マインドの低い焼物売り

栃木県に益子町という焼物の産地がある。毎年5月と11月に陶器市があって、いろんな作家が作品を出していてとにかく様々な陶器がずらーーーっと並んでいる。

僕はこれがすごく好きで、家族や友人と何度も行っている。益子焼というのは歴史がわりと浅く(150年くらい)、その分なのか、かなり自由な風土のようで、釉薬の色など基本の型はあるものの、それに則らなくても良いとされている。実際に個性豊かな作品が多くて、見ていて全く飽きがこない。なんなら益子の土を使わなくても良いとか。都心からも比較的行きやすいので、関東圏にお住まいの方は是非今度益子の陶器市に行ってみていただきたい。

ところで、この益子の陶器市に、不思議な焼物売りがいた。

益子駅から陶器市の会場までは1km以上離れているのだが、歩いていく途中に構えて焼物を置いている男性がいる。50代か60代だろう。メインの会場からは離れているがそちらは大混雑なので、歩いていけば最初に見つかるというのはかなり良い立地だろう。友人の家の庭を借りているらしい。

しかし作品をみながら話を聞くと、どうにも不思議なことを言うのだ。

まず、自分の作品は益子焼ではなく、xx焼 (非常に有名な産地) だと。益子の土は質が悪くて使いづらいから使わない。といきなり益子焼をdisり始める。

続いて、今度は益子の体制について文句を言いはじめる。曰く、益子焼はルールがなくて誰でも参加できるから、競争が激しすぎて、益子焼の作家は食っていけない。隣の笠間焼のように作家を守る仕組みを作らないと益子焼は衰退する、と。

まあいずれも "一理ある" 。一理あるマンと名付けよう。だけど、だったらなんでお前は益子の陶器市にあやかってここで陶器を売るのか。益子焼のルールが厳しくなったら真っ先に追い出されるのはお前だろうと。

自分の作品は益子焼ではないなどと言い張って、益子焼やその仕組みを批判しておきながら、自分はちゃっかり益子に恩恵を受けている。それを矛盾だと思わないのだろうか。どうなんだ一理あるマンよ。

で、帰ってから同僚の @nobuhikosawai にその話をしたんだけど、それを聞いて彼が「ずいぶんマインドの低いxx焼だな」と言っていて、なんかこうその表現が妙に気に入ったので使っている。伝統芸能とビジネス用語のギャップがどうにもツボに入っただけなのだが。

その1年後くらいに、その同僚と一緒に益子の陶器市に行った。その時もマインドの低いxx焼氏はそこに居た。今度は30分近く話を聞いたんじゃないかな。彼はまた上のような愚痴を、前回より3倍くらいに盛って一通り話したあげく、最後はなんと自民党ガー、安倍ガーと言い出したのでさすがに聞いてられなくなってそこを後にした。

彼はもう一生このままなのだろう。

益子町が用意している、自由に作陶し出品できる枠組み。日本の政治によってもたらされている様々な恩恵。そういうものにただで乗っておきながら、その自覚がないからご立派に文句だけは言う。益子が悪い。安倍が悪い。そうだね、一理あるよ。でもお前に言われる筋合いはないんじゃないかな。

彼のようにならなくて良かった、という思いが自分の頭の中をぐるぐると回る。親が真っ当に教育を受けさせてくれて良かった。一緒に働いた同僚たちがいつも前向きな態度を取る人たちで良かった。社長がダニング・クルーガー効果を力説するおかげで、人間の認知の問題について考えられるようになって良かった。おかげで、自分は今後いくら年をとって朽ち果てようとも、ああはならないだろう。ならないと信じたい。

そこからちょっと歩くと、その場所で伝統的な益子焼の作陶を数十年続けておられる作家さんのお店がある。作品の出来は、素人が見ても、天と地の差であった。

noteの通貨流通量を増やしていきたい!!