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メロンソーダジプシー

メロンソーダが好きだ。ファミレス等でドリンクバーを頼むと「とりあえずメロンソーダ」である。ドリンクメーカーの機械によっては「メロンソーダ」を入れていないドリンクバーもあるが、興醒めである。飲み会でみんなが「とりあえず生!」と言ってるのに一人だけ「カルーアミルク!」とか言ってる人がいる場合も興醒めするらしい。こういう事を言ってしまうと「飲み会ハラスメント」になる。こんな事をつらつらと言ってるが、私は乾杯の時はなんでも好きなのを飲めばいいじゃない、と心の底から思っているので、別にみんなが生ビールを頼まなくてもいい。とにかく私が言いたいのはメロンソーダが好き!という事だ。

メロンソーダは子供の頃から好きで、喫茶店に連れて行ってもらった時は必ず「クリームソーダ」を頼んでいた。鮮やかな透明感のある緑色のジュースの上にまん丸でうすいクリーム色をしたバニラアイスがのっている。バニラアイスの周りはぷくぷくしゅわしゅわと泡を立てている。クリームソーダを入れているグラスの質感は少し分厚い硝子で、安定感があり、バニラアイスの横に宝石のような赤い、シロップ漬けのさくらんぼがちょこんとのっている。最初にさくらんぼを食べる。種と軸は備え付けの紙ナプキンの中に包んでおく。さくらんぼを食べてから心おきなくクリームソーダを味わう。まずはストローでメロンソーダを飲む。ゴクゴク・・・・・・ほどよい甘さと炭酸の刺激が口の中を駆け巡り喉を通る。しゅわしゅわ、甘い。最高・・・。そのあとスプーンで慎重にバニラアイスクリームを食べる。いじりすぎると泡がぶくぶくとたちすぎてよくない。冷たくて甘い、この世の幸せだ。このクリームソーダという飲み物、いやデザートは最高だ。大事に食べる、飲む・・・が、あっという間になくなってしまった。名残おしくてストローで底に残ったうすい液体を吸うが「じゅるじゅるじゅる」と品のない音をたてるので、よく母に「下品だからやめなさい」と言われた。

家でもこの幸せを味わいたい・・・と思い「メロンソーダ」なるものを自販機やスーパーで探すけどない。その当時の炭酸飲料といえば「コーラ」「ファンタ」「三ツ矢サイダー」「チェリオ」ぐらいだった。粉末のメロンソーダの素が発売されていたので買ってもらい、作って飲んでみたが味が全く違う。メロン果汁の味が全面的に出すぎていて、メロンが苦手な私は飲めなかった。私が飲みたいのは喫茶店のメロンソーダだ。そのメロンソーダがどこにも売っていない。なのでメロンソーダはお店でしか飲めない特別なジュースだった。

それから何十年、大人になりしゅわしゅわの大好きな飲み物といえば「ビール」になった。珈琲も飲むようになり、カロリーを気にして本当はメロンソーダを飲みたいのに、ノンシュガーのアイスティーやアイスコーヒーを頼む。大人になっても相変わらずメロンソーダは自販機にも、スーパーにもなかった。クリームソーダのペットボトル飲料は自販機で発売されていたが、クリームが混ぜられているので「乳飲料」というジャンルになる。私が求めているのは「清涼飲料水」のメロンソーダである。ああメロンソーダ、メロンソーダを好きな時に好きなだけ飲めれば・・・子供の頃からの生粋のメロンソーダジプシーである。

ある日大型スーパーに行った。そこのフードコートでは「ソフトクリームがのったメロンソーダ」が売っていた。カロリーも気になったが頼んだ。ソフトクリームがのっているクリームソーダもいい。かなり満足して用事も終え、駐車場に向かう、ふと自販機が目に入った。そしてなんとついに発見することになる。

「POPメロンソーダ」と書かれたペットボトルの見本が、神々しい光を放っていた。(自販機は節電モードで電気は消えていたが)

私はその神々しい緑色を見逃さなかった。

冷静に「売切れ」の赤い三文字が表示されていないかを見極め「ちょっと待って」と、車に向かう旦那を制止し、自分の財布から小銭をだした。POPメロンソーダは140円。小銭は百円玉が何枚かと、十円玉が3枚。小銭が多くなるのは嫌だったが背に腹は変えられない。この機会を逃すと次に私が求めているメロンソーダに遭遇するかは分からない。「自販機限定」の文字が私の心を急かしていた。百円玉二枚を投入し、間違いのないように「POPメロンソーダ」のボタンを押す。ガタンっと取り出し口に落ちる。取り出す。鮮やかな透明感のある緑色のペットボトルを握る。しっかりとお釣りも忘れずに取る。やっと出会えた...何十年越しの願いが叶ったのである。嬉しくてたまらなかった。

その後、家の近くの自販機でも「POPメロンソーダ」を販売している自販機を発見するが「売切れ」の表示がずっとついたままだった。みんなあのメロンソーダを求めていたのである。絶対そうだ。人気すぎてなかなか補充ができずにいて、補充されても「メロンソーダジプシー」な誰かがまとめ買いをしているのだ。さすがメロンソーダである。

ネットでも「POPメロンソーダ」を検索するが売り切れだったり、ちょっと高かったりしてなかなか購入までには至らなかった。そして検索をしていると「セブンイレブン限定でファンタのメロンソーダが販売中!」という記事を見かけた。ガタッ!とパソコン椅子から立ち上がった。これは・・・!!!!

なんで今まで気づかんかったんや・・・!とミステリー小説の主人公探偵よろしく自分を恨んだ。「ジュースはカロリーがあるし、太るし・・・」という事でジュースのコーナーは全く見ずに「お酒コーナー」しか見ていなかったのである。メロンソーダファン失格である。本当にごめんメロンソーダ。今すぐ行くわ・・・・!!!!!!と自転車を走らせた。

目的のセブンイレブンに着くと、すぐさまペットボトルジュースコーナーに向かう。あった。迷う事無くアルミボトルの500mlのファンタのメロンソーダを手に取り、次はアイスのコーナーに行く。もう買うものは決まっている。

その夜、娘が寝た後に「自家製クリームソーダ」を心ゆくまで堪能した。家にある少し背の高いグラスに氷を入れ、メロンソーダをゆっくり注ぐ。しゅわしゅわーといい音がする。そして冷凍庫から出したバニラアイスクリームを大きめのスプーンですくう。そおっとメロンソーダの上にのせる。シロップ漬けのチェリーはさすがに常備していないので、ないのが残念だが別になくてもいい。

家でやっと「クリームソーダ」を作ることができた。予想以上においしかった。しゅわしゅわのソーダに冷たいバニラアイスクリーム。ああ美味しかった・・・ああ・・・もう夜だから、これ以上食べたらだめよ・・・と思いながらも2杯目のクリームソーダを作っていた。あれよあれよというまにアイスクリームもメロンソーダも無くなってしまった・・・

幸せだが、全て食べて飲んでしまった事に、少し後悔する。カロリーの過剰摂取もそうだし、あっというまに食べてしまった事もそうだし。なんだろう、大人になるってこういう事か・・・といい歳して思った。でも幸せだった。


 

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