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異射影星人と多世界解釈

先日、時間反転星に住む宇宙人について書いたので、今回は、異射影星人について書いてみたい。

異射影星とは

時間反転星が、地球に対して時間が反転している星であるのに対して、異射影星は、地球人とは観測時の射影の起こり方が異なる宇宙人が住んでいる星である。簡単のために2準位系のみとし、実験結果として、地球人にとってAかBの実験結果を示す実験装置を考えよう。すなわち、実験後に実験装置は、

$$
\alpha | A \rangle + \beta | B \rangle
$$

の状態になっており、測定装置を地球人が見ると、測定装置は$${| A \rangle }$$か$${| B \rangle }$$に射影が起こる。射影が起こった後、すなわち、例えば$${| A \rangle }$$の実験装置を再び地球人が見れば、実験結果がAであったことがわかる。

一方、異射影星人にとっては、射影の起こり方が異なるので、実験結果Aの状態は、実験結果Cの状態$${| C \rangle }$$と実験結果Dの状態$${| D \rangle }$$の重ね合わせ状態

$$
\gamma_a | C \rangle + \delta_a | D \rangle
$$

であり、異射影星人が状態$${| A \rangle }$$の実験装置を見ると、$${| C \rangle }$$か$${| D \rangle }$$の状態に射影が起こり、実験結果CかDが認識される(宇宙に多数の異射影星があり、その中からランダムに選ぶとすると、$${| C \rangle }$$も$${| D \rangle }$$も実験結果を示している状態ではなく、異射影星人にはそもそも実験装置に見えない可能性が高いが、それでは話が面白くないので、実験結果が得られるいると認識するぐらいには地球人に近い異射影星人を想定することにしたい。)。

当然、

$$
| A \rangle = \gamma_a | C \rangle + \delta_a | D \rangle
$$

である。

また、状態$${| B \rangle }$$も、異射影星人にとっては、$${| C \rangle }$$と$${| D \rangle }$$の重ね合わせ状態

$$
\gamma_b | C \rangle + \delta_b | D \rangle = | B \rangle
$$

であり、実験装置を異射影星人が見ると、実験結果CかDが認識される。

時間反転星は、地球を構成する素粒子の運動量ベクトルを反転させた状態として想像しやすが、異射影星は、どのような星なのか、まったく想像ができない。しかし、量子力学は、

$$
| A \rangle = \gamma_a | C \rangle + \delta_a | D \rangle , \\
| B \rangle = \gamma_b | C \rangle + \delta_b | D \rangle
$$

である$${| C \rangle }$$と$${| D \rangle }$$が存在することを否定しておらず(というか確実に存在し)、宇宙人が実験装置を見ることでそのような射影が起こることはあり得ないということも量子力学は証明できていない(私が知らないだけかもしれないので、$${| C \rangle }$$か$${| D \rangle }$$に射影が起こることはないという根拠をご存じの方は教えてもらいたい。)。そのため、異射影星があるという思考実験を行っても良いだろう。

異射影星から地球への訪問者との会話が意味すること

異射影星人が作成したAIは、たぶん、異射影星人と同じように射影を起こすだろう。そのAIを搭載した異射影星のアンドロイドも同じように射影を起こすだろう。そのアンドロイドが、宇宙船に乗って地球に来たとしよう。

異射影星アンドロイドと地球人が会話できる可能性は常識的に考えてないのだが、会話できないであろうことは、時間反転星人についても同じである。しかし、堀田さんの投稿「ある1つの時間の矢のパラドックス ~時間反転星に地球から宇宙船が到着する時~」では、時間反転星人と話せる感じなので、本投稿でも地球人と異射影星アンドロイドは話ができるとしよう。

当然ながら、地球人が異射影星アンドロイドに「この実験装置が示している実験結果はAですよね」と聞くと、「そんなことはないよ」とアンドロイドは答えるだろう。さて、このことが意味していることはどういうことだろうか?

