状態。あとは牛乳が残っています。牛乳は大嫌いだったので、一気飲みです。

帰ってから母に聞かれました。

「食パン持って帰ってきてないやん、ブルーベリージャムは美味しかったんか?」

「うん、むっちゃおいしかったで」

何が、うん、むっちゃ美味しかったやねん。嘘つくな。

何故か、嘘をついてしまいました。おいしくなかったのに、おいしかったと。たぶん完食してしまったのが、嘘にならないように、つじつまがあうように、自分の中での真実を塗り替えてしまったのです。

次の日、学校から帰ってきたら、テーブルの上に信じられない物が。6枚切りの食パンの横にありました。

紙カップにはいった「ブルーベリージャム」です。ブルーともむらさきともいえない、ブルーベリー色のブルーベリーの写真がきれいに印刷された紙カップのジャム。

ああ、正直に言えばよかった。おいしくなかったって。

「後悔」の2文字が頭に駆け巡ります。

「おいしくなかってん」

そんな事いまさら言えません。

「うわあ、ブルーベリージャムやん、ありがとう!」

やばいって、後戻りできへんって。

紙カップのジャムのメーカーがどこなのかをチェックしました。給食で出たジャムとは違うメーカーのようで(子供の頃、いろんな食品メーカーを把握するのが趣味でした。) もしからしたら美味しいかもしれん・・・家やったらトースターで食パン焼くし・・・と一筋の希望を思い描きました。

次の日の朝、食パンの袋をあけて、自分でトースターで焼きます。ジーーーーーと音がするトースター。タイムメモリが0になったところでティーン、と音が鳴り少しきつね色になって、イーストと香ばしい匂いがする食パンをお皿に置きます。

紙パックのブルーベリージャムをぱこっとあけて、食パン一枚分を塗れるであろう分量をバターナイフですくって塗ります。家でジャムやマーガリンを塗る時は、一度で塗れる分量だけをすくうのがルールでした。食パンのカスがバターナイフに付いて、ジャムやマーガリンを汚してしまうから。串カツのソース2度漬け禁止みたいなルールです。

ブルーベリーの甘さを想像できる匂い。思い切って一口目を食べます。

(やっぱり違う・・・おいしくない)

甘ったるさが口の中に残って、どうしても好きになれませんでした。まずくはないけど美味しくもない。濃い甘さと、ブルーベリーの濃厚な酸っぱさ。それがどうしても口にあわなかったようです。

どうして「おいしい」なんてうそをついたんだろう。

もう自分でもよく分からなくなってきました。

周りがおいしいって言っているから、おいしい。もの珍しくて新しい物だからおいしいと思い込む。そんな周りの意見に流されて、自分はおいしくないと思っているのに、おいしいと嘘をつくなんて。

責任をもってそのブルーベリージャムを食べきったかどうかは、覚えていないけど

「甘くて飽きたから、当分ジャムは食べたくない」

と、母に言って、戒めのためにジャムは買ってもらわないようにしました。

みんながおいしいって言ってるから、かわいいって言ってるから、そんな理由で食べ物を写真を撮るだけために、買ったりしてない?その食べ物は本当においしいの?カラフルな砂糖で彩られた、トッピング。本当においしい?

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