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鬼とペルソナ

イベントが苦手だ。というか興味が、ない。
クリスマスとかバレンタインデーとかハロウィンとか誕生日とか記念日とか、ちゃんと楽しみながら祝った記憶があまりない。

しかし、唯一好きなイベントがある。それは「節分」だ。

いまの奥さんとつき合っているときから、イベントは基本的にガン無視を決め込んできた感があるが、節分だけはけっこうちゃんとやっている(というか、「いまの奥さん」というと「前の奥さん」がいたかのようだが、れっきとした初婚です。……何の話?)。

そう、節分。

もち投げとか、豆まきとか、トマト祭りとか、だいじなだいじな食べ物を投げるという、狂おしき非日常感が最高だ。
鬼が家にやってきて、それに豆を投げて追い払うというファンシーな感じがたまらなく好きだ。
イワシを焼いた煙で目が痛いとか、鬼、どんだけ弱いんだ。

かくなる上は、一家の主として、節分を厳かに祝いたいと、そう思った次第。

―――

(うちの息子は3歳。ものごころがつき始めているような雰囲気を醸し出しており、1〜2歳くらいの記憶をものすごい勢いで捨てている。ものごころがつくというのは、昨日の自分と今日の自分が同じであるという統覚意識の発達であると同時に、それまでの膨大な記憶の大量廃棄と表裏一体だ。が、これはまた後日する話)

―――

僕「KAIくん、今日は何するの?」

息子「今日はプラレールしよっか? お父ちゃんとKAIくんでプラレールの線路、ながくなが~くしよっか?」

僕「でもお父さん、今日お仕事だわ(というか1月4日から1日たりとも休まず営業中だわ正直フラつくわ)。また土曜日にやろうね(休日出勤だけどね)。なが〜〜〜い線路ね。KAIくん、あとは今日、何するの?」

息子「わからない(怒)」

僕「わからないの?」

息子「わからない!」

僕「そっか。KAIくん、今日、節分だね。節分、知ってる?」

息子「わからない!」

僕「鬼が来るやつ。KAIくんのウチにも、鬼、来るかもなあ……」

息子「来ない! 鬼、来ない!」

僕「来ないかなあ、でも節分だからなあ。もし鬼が来たら、怖いね。『ガオーっ』って言って、玄関から入ってくるからなあ。たぶんお母さんのこと連れて行こうとするね。怖いやろなあ。やっぱりKAIくんは泣いちゃうんだっけ??」

息子「KAIくん泣かない!」

僕「泣かないの? 鬼が来たらどうするの?」

息子「わからない!」

僕「わからないの? でも、鬼、来るだろうなあ。怖いなあ」

息子「わからない!」

僕「……そうかあ…………じゃあ…まあ、いいか。……パン、おいしいなあ」

息子「………?」

僕「ん?」

息子「来るの?」

僕「ん? 何?」

息子「……鬼、来るの?」

僕「…うん、夜になってくら〜くなったら、ドンドンって玄関叩いて来るんじゃないかあ……」(ニヤリ)

息子「来るの? 本物の鬼?」

僕「(ん?)ホンモノだよ」

息子「本物? お父さんがやってるのじゃない鬼が来るの?」

僕「(!!…えっ?)鬼はいるよ。(……えっ、お父さんが、何?)か、KAIくんが言ってること、お父さんはわからないけど……うん、鬼はいるよ」

息子「……(何か思案する表情)……じゃあ、KAIくん、鬼が来たら豆でやっつけるね!」

僕「(豆撒き設定とかは知ってるんかい!)うん、頼むね。お母さん連れていかれないようにね!!」

(なんだこいつ……去年2歳だったからどうせ全部忘れてると思いきや、鬼の正体、知ってるのか……本かなんかで読んだのかな……全部知っているうえで、最後、父親サイドの空気読んでノリを合わせてきやがった感じがする……いや、考えすぎだ、夜にホンイキの鬼が出てきたらさすがに泣くはず!)

―――

(そして、夜…早めに会社から帰宅。玄関前で着替え。
ドアノブにかけられたビニル袋の中に
鬼のお面が入っている←嫁アシスト)

僕「ガオ~(MAX!!)」

息子「…」

(いまいちやる気のない表情で、
数粒、マメを投げてくる。
鬼、退散。
数分後…)

僕「ただいま~」

息子「おかえり。今日はお仕事、ちょっとしかしてこなかったの?」

僕「(いつもは深夜帰宅だからな)うん、今日はちょっとだけお仕事してきたよ(それもどうかと思うがな)」

息子「お父ちゃん、鬼、こわかったね」

僕「ん? 鬼、やっぱり来たんだ」

息子「うん。鬼、こわかった」

僕「そっかー。でもKAIくんが追い払ってくれたの?」

息子「うん。豆投げて『鬼は外!』ってやったよ!!」

僕「(いや、あなたずっと無言でテンション低かったよ…)そうかー、お母さん連れて行かれそうだった?」

息子「うん。鬼、こわかった」

僕「でも、もうどっか逃げていったからよかったね。ご飯食べようね」

息子「うん、でもKAIくん、鬼、怖かった。鬼、どこに帰ったの?」

僕「(くっくっく…かなり効いたようだな!)そんなに怖かった? たぶん鬼ヶ島に帰ったんじゃないかなあ。まあ、ご飯食べよっか?」

息子「でも、KAIくん、鬼、こわかったの!」

僕「(うひょ~、効き目、バツグンやないか。やはり鬼は最強コンテンツや。節分、BANZAI!! VIVA LA SE-TU-BU-N!!)うん、でももう大丈夫だよ。ご飯食べよ」

息子「……うん、食べる」

僕「そうしようね」

息子「……お父ちゃん?」

僕「ん?」

息子「お面はカバンの中にあるの?」

僕「っ!! えっ、何のお面?」

―――

【教訓:3歳児でも、たいていのことは、わかっている】

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