【ヨーロッパ】ヨーロッパはあたらしい西洋的専制主義の中心となるだろう/ソウザ・サントス

以下は、ウェブマガジンZNET2015年7月22日記事、ボアベンチュラ・ソウザ・サントス「ヨーロッパはあたらしい西洋的専制主義[ウエスタン・ディスポティズム]の中心となるだろう」(Boaventura de Sousa Santos , Europe will be the epicenter of a new Western despotism)の部分的試訳です。原題はFatal Test。ここではVersoブログに転載されたさいのタイトルを利用しています。誤訳、精緻化のご指摘いただけたら幸いです。(Q)

(https://zcomm.org/znetarticle/fatal-tests/)

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ヨーロッパは未来の実験場と化してきた。そこでテストされていることは、すべての民主主義者ととりわけ左翼に属するすべての人間の関心のタネだろう。二つの実験がいまこの実験場——ということは管理されていると想定されている———では進行中である。

第一の実験は、デモクラシーへのストレステストである。その主導仮説は次のようなものだ。強力な国の民主主義的意志は、弱体である国のそれを、非民主主義的に打ち砕くことができ、しかも、ヨーロッパの政治世界に傷をつけることがない、と。この実験の成功のための条件は三つである。1)世論を操作して、強力な国の国益をヨーロ圏の共通利益に仕立て上げること。2)選挙によらない制度の多く(ヨーログループ、ヨーロッパ中央銀行、IMF、ヨーロッパ委員会)にたのんで、支配国の強制的命令にそぐわない民主主義的決定を中和し、罰すること。3)弱体な国を悪魔化して、他のヨーロッパ諸国の有権者から、とりわけ、次に服従しなさそうな国の有権者からの同情をあたえないようにすること。ギリシャはこのひどく不快な実験のモルモットである。私たちが目の当たりにしているのは、21世紀で二番目の植民地的占領なのだ(最初のそれは2004年のハイチにおける国連安定化ミッションである)。これは新ブランドの植民地主義であり、たとえ前代未聞の脅迫のもとといえども、被占領国の同意をもって実行されている。そしてかつての植民地主義とおなじように、これが被占領国の最大の利益である、という正当化があたえられている。これは現在進行形の実験であり、ストレステストの結果は不確かである。実験所とは異なり、社会は管理された環境ではない。どれほど統制のもとにおこうとする圧力が強かったとしても。ただし、一つのことは確実である。実験が終わったら、その結果がいかなるものであろうと、ヨーロッパはもはや平和、社会的一体性、デモクラシーのヨーロッパではないだろう。そのかわり、それはあらたな西洋的専制主義[ウエスタン・ディスポティズム]の中心となるだろう。その残酷さは、かつてカール・マルクス、マックス・ウェーバー、カール・ウィットフォーゲルの分析した東洋的専制主義[オリエンタル・ディスポティズム]のそれに匹敵するものとなろう。

進行中の二番目の実験は、ヨーロッパ左翼にむけた最終解決のエクササイズである。その主導仮説は次のようなものだ。ヨーロッパには、支配国が課す緊縮政策へのオルタナティヴを要求するかぎり、左翼に存在の余地はない。この実験の成功の条件は、三つある。1)不服従のそぶりをみせる者を手ひどく罰することで、左翼政党を予防的に敗北させておくこと。2)左翼政党は自分たちを代表していないと有権者におもわせること。これまで「われわれの代表はもはやわれわれを代表していない」という発想が、インディグナドスやオキュパイ運動の旗印となる争点だった。それはもちろん、右翼政党やその同盟者にむけられていたわけである。ところがシリザが緊縮の毒にんじんを飲まされたいま———シリザみずから提案したギリシャの国民投票の「ノー」にもかかわらず———有権者が、蓋を開けてみれば、左翼政党も代表しそこねいるではないか、という結論にいたるのは確実だろう。3)三つ目の条件は、左翼をプランA対プランBの誤った選択に封じ込めることである。ここ数年、左翼はユーロに留まるほうがいいのかユーロから出て行くほうがいいのか、の二つの意見のあいだで分裂してきた。 幻想だ。ユーロを整然と秩序ある方法で脱出できる国は存在しない。おなじことは負債の組み直しについてもいえる。これも左翼にとっての大きな分岐をなすトピックになってきた。幻想だ。組み直しがあるとしたら、それは債権者の利害にかなうときだ———もう一つのこの左翼の旗印がいまやIMFの政策になり果てた理由がこれだ。

この実験の結果もまた、上に述べた理由から不確実である。しかし、一つだけたしかなことがある。この実験を生き延びるには、いま現在、想像可能であることを超えたところに、左翼は自分自身を再構築する必要があるということだ。それは多くの勇気と、大胆さと、そしてたくさんの創造性を必要とするだろう。

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