それは、堀田さんが「量子力学に「観測問題」は存在しない」に書いている「『観測者』は人間でないとダメということはありません。測定器やAIでも量子力学は同じ答えを出します。」が必ずしも正確ではないということだと私には思われる。

地球人とは異なる観測結果(異なる答え)を出すAIはありえるということである。地球人にそうしたAIを作ることはできないかもしれないが、地球人とは異なる観測結果(異なる答え)を出すAIが物理的にありえないというわけではない。また、実験装置そのものが答えを出しているわけではない。同じ答えを出すには、地球人、地球人が作ったAIである必要があるということである。技術が進めば、地球人が異射影星人と同じAIを作れれようになる可能性も原理的には否定されていない(否定する物理法則は知られていない。)。

異射影星の存在が物理原理で禁止されている場合

逆に、堀田さんの「『観測者』は人間でないとダメということはありません。測定器やAIでも量子力学は同じ答えを出します。」が正しいとすると、異射影星人は物理的に存在しえないということである。それは、どういうことであろうか?

それは、堀田さんが書いている下記の記載が正しくないということを意味しているだろうと私には思われる。

宇宙全体の波動関数において他の自由度を全部無視して(数学的に言えば部分トレースをとって)観測者の記憶領域だけの量子状態を求めれば、それはほぼ古典的状態の確率混合になっている。

これがデコヒーレンスである。

分岐した世界の間の量子干渉がなくなる、または干渉が観測されなくなるとも表現される。

しかしこれは先の「人間の意識が時々刻々確率的にただ1つの体験を選択経験する」ことを導いたことにはならない。

一つの理由としては、東大の清水明さんもよく強調するように、混合状態の分解の仕方が一般に一意でないことが挙げられる。

https://mhotta.hatenablog.com/entry/2015/02/04/074443

「『観測者』は人間でないとダメということはありません。測定器やAIでも量子力学は同じ答えを出します。」が正しいすると、実験装置の分解の仕方は、

$$
p_a | A \rangle \langle A | +
p_b | B \rangle \langle B |
$$

に物理的に決まる。たとえ、

$$
p_a | A \rangle \langle A | +
p_b | B \rangle \langle B | = p_c | C \rangle \langle C | +
p_d | D \rangle \langle D |
$$

であったとしても、未知の物理法則があり、分解のされ方は、

$$
p_c | C \rangle \langle C | +
p_d | D \rangle \langle D |
$$

ではないということである。すなわち、堀田さんの「混合状態の分解の仕方が一般に一意でない」は正しくないということである。測定器でも量子力学は同じ答えを出すということは、測定器の混合状態の分解の仕方が一意であるということである(これは、「測定器でも量子力学は同じ答えを出す」という日本語の私の解釈によるものであり、「測定器でも量子力学は同じ答えを出す」の堀田さんによる解釈では分解の仕方が一意であるということを意味しない可能性があることを補足しておきたい。)。

多世界解釈の妥当性

量子力学の多世界解釈という考えが出てきたり、堀田さんが「『観測者』は人間でないとダメということはありません。測定器やAIでも量子力学は同じ答えを出します。」と書いたりするのは、実験装置の混合状態の分解の仕方は一意であると無意識に考えてしまうためではないかと私には思われる。「『観測者』は人間でないとダメということはなく測定器やAIでも量子力学は同じ答えを出す」のであれば、量子力学の解釈方法は多世界解釈でも良いと私には思われる。現在の量子力学では、混合状態を一意に分解する方法は知られておらず、したがって、異射影星人の存在は否定できず、多世界解釈は不適切なのだと私は思う。地球人と異射影星人にとっての世界は異なっており、地球人と異射影星人に共通する客観的な世界などありはしない。従って、多世界解釈は誤っている。異射影星人という思考実験により多世界解釈は否定されるのである。

最後に私にとって本題でない物理学について

私の感心は量子力学の解釈論(哲学)であり物理学ではないし、あまり難しい数学はできないので取り組むつもりはないのだが、物理学としては、「混合状態の分解の仕方が一般に一意でない」で思考停止せず、我々が見聞きしているマクロな状態は、一意に混合状態が分解されているように思えるので、どのような手順、ルールで分解すれば我々が見聞きしている世界に分解されるのか研究するのが良いのではないかと私には思われる。

「混合状態の分解の仕方が一般に一意でない」ことについては、以下のような投稿もnoteにはある。密度行列を導入したのがランダウだったとはこの投稿を読むまで知らなかったが、ランダウも分解は一意でないで止まっており、どうしたら(どういう条件をかしたら)一意になるかは考えていなさそうである。

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