見出し画像

言葉の意味、捉え方、ひとそれぞれ、残酷

ロシアのハバロフスクに行った時につけていたメモ帳を読み返していて色々思い出しました。


ハバロフスクに郷土歴史博物館なる場所が在りまして、


行ってみようと思い立ち、ネットでその日が開館日であることを調べたうえで博物館を訪れました。


それで博物館の入り口のドアを開けたところ、広いフロアのど真中で博物館の職員らしきおばちゃん二人がなにやら言い争いをしていて、


何事だと怖気づいている私の存在に気が付くやいなや、一人のおばちゃんがものすごい剣幕でこちらをにらみつけてきまして、


「今日休みや」


と言ってきました。


え、でも今日開館日だと調べてきたんですが、とスマホを見せながら伝えると、


「知らん」


と、あまりに理不尽な追い払われかたをされ、泣きながら後にすることになったこの博物館に翌日再び行ったときの話です。



こんな追い払われ方されたら普通絶対に行きたくない気持ちになるところではありますが、


ここで逃げたらあかんと気持ちを奮い立たせて、追い払われた翌日、再びその博物館を訪れました。


その日はしっかり開館していた博物館。


中に入ると、昨日鬼の形相で、無慈悲、理不尽、残酷さを私に投げつけたおばちゃんが受付に立っているではありませんか。


昨日とは打って変わって、笑顔でお客さんにチケットを渡しているおばちゃん。


「絶対に私は笑顔をむけてやらない」


ふつふつと湧いてくる昨日の出来事の怒りから私はそう自分に言い聞かせました。


仏頂面でおばちゃんに入場料を払う私。


おばちゃんから笑顔でチケットをもらうと、


ついさっき生まれた決意はどこかに消え失せて私は笑顔でおばちゃんにスパシーバしていました。


自分の意志の弱さを改めて痛感いたしました。


で、展示フロアへ進みました。


その郷土歴史博物館はハバロフスクの歴史、自然、動物、民族をなど扱う博物館で、


館内は厳かかつ洗礼された雰囲気を持っていました。


また、ひとつひとつのフロアがとても広く、


出し惜しみせずありとあらゆるものを展示しており、見る人を楽しませるに十分な見ごたえのあるものでした。


そのうちの一つのフロア、先住民族に関する展示フロアを見学していた時です。


ハバロフスク、というか極東ロシアにはロシア人がやってくる遥か昔から、ツングース系の民族、日本人と同じような顔つきのいくつもの民族が住んでおり、


現在も少数民族として各地でひっそりと暮らしているのですが、


その民族のうちのひとつ、ナナイ族に関する展示品の前に私は立ち止まっていました。


北海道のアイヌの服、文化、神話、精神などが非常に似ており、


ああ、やはりつながりがあるんだと、


遠い昔一つだった人々がきっと生活の地を転々として分かれていったんだなと


ロシアと北海道、離れた土地に生きる人同士が同じような暮らしをしていたのだなと


そんな思いを馳せることになり、


遠い土地へたどり着くに至る遥かな人の旅に畏敬の念を抱かずにはいられなくなっていました。


で、そのナナイ族の伝統的なお面というのが展示されており、


そのお面に何か惹きつけられる強い念を抱いた私は、持っていたメモ帳にその絵を描くことにしました。


すると、展示フロアの隅っこで座っていた館内員の太ったおばちゃんが、私のもとに近づいてきて、


絵を描いているメモ帳を覗き込んできたのです。


おばちゃんはそれを見て、うんうんと頷くと、


「ハラショー」


と笑顔で言い、私の肩をポンと叩いてまたフロアの隅っこへ戻っていきました。


ハラショーは日本語で「いいね」、英語での「GOOD」的な意味なのですが、


その時私が描いたお面の絵がこちらなんですよね。↓




画像1




私は仕事でロシア語を使っていました。


それなりにロシア語を話せる自信はあります。


それに加えて、教科書の1ページ目に載っているような初歩級の言葉である「ハラショー」


さらに言えばロシア語学習したことなくても意味は分かる、聞いたことがあるという人が多くいるのではと思われる「ハラショー」




調べ直しましたよね、ハラショーの意味。



私の知っているハラショーは決してこんなガラクタみたいな絵に使われる言葉ではないと。




私の絵と実物のお面の間に広がるどうにも埋めようがない溝。


その溝をさらに深くえぐる様に暴れ狂う激烈にして苛酷な一言。


おばちゃんの放ったハラショー。それは一体何を意味するのだろうか。


それがずっと頭の中で引っかかり、


その後の展示に集中できず、そのまま博物館を後にしたのでした。




この記事が参加している募集

おうち時間を工夫で楽しく

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?