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【歌会録】魂はちいさき鳥の形して雌雄をわける鑑別師の魂

魂はちいさき鳥の形して雌雄をわける鑑別師の魂

鳥居 魂は小さい鳥、ひよこみたいな形をしていて、その魂の雌雄を分ける鑑別師という存在があるんですよ。魂にまで雌雄を分けるっていう傲慢な存在。でも多分その鑑別師の魂も鳥の、ひよこの形をしているんだろうなっていうのが面白いと思って取りました。
川野 はじめこの魂は死後の魂のことかと思ったんですけど、生前の方が面白いかなって。体の中に魂があってそれは鳥の形をしている。それでひよこ雌雄鑑別師みたいな人が、お前は男でお前は女って鑑別していく。雌雄を〈わける〉と言っているから、鑑別する行為、男だ女だっていうカテゴリーに当てはめる行為自体が雌雄を〈わける〉ことなんじゃないかって。魂と鳥のイメージは近いところがあって、そこに生まれる前の魂に性別があるかっていう問題と、鳥の雌雄鑑別という、二つの文脈が流れ込んで統合されているのも面白いところなんじゃないかと思いました。ただ、鳥になって飛んでいくイメージがあるのは死後の魂ですよね。それに対して内容的には生前の方がすっきり読める。生前だと、天国では雌雄がないのに生まれると与えられてしまうっていう感じで。死後だと、一旦肉体から解放された世界に行ったと思ったらまた雌雄を分けられるっていう……。
斉藤 つらい。
鳥居 つらい。
川野 つらい……(笑)面白いと思ったところは、鑑別師、じゃなくて鑑別師〈の魂〉なところ。〈鑑別師あり〉だと、神的な、一段上の存在である〈鑑別師〉になってしまって、性の存在が動かしがたくなるけれど、他の魂たちと同じ地平にいるのに鑑別師をやってるっていうのがいいなと思って。あと〈雌雄をわける鑑別師の魂〉の「し」の音がいいですね。〈鑑別師の魂〉は十音で結構長いんですよ。このちょっと耳障りな感じが合ってる。〈ちいさき鳥の形して〉は与謝野晶子の〈金色のちひさき鳥のかたちして銀杏ちるなり夕日の岡に〉ですね。
斉藤 〈魂〉が最後に来ると、焦点がぼけるんじゃないんですかね? 最初の〈魂〉は人間の魂だとして、〈鑑別師〉も人間かなと思うんですが、最後〈の魂〉で終わって、じゃあその魂はなんなんだって。
鳥居 鑑別師の魂も分けられているんだよ。死後か生前かっていう話だけど、私は生きている途中のことかと思って。鑑別師の魂の中にも鑑別師がいる。
斉藤 私が気になったところは〈鑑別師〉という言い方をする以上、魂に元々雌雄が内在していて、それを鑑別師が見分けるっていうことになってしまうんじゃないかってことです。川野さんは鑑別師が雌雄を〈わける〉に着目して、この歌が性別の恣意性を詠っていると仰っていましたが、それは希望的な読みなんじゃないかな。〈鑑別〉という言葉を文字通り読むとむしろ性別が先天的に存在しているという思想であるように私には思えて、この歌とは思想が対立しました。
川野 〈鑑別師〉が先に出てきたらその可能性もあったけど、〈わける〉が先にあったから。でも性別という概念への疑問が読者の中にそもそもなければそうは読まれないのかも……?
斉藤 バイアス抜きでこの歌が読める社会は五千年後には到来するかもしれないけど、今はまだ二〇一六年ですからね。
山城 斉藤さん、ディベートで仮想敵になってくれる人みたいですね。
斉藤 川野さんの読みは、この歌が鑑別師という既存の概念を塗り替えているっていうことだと思うんですけど、二〇一六年においては既存の概念の方が強いかなと。〈雌雄をわける〉っていうワンフレーズだけでも、「あっ雌雄を『分ける』!? 人為的じゃん!」ってなるんだけど、それがない人だと、「あっ雌雄鑑別したんだー『見分け』たんだー」で終わっちゃうようにしか読めないのではと思ってしまうよ二〇一六年だから!!!!!!
川野 〈鑑別師〉って言葉があることで、ひよこ鑑別師も性別を見分けているのではなく分けているのだな、天国だけでなくて地上にも鑑別師いるんだなって思っちゃうんだけども。
斉藤 それはなぜかっていうと、川野さんが読むときに〈雌雄をわける〉ですでに、「雌雄! わける!! 鑑別師!!!!」ってなるからじゃないですか。
川野 〈魂〉って出て来たと思ったら〈雌雄〉が出て来て、「さっきまで魂だったのに、楽しかったのに、あ『雌雄』……つらい……」ってなっちゃう……。(一同爆笑)

解題:
魂はちいさき鳥の形して雌雄をわける鑑別師の魂 (山城周)

この歌会録は2017年1月に公開されたネットプリントQuaijiu Vol.1の再録です。


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