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【歌壇賞応募作】山城周30首連作「山羊と羊」

長母音やぼったければこのごろは突発過眠症【ナルコレプシ】と呼ぶようにする
寝入りばなわたしのなかにいるわたしのなかに入ってゆくのはわたし
生きている魚食むここち洞穴のごとく大口あけさせられて
鱗うすくかたく歯につきやまずいる虫たちの翅こぼれだすまで
骨と骨のすき多くあり翅もてるものは通ってゆけるすきあり
治療だとおもわず休みなさいという声しみこまぬ合皮のソファ
休むとはねむりにあらずそのさきに脱けねばならぬ森暗くある
水飴にひふくるまれてひふでないひとのみ歩みゆるす夢ぬち
訃報には死因を添えるものゆえと死因問うとき醜きつばき
なにがわたしを女に見せるどの服もみずからの重さに崩れゆく
なにがわたしをひとに見せるかどのひとも顔に顔のせねむる車内に
せめてものさいわい探す口ぶりの石拾っては石捨てるのみ
透明なふくろに小蠅まねきいれわれらおおきなふくろにはいる
夢に見るものも夢ののち見るものも湯に舞う麺のようにかなしも
立たされる 皮膚にあく穴、穴すべてに目玉ひらきてわれを見つめる
箴言を吐くのはやめていたずらに異形愛でれば異形よろこぶ
沈黙はやはり悪かも麺ゆれて羊のあぶらにげるスープに
くびられてにおえる草をぬるい夜の底に横たえ見えなくなりぬ
夢と死のあわいの人があがりくる岸辺にうすく藻は濡れている
血があまり多いと凪いだ気持ちになる暴行さらす写真流れ来
かわいがることは嗜虐よ肉屋から羊のあたまもらって帰る
水こぼすようにかたむくことごとく耳の奥では割れる蟹、蟹
祖母からはどれもピイ子と呼ばれおり折れた趾【ゆび】持つ一羽のピイ子
魚卵のような餌透けている気味悪さちさきピイ子ののどぶくろ見ゆ
父殺す夢見なくなりあらわれるひとおのこなればわれを犯せり
Good girls go to heaven(えいえんの)(おろかものらは)(ちをちとしらず)
Bad girls go everywhere(いっしゅんの)(よろこびのため)(だれがころすか)
おまえは山羊と羊を見分けられるのか鋭き草にふくらはぎ削がせるか
のぞまれることをのぞんで頸【くび】に手が添うとき山羊のような気持ちだ
よく燃える石を私は投げるから絶対にこの世では拾うな


第30回歌壇賞予選通過作品をそのまま公開しています。


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